伝説のヤンキーに立ち向かって学校をボイコットしたら、ちいかわになった話
地元の田舎には伝説のヤンキー三兄弟がいた。
彼らは郷田三兄弟と呼ばれていて、その末子である郷田タケル(仮名)は私の同級生だった。
タケルは小学生のときはモヒカン・赤髪。中学に入ると緑色の長髪、かと思えば坊主に剃り込み。髪型の履歴だけで卒業文集が書ける男である。
運動神経は化け物級、学業は算数の分数でつまずいたまま帰って来ない。さすがに校舎をバイクでヒャッホーすることはなかったが、町では「カグヤ姫」(仮名)と呼ばれるこれ以上ないくらいに恐怖心を駆り立てるネーミングの5人組激ヤバチームを作り、従者を従え弱い者をイジり先生にも牙をむく。
本筋とは関係ないが「カグヤ姫」は名前からして怖い。
普通、闇の組織は闇闇している。セオリー通りなら「東京卍會」とか「幻影旅団」とか「〇〇組」とか、いかにも怖そうな名前にするのが相場なところを、タケルたちの場合は人畜無害っぽい「カグヤ姫」ときてる。逆にセンスがあるわぁと感心する。
さて、郷田三兄弟。
郷田三兄弟の長兄はスバル君(仮名)。
年齢は雲の上、噂も雲の上。伝説の存在である。先生を音楽室で磔処刑にしたとか、教室でロケット花火を百本同時発射しながらサンバを踊ったとか、今は網走監獄の談話室で刑務官を従えて北海道征服を企んでいるなど、どの噂も真偽不明、荒唐無稽で確認する勇気もない。
次兄はリキマル君(仮名)。
こちらは私たちの3つ年上で、私は実物というか、伝説の御尊顔を見たことがある。中1のある放課後、自転車置き場の隅で英語の村田先生をボコボコにしていたのだ。
あわわ、あれが「お礼参り」なのか!?
平成の世に真性ヤンキーである。あのときは脳が現実を理解するより早く膀胱が意思表示し、制服のズボンにおしっこをちびった。夜、見てはいけないものを見てしまったと眠れないほどだった。翌日、顔を腫らした村田先生が理由を一言も語らなかったのが余計に怖かった。
そんな伝説的な、亀田三兄弟も真っ青のレジェンダリーな後ろ盾を持つタケルと、なぜか私は同じクラスになる確率が異様に高かった。
私は教室の隅でオリジナルすごろくをコソコソ進めては「ゲヘヘ」と笑うタイプ(もちろん)だが、タケルとはなぜか普通に話せた。とはいえ「お兄さん、本当に刑務所なんですか?」と某週刊誌の記者のごとく突撃インタビューするほど肝は据わっていない。母さんと父さんからもらったこの命が惜しいのだ。
中3になり担任が西原先生に替わった。
ベイマックスを茶色にしたようなふくよかな中年男性で、柔らかい体型に反比例して胃は常にカフェインとストレスで煮えたぎっている。なぜならクラスにはタケルがいる。タケルは「カグヤ姫」軍団とつるみ、教育実習で来ていた理科の山本先生(当時23歳、夢と希望で膨らんだ新人)を、私たちが見ている目の前でワンパンで再起不能にした。誰なんだ山本先生をこのクラスに配属したのは! いきなりラスボスはムリがあるよ! 私は心底同情したが、同時に焦っていた。
高校受験がもうすぐそこだったのである。
受験を控えた私は焦った。これじゃあタケルの怒号で英単語も定理も脳内から逃げ出す。そこで上位校志望の仲間と結託し「来週は全員で登校拒否しよう」という作戦を立てた。暴挙だが背に腹は代えられない。
月曜。私は作戦通り堂々と休んだ。火曜。もちろん休んだ。水曜の朝、西原先生から電話が来た。いやだなぁと思いながら電話に出る。すると言われた。
「休んでるのはお前だけだぞ」
えっ。
まさかの裏切りである。磯野(的な同級生)たちめ「そうだな、休もう休もう」と言っていたじゃないか! 友情より内申点を選んだのか! 内申点は大事!
午後、西原先生が自宅に現れた。玄関で開口一番「学校へ来い」と言う。
西原先生の口は腐った卵をお酢で浸した雑巾で握りつぶしたような猛烈な硫黄臭を放っており、私は匂いだけで更生、卒倒しそうになった。翌朝、観念して登校すると軍団が教室で待っていた。タケルが尋問モードで近づいてくる。
「オイ、なんで休んでた?」
背後にはカグヤ姫の従者が並び、もしも殴られれば私は月まで飛んでいきそうである。磯野(的な同級生)たちが「ダーキ、すまん」みたいな顔でいる。
正直に言ったら俺はどうなるか。
仲間を売っちゃう? 結託しましたって?
いや! いや! 否!
売ーらないっ!
母さん! 父さん! 俺は強い!
ここは!
ちいかわのように震え! ハチワレのように刺す!(当時はちいかわいませんけど!)
なんとか! なんとか! なんとかなれぇぇー! と思いながら(思ってない)、私は一生懸命に言った。
「お前らがうるさいの!」
お前らがうるさいの! なんと情けないセリフ! 理由をオブラートで包むこともせず正直に言っちゃうところ! 私は昔から変わってない!
するとタケル。
「……だよな、すまん」
あれ。
タケル、お前、謝れるのか。わ、わかればいいんだよ! 人間誰しも過ちがあるものさ! それを認めて反省するところに成長ありってな! アハー!
普通になんとかなったのであった。えへへー。
