【S-books 5】『勝つ、ではなく、負けない--結果を出せず、悩んでいるリーダーへ』(幻冬舎)
サッカーにまつわる多種多様なおすすめの本を紹介する連載企画「S-books」。
さまざまな視点でサッカーをさらに楽しむため、今回は黒田 剛監督の一冊をセレクト。読むほどにさまざまな世界で応用できそうな視座やアイデアに富んでいることに気づく良書である。よりよいチームビルディングの参考に手にしてみてはいかが。
妥協を許さないゼルビアサッカーが、どうやってつくられたか
2023年にFC町田ゼルビアの監督に就任するやいなや、J2優勝、J1昇格を成し遂げた黒田 剛監督。2024シーズンJ1で大躍進を遂げ、2025シーズンもこれまで上位につけているゼルビアがなぜ強いのか、この一冊から読み解くことができる。
2024シーズンのゼルビアは勝ち点を積み重ね、シーズン折り返しの第19節終了時点で首位に位置し、最終的には3位になる活躍をした。ときには批判や誹謗中傷に発展するような、異端といっても過言ではない強さを見せ、旋風を巻き起こした。
強さの土台は「一切妥協せず、徹底的にディテールにこだわること」にあると思う。それは2024シーズン第11節の柏レイソル戦にも表れていた。前半9分のオセフンの得点シーンを見てほしい。
ハイライトの1分30秒付近、ゼルビア鈴木準弥の素早いスローインからポケットにいた荒木駿太がダイレクトでパスを落とし、オセフンがシュートを撃ってゴールを決めた。
2024シーズン、ロングパスやロングスローを多用していたゼルビア。そのことが影響したかわからないが、レイソルの選手たちはスローインになった一瞬、ふっと気を抜いていたと思う。対するゼルビアの選手たちは素早く再開させて得点に結びつけ、試合は2-0でゼルビアが勝利した。
本書のなかでも「リスタートを甘く見ているチームは、リスタートに泣くことになる」とリスタートの重要性を説いている。レイソルにとってまさにリスタートに泣いたワンシーンではないか。
J2で15位の弱小チームを変えた「良い習慣」
「組織」「チームマネジメント」「言語化」「育成・指導」の4つの章で構成される本書。この構成の流れは、ロングボールで中盤を一足飛びするゼルビアのサッカーとはまったく異なる丁寧な展開で表現されており、心地いいくらいにスムーズだ。
2022年に前任の監督のもとJ2で15位に終わったゼルビアを、黒田監督がどのように変革していき、意識を転換させていったのか、各所にさまざまなアイデアが散りばめられている。
まず黒田監督は選手たちへ「良い習慣」を求める。これが身につくことで、原理原則を徹底し、妥協を許さないゼルビアのサッカーが形づくられる。
「『悪い習慣』は無意識に発動されるので、組織において『悪い習慣』を放置しておくと意図する結果は期待できない」といい、「良い思考や行動」を「継続(意識的)」することで、「良い習慣(無意識)」を身につけられるとしている。
この習慣の話のパートでは「スポーツ選手と思考の関係」にも触れている。たとえば失敗したときの矢印をどこへ向けるか。
そのポイントを、
「・原因は必ず自分にある
・評価は他人がするものである
・自分はまだ評価に値しない」
と表現し、この矢印を自分に向けない限り、今以上の成長も限界値を超えることも絶対にないとしている。
習慣や意識づけの内容は、サッカーに限らず参考になる読者が多いのでは。
「スタッフワーク」と「シナジー効果」。アノ問題をどう考えるか
週刊誌の報道をきっかけに、黒田監督からコーチへのパワハラがあったのではないかと話題になっている。
サッカーは、すべての試合と一部の練習でしか第三者である私たちの目に触れる機会がないので、クラブがどのようなサッカーをめざして、どんな準備をしているかを知る機会は少ない。だからこそ、試合を観てチームがどのような狙いをもっているか「想像する楽しみ」も生まれる訳だが、見えない現場でハラスメント行為があったとしても正確に知る術がない。パワハラは客観性、セクハラは主観が重要ということで、蚊帳の外の私たちはアレコレ言わずJリーグの調査を待つ他ない。
ただし、黒田監督がチームをどうマネジメントして、スタッフワークを行い、選手たちのシナジーを得ているか、本書からその一端を読み解くことができる。とすれば、批判や誹謗中傷をする人ほど読むべき一冊になるということ。この矛盾関係には、いっそ痛快ささえ感じる。
第1章の組織編で、習慣や意識の徹底のためにスタッフと一体となることの重要性や、25年ほど前に遡るキンミョンヒ前ヘッドコーチとの出会いや思いを語り、第3章の言語化編では、「言葉のチョイス」や「伝えるタイミング」を解説している。第4章では「感情のコントロール」やサッカーでの「チャレンジとギャンブルの違い」などを紹介。さらに「Z世代と上手に接するアイデア」まで教えてくれる。
2023シーズン後に引退し、2024シーズンからアンバサダーとして活動している太田宏介さんは、黒田監督を「本当にストレートに言う方。上手に言い方を変えて誤魔化すような人ではありません。忖度もありません」と表現。選手やスタッフの想いを力に変え、奮起させるために黒田監督が実行していることを、太田さんの言葉で表現している。
興味を持った方は、擁護も批判もいったん脇において、ぜひ一読してみてほしい。きっといくつかのポジティブなアイデアを得られるだろう。
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