モデレーターの教科書
モデレーターという仕事の教科書(序章)
——本質は「視点の操作」であり、テーマの地図を持つこと
モデレーターのコツやポイントについては、なかなかノウハウが言語化されていないように感じる。(私が出会えないだけなのかもだけど)
ということで、モデレーターの本質から迫っていき、もう少し大枠を捉えながら、モデレーターの教科書(自分にとっての)を作っていけたらと思っている。
僕自身、モデレーターをものすごくたくさんやってきたわけではない。それでも、トークセッションや勉強会の現場に行くたびに、内容そのもの以上に「モデレーターの動き」を見てしまう。
年間30〜40本くらいは、たぶん見に行っている。
そして自分でもモデレーターをやってみて、気づいたことがある。
さらに月1回、自分のシェアスペースで練習会を続けている中で、少しずつ言語化が進んできた。一旦、言葉にできたことを書き、定期的に書き直していきたいと思う。
1. モデレーターとファシリテーターは、似ているけど違う
ファシリテーターは、場の目的に向かってプロセスを促進する役割だ。議論が滞ったら進め、偏ったら整え、沈黙が続けば場を温める。つまり、場の“推進力”を担う仕事だと思う。
一方、モデレーターは、そこに近い役割を持ちながらも、もう少し違う立ち位置にいる。モデレーターはどちらかというと、参加者に近い側に立つ。ゲスト(専門家・登壇者)と参加者のあいだに立ち、橋渡しをする。その場で交わされている話を、参加者の学びに引っつけていく。だからモデレーターは、司会というよりも、翻訳者とか編集者に近い。ゲストの話を「正確に回す」だけでは足りなくて、参加者側が「自分ごととして理解できる形」に変換していく必要がある。
2. モデレーターの本質は「視点の操作」である
モデレーターの本質って何だろう。僕はそれを、視点の操作だと思っている。視点の操作というと、少し強い言葉に聞こえるかもしれない。でも、現場の場づくりで実際に起きているのは、たぶんこれだ。例えばゲストが複数いるとき、モデレーターは一人に偏ってはいけない。でも「均等に振る」だけでも不十分だ。
大事なのは、
それぞれのゲストが持つ視点の違い
視点がぶつかる場所
視点が重なる場所
まだ語られていない視点
を見て、場に差し出す順番を整えること。
つまり、モデレーターは「中立に立つ」よりも、視点を増やしたり、ずらしたり、重ねたりする仕事をしている。これはイベントの中だけに限らない。暮らしの中でも、人は一つの見方に偏りがちだ。自分の正しさ、経験、立場、感情に引っ張られる。だからこそ、モデレーターの修行は日常の修行でもある。「自分とは違う視点を取る」「一つの正解に飛びつかない」そんな練習を、イベントという形で濃縮してやっている感覚がある。
3. モデレーターが持つ「2つの地図」
——四象限と発達段階
視点を操作するためには、地図がいる。僕が特に参考になるんじゃないかと思う地図が2つある。1つは、インテグラル理論の四象限。もう1つは、成人発達理論などの発達段階の視点だ。この2つを持っていると、話し合いの全体像が“地図”になる。いま何が起きていて、どこへ進めばいいかが見えやすくなる。
3-1. 四象限:今どの話をしているのかを見失わない
四象限は、
内面/外面
個人/集団
という4つの領域で、世界を捉える枠組みだ。
モデレーターとして重要なのは、「今、どこの領域の話をしているのか」を把握すること。例えば、話題がずっと「個人の内面」に偏っている。感情や思いは語られるけど、行動や制度の話に降りてこない。または逆に、制度や仕組みの話ばかりで、当事者の痛みや体験が置き去りになる。偏りが悪いわけではない。でも偏りに気づけないと、場が閉じていく。モデレーターは、問いや振り方によって
象限を移動させることができる。
その話を、日常の行動にすると何が起きる?(内面→外面)
それってあなた個人だけの問題?社会や文化の問題?(個人→集団)
逆に、その制度の話の背景に、どんな感情や体験がある?具体的なエピソードありますか(集団の外面→個人の内面&外面)
こういう“視点の移動”が、場を立体的にする。
3-2. 発達段階:発言を「正誤」ではなく「現在地」で見る
もう一つの地図が、発達段階の視点だ。
ここで大事なのは、発達段階は「上下」や「優劣」の話ではないということ。発言を、正しい/間違いで裁くのではなく、「どのレイヤーの問いとして出てきた言葉か」として見る。
参加者が今、どのあたりで悩みを持っているのか。場全体の関心はどこに集まっているのか。それが見えてくると、テーマ設定や問いの置き方がクリアになる。「今この場は、どの問いに耐えられるか」「今この場は、どの問いを必要としているか」そういう見立てができるようになる。
3-3. 四象限 × 発達段階=話し合いの地図ができる
・四象限は、話題の偏りを見える化する。
・発達段階は、問いの深さと現在地を見える化する。
この2つを重ねることで、「いま何が起きているか」「どこへ運べばいいか」の地図ができる。モデレーターは、その地図を頭に持ち、場の流れを少しずつ調整する存在だと思う。
4. テーマは「思いつき」ではなく「構造」から選ぶ
ここでもう一つ、モデレーターとして大事にしたいことがある。それがテーマだ。テーマ設定は、単なる話題選びではない。それは、いま社会が何に引っかかっているのかを読む行為でもある。そして現代社会では、主要な話題設定は、この3つの大テーマを絡めるといいように感じる。
人権
資本主義
民主主義
この3つだ。
4-1. 人権・資本主義・民主主義は、だいたい全部つながっている
なぜ。この3つを提示しているかというと、現代社会のOSであり、どのテーマでも逃れることができない大テーマになるからだ。(詳しくは、COTEN深井さんの語りを聞いていただければと思っています)
子ども支援、教育、福祉、働き方、孤独、分断、地域、ケア。
どこかで「人権」「資本主義」「民主主義」につながる。モデレーターがこの構造を捉えていると、テーマが一過性で終わらなくなる。
4-2. 本屋の棚やベストセラーは「社会の温度計」
テーマの時代感を掴む方法として、本屋の棚を見るのがいいと思っている。ベストセラーのタイトル、言葉、テーマ。本屋は、社会の関心が商品として“表に出てきた場所”でもある。人が何に不安を感じているのか。どんな言葉が求められているのか。いま何が「引っかかり」になっているのか。そこを拾って、場のテーマとして翻訳するのもモデレーターの仕事だと思う。
5. ゲストが複数いるとき、モデレーターは「事前に読む」
ゲストが複数いる場合、さらに大事になるのが準備だ。ゲストのSNSや文章、インタビューから、
何に怒っているか
何を守ろうとしているか
何を“当たり前”と見ているか
を読み取っておく。
そしてそれを、四象限/発達段階の視点で、その人の重心を見つけていく。
この方は主にどの段階の問いを持っているのか
個人の内面を語る人か、制度や実践を語る人か
これは評価ではなく、配置のための準備だ。すると、
この人には体験を語ってもらう
この人には構造を言語化してもらう
この人には具体の実践を出してもらう
というように、場の設計が一気にクリアになるのではないかと思う。
7. モデレーターは「編集者」である
ここまで書くと、モデレーターは司会というより、編集者に近い。
思想と実践、ゲストと参加者、個人と社会。それらを“翻訳”し、配置し、視点を操作しながら、テーマや場を立体にしていく。
大きな地図(人権・資本主義・民主主義)でテーマの現在地を読み
四象限と発達段階で進み方を想定し
ゲストの視点を配置し
参加者の学びに引き寄せていく
それが、僕が考えるモデレーターという仕事の輪郭だ。(実践は伴っていない笑)
まとめ:この序章で言いたかったこと
モデレーターは参加者側に立つ橋渡し役
本質は「視点の操作」
モデレーターは場の編集者であり、参加者に届く形を考える
与えられたテーマから、3つのOS(人権・資本主義・民主主義)から、テーマの意味づけ、ゴールの設定を行う
四象限と発達段階で、ゴールへの歩き方を想定する
ゲストはSNS等から事前に読み、視点の配置想定をする
(まだ書けていないところ)
・「打ち合わせ(事前設計)の心得」
・「問いの技術:象限を移動させる問い集」
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支援者の視点をメタ認知する「SITEN」というプロジェクトの記事です。
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