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【掌編小説】「お父さんの仕事」って宿題、全部想像で書いた(1538文字)

私が小学校3年生の頃、「お父さんの仕事について作文を書いてきましょう」という宿題が出た。
今でも、あのときのことを時々思い出す。

当時の私は、父が電力会社で働いているのは知っていたけれど、どんな仕事をしているのかまでは、よく知らなかった。
「お父さん、仕事で何してるの?」と聞けば、きっとちゃんと教えてくれる。
でも、夜帰ってきて、ごはんを食べて、ちょっと疲れた顔でソファに座っている姿を見ると、声をかけるのが申し訳なくなってしまった。
それに、なんだか照れくさかった。わざわざお願いして、目を合わせて真面目な話をするのが、気恥ずかしかった。

だから私は、自分で想像して作文を書いた。

ぼくのお父さんは、電気をつくるしごとをしています。
朝いちばんに会社でスイッチを入れると、火や水で発電する機械が動きはじめます。
できた電気は長い電線を通って、家や学校にとどきます。
もし雷が落ちたりして止まったら、お父さんがモニターで見つけて、修理の人に連絡します。
だからお父さんのしごとは、とても大事なしごとです。

作文を書いたあと、「ちょっと違うかもしれないけど、そんなに間違ってもないはずだ」と思った。
提出から数日後、作文が返却された。先生は「お父さん、大変なお仕事ですね。いい作文でしたよ」と褒めてくれた。ちょっとだけ自信を持った。


それからしばらく経った週末のある日の夕飯時、唐突に母が言った。

「ねえ、学校でお父さんの仕事の作文書いたんでしょ?テツヤくんのお母さんが読んだって言ってたよ」

しまった、と思った。そんな情報が入っているなんて。

「お父さんに見せたら?」

逃げようとしたけれど、父は新聞を置いて、にこにこしながら言った。

「読ませてくれよ。気になるなあ、何書いたか」

私は渋々作文を持ってきて、テーブルに置いた。
想像で書いた作文。それは“見られてはいけないもの”だ。
私は父の反応が恐ろしかった。「全然ちがう」とか「なんで聞かなかったんだ」とか、きっと怒られてしまう……。

だが、父は作文を読みながら笑っていた。

「電気を作って、送って、修理の人まで呼ぶのか。なかなかプレッシャーのかかる仕事だな」

すると父は、キッチンからメモ用紙を持って来て、ペンで何かを描き始めた。

「俺が働いてるのは“変電所”っていうところな。発電所で作った電気はそのままだと電圧が高すぎて危ないんだ。だから一度ここでちょうどいい強さに変えてから、いろんな場所に送るんだよ」

紙には、発電所、変電所、電柱、家、みたいな絵が描かれていた。

「雷が落ちたり、電線が切れたりしたときは、電気を安全に止めたり、ほかの道に切りかえたりする必要がある。そういうとき、機械が自動で動くこともあるけど、どこまで止めるか、どう流すかっていう判断は、最後は人がやるんだよ」

それは、理科の授業よりもずっと分かりやすかった。

……やっぱり、聞けばちゃんと教えてくれた。
それは最初からわかっていた。
でも、わざわざ時間をとらせるのが申し訳なかったし、やはり真面目な話をするのが、どうにも気恥ずかしかったのだ。

作文はもう提出してしまっていたし、出し直すこともできない。それなのに、父は笑って受け止めて、きちんと絵まで描いて教えてくれた。
ただ間違いを正すんじゃなくて、私の想像をなぞるようにして、「こうなってるんだよ」と静かに話してくれた。

あの夜のことを思い出すたびに、胸の奥が痛む。
うれしくて、恥ずかしくて、申し訳なくて、なぜかちょっと悲しい、そんな気持ちがぐるぐるまざった夜だった。

もし、もう一度、あの宿題が出された日に戻ったら――それでもやっぱり、同じように黙って作文を書いてしまう気がする。
あれは、小3の私にとって、父に対する愛情の精一杯だったから。

(了)


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