執行猶予とカタキ討ち - 2026 F1カナダGPレビュー
モントリオールの週末も日曜は雨の確率が高いとの予報でした。しかし、雨はレースが始まる前に通り過ぎ、新レギュレーション初のウェットレースは、またしてもおあずけになりました。
ただ、雨が止んだあとのチョイ濡れ路面に、違う意味で足をすくわれたチームがあったようで……。
《このレビューは、いわばF1の感想戦です。リザルトは掲載せず、レースの展開を詳しく追うこともいたしません。では、いったい何を書いているかというと、そのイベントでの重要な見どころや、逆に重箱の隅をつつくような話題にフォーカスしています。気軽に面白がっていただければ幸いです。》
■アントネッリ4連勝!
結果から言えば、ポールシッターのラッセルがトラブルでリタイアを喫し、その後はアントネッリの楽勝というレースでした。ただ、もしメルセデスのふたりが完走していれば、どちらが勝ってもおかしくなかったという意味で、アントネッリの優勝はいわゆるタナボタとは違うと思います。
土曜のスプリントでは、どうしてもラッセルを抜きたいアントネッリが、無理な仕掛けをしておきながら「押し出された!」と無線で文句を言ったりして、トト・ウォルフに叱られました。
これを受けて、チームはラッセル、アントネッリと話し合いを持ち、チームメイト同士でトップを争うときに、コース上でやっていいこと、いけないことを明確にしたそうです。実際、ドライバーのふたりは「すべてクリアになった」と、スッキリした気分で日曜のレースに臨んでいたようです。
そして、日曜にはアントネッリのメンタルまで含めた適応能力の高さに驚かされました。ラッセルに対するアントネッリの攻め方が、スプリントとはすっかり変わっていたからです。あのクリーンでかつ緊張のあるバトルを、ずっと最後まで見たかった。
あくまで個人の意見ですが、アントネッリがチャンピオンの器であるのは間違いないと思います。F1世界選手権の発足以来、レースで4連勝を記録したドライバーはアントネッリを含めて16人で、過去の15人は全員がワールドチャンピオンだそうです。まあ、このまま順調に育ってくれれば、「唯一の例外」にはならないでしょう。それが今年中に実現するかどうかはさておき。
ところで、メルセデスのスタートはずいぶん良くなりましたね。カナダではスプリントでもグランプリでも、大きく順位を下げることはありませんでした。クラッチのソフトウェアを直したり、微妙な操作がしやすいようにパドルを改造したりして、コツコツと努力を重ねてきたそうです。
■ラッセルくん、お気の毒
それにしても、ラッセルは本当に気の毒でした。今回こそ絶対に勝ってやる!と意気込んでいたはずですよね。昨年はこのモントリオールで優勝し、今週末もスプリントはポール・トゥ・ウィン、グランプリ予選もポールでしたから。
クルマが止まってしまった原因はERS系のトラブルで、いきなりすべてがシャットダウンしたそうです。クルマを降りるときにヘッドレストを投げ捨てた行為に対して、5,000ユーロ(執筆時のレートで約93万円)の罰金を科されましたが、これには12ヶ月間の執行猶予が付きました。もしかしたら、FIAもちょっと同情して執行猶予をつけたのかな。
クルマの回収作業中、フェンス際に呆然と立ち尽くすラッセルの顔、ただただ信じられないというその表情が強く印象に残りました。
■トッ散らかったマクラーレン
インターミディエイトでスタートというマクラーレンのタイヤ選択は、いったい何だったのでしょう。ノリスもピアストリも最初のフォーメーションの時点で、「もうスリックだと思うんだけど……」と疑問を呈していました。
せっかく2列目からのスタートだったのに、なぜチームがインターにこだわったのかが謎ですね。ポジション的には、大きなリスクを犯してまで、イチかバチかで大量得点を狙いに行く必要はなかったと思うんですよ。
チームとしては、「スリック勢はみんなタイヤに熱が入らずに苦労するだろうから、その間にインターでピットストップ1回分は稼げそう」と踏んだのでしょう。そう考えるのは、この路面では自分たちもスリックをうまく温められそうにない、と思っていたからに違いありません。
ところが、リンドブラッドがグリッドで動けなくなり、スタートのアボートが2回もあって、その間に路面がどんどん乾いてしまいました。というか、最初からマクラーレンの首脳陣が思っていたほど、あるいは期待していたほど路面は濡れていなかったのかも。
結局、ノリスとピアストリはそれぞれ1周目と2周目にタイヤを交換してトラックポジションを失い、ピアストリはヘアピンでアルボンに横っ腹に突っ込んで、ノーズ交換のためもう一度ピットイン。ノリスはギアボックスが壊れてリタイアに終わりました。まあ、控えめに言って踏んだり蹴ったりでしたね。
レース後、チーム代表のアンドレア・ステラさんは、「レースでタイヤの温度を保てずに苦戦した。あのペースでは、たとえドライタイヤでスタートしても、ハミルトンやフェルスタッペンについて行けなかったと思う」と語っています。
■元チャンピオン同士のバトル
フェルスタッペンとハミルトンのバトルも見応えがありました。ヨーヨーレーシングにならず、緊張した闘いが続いて、ふたりともいかにも楽しそうでした。
今週末、ハミルトンは最初っからやる気マンマンでした。どうやらクルマが思いどおりの動きをしてくれたようです。実際、コース上での挙動を見ていても、気持ちが入っているのがわかるほどでしたし、コメントも終始ポジティブでした。
パルクフェルメで、アントネッリを背後から抱きかかえて持ち上げたりする「はしゃぎっぷり」も印象に残りました。もう20年近くもF1にいる41歳の元チャンピオンが、2位入賞であんなにうれしがるなんて!
フェルスタッペンの3位入賞は、まあ率直に言ってタナボタでしたね。メルセデスの1台が消え、マクラーレンが2台とも自滅し、フェラーリのもう1台も週末を通じて冴えなかったのですから。
プラクティスで訴えていたクルマが跳ねるという問題は、日曜にはある程度まで解消されていたとか。ただ、タイヤの温度をレンジ内に保てず、その面では苦戦したようです。確かに「タイヤの温度が下がっている!」なんて無線交信もありました。
それでも、ハミルトンとのバトルは楽しかったみたいですね。クールダウンルームでハイライトシーンを見ながら、ハミルトンとなごやかにレースを振り返っているのがイイ感じでした。実はそんなに仲が悪くはないのね。
■ヨーヨー少なめの理由
このジル・ビルヌーブ・サーキットで、ヨーヨーレーシングがあまり目につかなかったのには、技術的な理由があったそうです。コースレイアウト的にハーベスティングできる場所が限られていて、デプロイとハーベスティングのプログラミングの自由度が低く、どのチームも似たようなプログラムになっていたらしいんですよ。
ですから、あるクルマはフルデプロイしているのに、別のクルマは同じ場所で電欠になっている、みたいなことがほとんどなかったと。これは鈴鹿で起きたベアマンのクラッシュのようなインシデントが起きにくいという点では良いことです。
実際、オンボードの映像を見ると、特に最終シケイン手前のバックストレートでは、どのクルマもほぼ同じタイミングでスーパークリッピングに入っていました。その結果として、昨年までと同様に、主に進入のブレーキングでの勝負になっていたわけです。
ちなみに、ターン10(ヘアピン)のブレーキングでミスをして抜かれながら、それを次のストレートで抜き返す場面がしばしば見られたのには、風向きの影響もあったようです。ヘアピンの進入では追い風でダウンフォースが抜けるのでミスをしやすく、そのあとのバックストレートは逆に向い風になるので、スリップが効きやすかったということですね。
■ハジャー、いったん落ち着け
ハジャーがバックストレートでルクレールに対して際どい幅寄せをしたのは、レース後に自分でも言っていたように「ちょっとやりすぎ」でしたね。10秒のペナルティは当然の処罰です。さらに彼は黄旗無視でストップ&ゴーのペナルティももらっています。
バトル中の幅寄せは、まあレースの一部と言えないことはない。でも、黄旗に関するルールは、マーシャルの人たちの安全にも関わることなので違反は論外です。絶対にやってはいけないことだから、それだけペナルティも重いわけですよ。
それでも後続には大きな差をつけ、終盤にはピットに入ってペナルティを消化しつつ、ソフトに履き替えてコースに戻っても、なお結果は5位だったのですから、ホントにもったいないことをしました。
ジュニアチームで1年間勉強したあと、意気揚々とレッドブルに来たら、今年はちょっと様子が違っていて、なかなか上位争いができませんからね。気持ち的にちょっとモヤっているのかもしれません。でも、焦りは禁物。いったん落ち着こう、アイザック。
ところで、ハジャーとルクレールのバトル中に気づいたんですけど、バックストレートエンドでリアのフラップが閉じるタイミングを見ていると、レッドブルよりフェラーリの方がほんの少し早くありませんでした?
アクティブエアロの開閉動作は、0.4秒以内に終えることという規定があります。ですから、タイミングが違うとすれば、レッドブルの動作時間が短いか、さもなければフェラーリが、あるいはルクレールの操作によって早めに閉じたかですね。同じ「クルリンパ」でも動き方が違うので、フェラーリはちょっと早めに閉じないと空力が不安定になるとか、そんな理由があるのかも。
■グラウンドホッグのカタキ討ち
アルボンは、FP1でカナダGP名物のグラウンドホッグを轢いてしまい、コントロールを失ってクラッシュを喫しました。ただ、その決定的なシーンは、とうとう最後まで国際映像には乗りませんでした。きっと直視に耐えないスプラッターな映像だったのでしょう……。
F1グランプリを題材にしたコミカルなアニメーションを見せてくれる、Lolipopman Comics(https://youtu.be/Damx5skEqJg?si=VUvxZXZtaEwAo2q_)というサイトがありまして、毎回楽しみに見ているんですけどね。今回のカナダGP編では、レース中にアルボンを見事に「仕留めた」あと、ピアストリが天に召されたグラウンドホッグとサムアップを交わすシーンがあって、笑っちゃいました。
ちなみにこのサイト、音声も字幕も英語のみなんですが、コアなF1ファンなら何の話をしているかはだいたいわかると思います。内容は追わずに流して見るだけでも、ドライバーやチームメンバーの声と喋り方の特徴をよくとらえていて面白いんですよ。超マニアックなネタをキッチリ拾っていたりもしますし。オススメです。
しかし、アルボンは金曜日にクラッシュしたうえに、日曜のレースでもダメージを負わされたわけで、こちらは笑いごとではありません。ウィリアムズとしては、修理やら部品の製作やらで出費がかさんで、さぞアタマが痛いことでしょう。
■レーシングブルズに罰金
金曜のFP1では、セッション開始から10分もたたないうちに、ローソンがハイドロ系のトラブルでクルマをコースサイドに止めました。ところが、そのクルマをマーシャルが撤去できないという問題が発生し、VSCでは対処できず赤旗になりました。
CDS(クラッチ・ディスコネクティング・システム)が機能せず、クルマを押して動かすことができなかったらしいんですね。FIAはこれを重大な違反とみなして、チームに30,000ユーロ(約560万円)の罰金を科しています。このうち20,000ユーロは執行猶予だそうですが、10,000ユーロ(約190万円)は払わないといけません。あいたたた。
CDSというのは、マーシャルが外からボタンを押すことでクラッチを切れるように、全車に搭載が義務付けられているシステムです。これがあれば、今回のように突然ハイドロが落ちて、ギアがエンゲージしたままの状態で止まっても、クラッチを切ってクルマを手押しで移動することができます。ついでに言うと、そういう用途のシステムですから、電源と油圧が落ちても15分間は作動しないといけないそうです。
ですから、これが作動しないと停止車両の片付けに時間がかかり、イベントスケジュール全体にも影響を及ぼす可能性があります。他のチームやレース主催者も大迷惑なわけですよ。特にスプリントフォーマットの週末だと、フリープラクティスは1回だけですからね。
レーシングブルズは、CDSをアンチストールと兼用する設計を採っているそうです。しかし、すでにFIAから「違反ではないが、デュアルユースは望ましくない」と警告を受けていたとか。つまり、その警告を無視して使い続けていたところ、今回のトラブルが起きたので、FIAのお怒りを買ったということのようで。
■アストン、いまだアップグレードなし
他チームがどんどん新たな開発部品を投入してくるなか、アストンマーティンは今回もアップグレードなしでした。まあ、それどころではないのはわかりますけどね。
その件についてコメントを求められたアロンソは、いみじくもこう言ったそうです。「ラップタイムが2秒遅いのに、コンマ5秒ほど速くなるアップグレードを入れても、カネのムダづかいだから」
フェルナンド師匠だから口にできるド正論でした。
■サインツのヘルメット
この週末まで気づかなかったのですが、サインツのヘルメットがベルからスティロに変わっていました。ストロールやボッタスが使っているヘルメットのメーカーです。調べてみたら、サインツとの契約は今シーズン最初からだったみたいで。
まあ、要するにこれまで彼が使っていたベルよりも、スティロさんの方が良い条件を提示したってことでしょう。スティロとしては、「うちの契約ドライバー、全然テレビに映らんじゃないか。なんとかしろ!」みたいなことかも(勝手な推測)。
昨シーズンの活躍を見て、会社の新たな広告塔としてサインツに目をつけたのは良かったと思います。ただ、残念ながら、今年はチームのパフォーマンスがイマイチなようで……。
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今回もポディウムセレモニーでは、イタリア国歌とドイツ国歌が流れました。シューマッハー全盛時代に耳にタコができるほど聞かされて、なんならアカペラでも歌えちゃうほどの二曲ですが、いまはその順序が逆というのが、また新しい何かを象徴しているように思えます。
アントネッリが初優勝した中国GPのレビューでは、その勝利を讃えるイタリア国歌を「フェラーリのメカニックたちも合唱してあげればいいのに」と書いたんですけどね。今回はポディウムの下にいた赤い服の人たちのうち数人がイタリア国歌を小声で歌っているのを、テレビの国際映像に抜かれていました。やっぱり歌わずにはいられないんでしょうね、イタリアの方々としては。
2026年6月2日
