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稲穂健市の知財コソコソ噂話 第30話 財務諸表と知財

 知財関係の仕事をしていると、知財の売却やライセンス、侵害訴訟に係る損害賠償金や和解金など、お金にまつわる話がよく出てきます。
 しかし、それにもかかわらず、「企業の成績表」「企業のカルテ」ともいわれる財務諸表では、知財の存在が見えにくいことが少なくありません。というのも、そもそも建物や在庫など時価や簿価などによって価値が測りやすい「有形資産」とは異なり、知財を含む「無形資産」は価値が把握しにくいうえに、それにまつわる会計ルールも感覚的に理解しづらいからです。
 例えば、自社で研究開発を行った結果として生み出された知財は、基本的には研究開発費などで処理されて「資産」としては認識されません。その一方で、他社から購入した知財は「資産」として財務諸表に記録できますが、売買が成立しても、果たして支払った分だけの価値があるのかを客観的に判断するのは容易ではありません。
 さらに、税法上は知財にも減価償却が適用されます。法人税法上の耐用年数は、特許権は8年、実用新案権は5年、意匠権は7年、商標権は10年となっており、毎年減価償却されて価値が目減りしていきます。ですが、商標権は更新により半永久的に権利が維持できますから、耐用年数を適用すること自体に筆者は違和感を覚えます。
 ところで、財務諸表を通じて、知財のライセンス料や係争の和解金などを知ることができる場合があります。
 有名なところでは、米アップル社のスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」に関する商標ライセンス料が挙げられます。当初アップル社は日本で文字商標「iPhone」を登録しようとしたものの、アイホン株式会社が「アイホン」「AIPHONE」といった類似商標を持っていたことから断念。代わりにアイホン社が「iPhone」を商標登録し、アップル社はその専用使用権の設定をしてもらうというスキームが組まれたのです。
 2008年3月期決算以降のアイホン社の「損益計算書」を見ると、「営業外収益」として毎年1億円の「受取ロイヤリティー」が計上されていることが分かります。それも、2018年3月期決算からは1億5000万円に増額されています(増額されたのは、iPhoneの国内売り上げが伸びているからでしょう)。アップル社がアイホン社に支払っているライセンス料は非公開ですが、このように財務諸表からその金額をうかがい知ることができるのです。
 また、最近の例ですと、コナミデジタルエンタテインメントが、サイバーエージェントの連結子会社であるCygames(サイゲームス)の開発・運営する『ウマ娘プリティーダービー』が自社の特許権を侵害していると訴えていた裁判で、2025年に和解が成立したという事案がありました。
 両社のニュースリリースには、和解条件に関して公表を差し控えると記されていましたが、サイバーエージェントの2025年度9月期の決算短信によると、同社は特別損失7億2700万円を計上しています。当初コナミ側が40億円の損害賠償を求めていたことを考えると、かなり低額な落としどころとなったことが分かります。
 なお、2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂されて知財に関わる項目が盛り込まれたことで、各企業は、知財に関する情報を投資家に積極的に開示していくことが求められるようになっています。

「ウマ娘 プリティーダービー 公式ポータルサイト」より

『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2026年2月号掲載


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