物価高でも、業務スーパーはなぜ安くできるのか
業務スーパーに行くと、少し不思議な気持ちになります。
冷凍野菜、大容量の調味料、海外のお菓子、見慣れないパッケージの商品。普通のスーパーより安く感じるものが多く、つい「どうしてこの値段で売れるんだろう」と思います。
私も業務スーパーに行くと、買う予定のなかった棚まで見てしまいます。冷凍食品の前で立ち止まり、「この量でこの値段なのか」と何度も確認することがあります。節約のために行っているはずなのに、気づくと店の仕組みそのものが気になっている。業務スーパーには、そんな不思議な吸引力があります。
食品の価格が上がっている今、その疑問は前よりも強くなっています。原材料も、物流費も、人件費も上がっているはずです。それでも業務スーパーには、家計を助けてくれる価格の商品が並んでいます。
最初は、仕入れがうまい会社なのだと思っていました。大量に仕入れて、安く売る。もちろん、それも一部にはあるはずです。
ただ、神戸物産の中期経営計画や決算説明資料を読んでいくと、見えてくる姿は少し違いました。
神戸物産は、ただの小売会社ではありません。業務スーパーという巨大な出口を持ち、そこにPB商品を流し、国内工場や海外調達を組み合わせている食品製造・卸のプラットフォームに近い会社です。
業務スーパーは、商品を流す巨大な出口になっている
神戸物産という社名よりも、「業務スーパー」の方がなじみのある人は多いと思います。
黄色や緑の看板。冷凍食品が並ぶ売場。大きな袋に入った食材。普通のスーパーではあまり見ない輸入商品。業務スーパーには、少し独特な買い物体験があります。
この業務スーパーは、2026年4月末時点で1,137店舗あります。2026年10月期の期末目標は1,154店舗で、第2四半期累計では出店20店舗、退店5店舗、純増15店舗でした。中期経営計画で掲げていた「1,130店舗以上」という重点施策は、すでに超えています。
この数字が意味するのは、業務スーパーが一部地域の安い店ではなく、全国に商品を流す大きな出口になっているということです。
店が増えれば、神戸物産が作ったり、仕入れたりした商品を届ける場所が増えます。直営4店舗を除き、業務スーパーはフランチャイズで運営されています。神戸物産は多くの店を自分で直接運営するというより、加盟店に商品を供給し、売場の仕組みを広げる立場にあります。
ここが、普通のスーパーを見る時と少し違うところです。
業務スーパーは「店」ですが、神戸物産にとっては「商品を流す出口」でもあります。だから、店舗数が増えることは、単に看板が増えることではありません。自社商品や輸入商品を回すための流通網が広がることでもあります。

次の焦点は、店を増やすことから、店の中身を強くすることへ
中期経営計画では、業務スーパー1,130店舗以上のほかに、既存店への出荷額を毎期2%以上成長させることも掲げています。
出荷額という言葉は、買い物客には少しなじみがありません。簡単に言えば、神戸物産から業務スーパーの店舗へどれだけ商品が流れているかを見る数字です。
店舗数を見ると、新しい店が増えているかが分かります。既存店への出荷額を見ると、すでにある店がどれだけ動いているかが分かります。
2026年10月期上期の直轄エリア既存店出荷実績は102.8%でした。前年より2.8%増えているということです。中期計画の「毎期2%以上成長」という目標に対して、この上期では上回っています。
これは、かなり大事な変化です。
業務スーパーは、すでに中期計画の店舗数目標を超えました。もちろん長期では1,500店舗以上を目指しているため、出店余地はまだあります。けれど、目先の焦点は「店を増やすこと」だけではなくなっています。
今ある1,137店舗に、どれだけ魅力ある商品を流せるか。
その商品が、どれだけ業務スーパーらしい価格と量で売れるか。
ここが次の観察ポイントになります。
私たち利用者から見ると、これは「近くに業務スーパーができるか」だけではなく、「今ある業務スーパーの棚がもっと面白くなるか」という話でもあります。見慣れない冷凍食品や、思わず試したくなるPB商品が増えるかどうか。そこに会社の次の変化が表れます。
安さの中心にあるのはPB商品

業務スーパーには、他のスーパーではあまり見ない商品がたくさんあります。冷凍食品、調味料、加工食品、輸入品など、売場に独特の雰囲気があるのは、PB商品が多いことも理由の一つです。
PBとは、プライベートブランドのことです。会社が自分たちで企画し、自分たちの名前で売る商品を指します。
神戸物産の中期経営計画では、PB比率を37%まで高めることが重点施策に入っています。長期目標では、PB比率40%以上を掲げています。2026年10月期第2四半期のPB比率は34.62%でした。
34.62%という数字は、中期目標の37%にはまだ届いていません。長期目標の40%以上までも距離があります。
この距離が、今の神戸物産を見るうえで大事です。
店舗数の目標は先に進んでいる。既存店出荷も上期では2%を超えている。けれど、PB比率はまだ目標に届いていない。
だから、神戸物産の次の課題は、売場の数を増やすことだけではなく、売場の中に流すPB商品の割合を高めることだと見えます。
PBが増えると、価格を自分たちで設計しやすくなります。他社の商品を仕入れて売るだけなら、仕入れ価格の影響を強く受けます。自社で企画した商品なら、容量、原材料、製造方法、包装、物流まで考えて商品を作れます。
もう一つ、業務スーパーでしか買いにくい商品が増える意味もあります。
どこのスーパーにもある商品だけなら、価格の比べ合いになります。けれど、「あの商品を買いに業務スーパーへ行こう」と思える商品が増えれば、店に行く理由が生まれます。
PB商品は、安さと業務スーパーらしさを同時に支える存在です。

工場と海外調達が、安さの裏側にある
PB商品を増やすには、企画するだけでは足りません。安定して作る力と、安定して調達する力が必要です。
神戸物産は、中期経営計画で、国内PB強化のために毎年100億円以上の設備投資を行うとしています。決算説明資料では、海外協力メーカーについて、約50の国や地域の約600社に協力を得て商品を製造していると説明されています。
ここに神戸物産らしい強さがあります。
業務スーパーの安さは、売場だけで作られているわけではありません。国内で作る。海外から調達する。商品を企画する。店舗へ流す。この一連の流れがつながっています。
普通のスーパーなら、どうしても「店でどう売るか」に目が向きます。神戸物産を見る時は、売場の奥にある商品供給の仕組みまで見た方がよさそうです。
業務スーパーは、商品を売る場所です。
神戸物産は、その売場に商品を流し続ける会社です。
この違いを押さえると、「なぜ安いのか」という問いが少し変わります。
安い商品を仕入れているから、だけではありません。安く売れる商品を作り、集め、流す仕組みを持っているからです。
それでも、安さを守るのは簡単ではない
ここまで見ると、業務スーパーの安さはかなり強い仕組みに支えられているように見えます。
店舗がある。PB商品がある。国内製造と海外調達がある。既存店にも商品が流れている。安さを作る材料はそろっています。
ただ、今の神戸物産には逆風もあります。
2026年10月期第2四半期の決算説明資料では、売上総利益率は12.4%で前年同期の11.6%から改善しています。調達コストの上昇に対して、価格転嫁や調達先の最適化を図ったことが説明されています。
粗利率が改善しているのは、会社の調達や価格設計が効いているサインです。ところが同じ資料では、販管費率も4.6%から5.1%へ上がっています。業務スーパーの売上増加に伴う物量増加によって、運賃や倉庫賃料などが増えたことも説明されています。
ここに、今後の難しさがあります。
商品側では利益率を改善できている。けれど、運ぶコストや保管するコストも上がっている。安さを守るには、商品力だけでなく物流の効率も必要です。
質疑応答要旨でも、物流費や保管費を下げるために新たな倉庫と契約しており、倉庫の運用が軌道に乗ればコスト削減に向かう予定だと説明されています。
この話は地味ですが、業務スーパーの安さを考えるうえでは避けて通れません。
安い商品を作れても、運ぶコストが上がれば利益は削られます。売上が伸びても、物流費がそれ以上に重くなれば、仕組みの強さは弱まります。
PB比率だけでなく、販管費率や物流費の動きも見ていく必要があります。

機内食事業は、新しい出口になるのか
今回、神戸物産の資料で目を引いたのが、機内食事業への進出です。
決算説明資料では、グルメ杵屋とのJV設立を通じた機内食事業買収について説明されています。会社はこの案件を、機内食事業に当社商品を展開しながら、LSGグループの海外拠点を活用して輸入PB開発や海外展開を加速する成長投資と位置づけています。
これは、単なる異業種への多角化として見るより、「新しい出口を取りに行った」と見る方が分かりやすいかもしれません。
業務スーパーは、神戸物産の商品を流す大きな出口です。外食・中食も、商品や食材を使う出口です。機内食も、もし神戸物産の商品や半加工品を活用できるなら、新しい出口になる可能性があります。
ただし、ここはまだ慎重に見たいところです。
資料上、会社は機内食事業を成長投資として語っていますが、シナジーがすでに出ているわけではありません。質疑応答要旨では、M&Aにかかった費用を営業業務委託料として約4.5億円計上したことも説明されています。
海外の機内食事業は、業務スーパーとはまったく違う世界です。顧客契約、品質管理、各国の規制、人材、拠点運営。うまくいけば新しい出口になりますが、同じ勝ち方がそのまま通用するとは限りません。
そのため今、見るべき中心は、やはり業務スーパーとPBです。そのうえで、機内食は「神戸物産が出口を増やそうとしている動き」として、次回以降に確認していきたいです。
同業他社との違いは、安さの作り方にある
普通のスーパーも、安く売る努力をしています。大量仕入れ、特売、店舗運営の効率化、PB商品。どの会社も価格を抑えるために工夫しています。
神戸物産の違いは、安さを「小売の現場」だけで作ろうとしていないところにあります。
業務スーパーという売場があり、そこにPB商品を流す。PB商品を増やすために、国内PBの生産能力へ投資する。海外協力メーカーから商品を調達する。FC網を使って店舗を広げる。既存店への出荷額を見ながら、今ある店の強さも確認する。
仕入れて売るだけではありません。作る、仕入れる、流す、売る。この流れを一つの仕組みとして組み上げています。
神戸物産は「安売りスーパー」というより、安さを再現する食品製造・卸プラットフォームに近い会社です。
業務スーパーの先にあるもの
神戸物産の長期目標には、業務スーパー1,500店舗以上、PB比率40%以上、外食・中食事業の全業態で500店舗以上、物流拠点への投資による販管費率改善、連結営業利益率10%以上が並んでいます。
この目標を見ると、会社が目指しているのは、業務スーパーを少しずつ増やすことだけではないと分かります。
業務スーパーという出口を広げる。そこにPB商品を増やす。国内工場と海外調達を強くする。外食・中食にも出口を広げる。物流の効率も高める。
これらをつなげると、神戸物産が目指している姿が見えてきます。
安い食品を全国に届けるだけではありません。「良い物をより安く」を何度も再現できる、食の総合企業になろうとしているのだと思います。
もちろん、まだ途中です。
PB比率は2026年10月期第2四半期で34.62%。中期目標37%、長期目標40%以上には距離があります。業務スーパーの店舗数は2026年4月末で1,137店。長期目標の1,500店舗以上までは、まだ広げる余地があります。

販管費率は前年同期より上がっています。物流費や倉庫費の負担もあります。機内食事業も、まだ成果を確認する段階ではありません。
この未完成さがあるからこそ、観察する意味があります。
次に見るポイント
次に見る数字は、売上や利益だけではありません。
まず見たいのはPB比率です。34.62%から37%へ近づくのか。さらに長期目標の40%以上へ向かうのか。ここを見ると、神戸物産が自社で商品を作る力を強めているかが分かります。
次に、既存店への出荷実績です。上期の直轄エリア既存店出荷実績は102.8%でした。この数字が毎期2%以上の成長を続けられるか。店舗数ではなく、既存の売場にどれだけ商品が流れているかを見る数字です。
業務スーパーの店舗数も見続けます。2026年4月末の1,137店から、期末目標1,154店、長期目標1,500店舗以上へどのくらい進むのか。出店数だけでなく、退店数も確認したいところです。
物流費や販管費率も外せません。粗利率が改善しても、販管費率の悪化がそれを上回れば、安さを支える仕組みは苦しくなります。
機内食事業については、まだ期待ではなく観察対象です。神戸物産の商品や調達網を使ったシナジーが実際に出るのか。M&A費用だけでなく、来期以降の利益貢献や統合の進み方を見る必要があります。
わたしの結論

業務スーパーの安さは、ただの安売りではありません。
神戸物産は、業務スーパーという巨大な出口を持ち、そこにPB商品を流し、国内工場と海外調達を組み合わせています。FC網で店舗を広げ、既存店への出荷額を伸ばし、物流費の上昇にも向き合っています。
だから、この会社を見る時の問いは「業務スーパーは何店まで増えるのか」だけでは足りません。
これから見たいのは、既存の出口をどれだけ強くできるかです。
PB比率は上がるのか。既存店への出荷は伸びるのか。物流費の上昇を吸収できるのか。機内食事業は新しい出口として機能するのか。
物価高の中で、安い店はありがたい存在です。けれど、安さを続けるには裏側の体力が必要です。神戸物産はその体力を、PB、工場、海外調達、FC網、物流で作ろうとしています。
業務スーパーの安さは、店舗数に頼らず、PBと既存店出荷と物流改善によって本当に守られているのか。
この問いを持って、神戸物産を応援しながら見ていきたいです。
おわり

