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ジャンプ作品10年分214作を数えてわかった、アニメ化のタイミングと閾値。

単行本が全2巻で、もう完結している漫画が、アニメになりました。「タコピーの原罪」です。連載が終わってから、3年近くも経ってのことでした。一方で、連載開始からたった約1年7ヶ月でアニメになった作品もあります。「とんかつDJアゲ太郎」です。「僕のヒーローアカデミア」は約1年9ヶ月。「ラーメン赤猫」も約1年9ヶ月。

完結した小さな作品が何年も経ってから拾われ、走り出した作品はあっという間に空へ上がっていく。わたしたちはもう、ジャンプの漫画がアニメになることに、驚かなくなっています。

でもアニメ化について、「いつ」「連載何話、単行本何巻で」「どういう閾値で」を測ったものが見つからなかった。

だから、数えてみました。週刊少年ジャンプ本誌と少年ジャンプ+、この10年で連載された214作品を、ひとつずつ。連載開始日、単行本の発売日、アニメ化の発表時期と放送時期を、全部です。

そうしたら、ジャンプという場所が「漫画雑誌」には、とても見えなくなってきました。

問いは、たったひとつです。

ジャンプ作品は、いつ、どのタイミングで、アニメ化の話が動き始め、それはどういう閾値なのか。

※閾値とは、これより小さいと反応しないが、これを超えると反応する、その境目。つまりアニメ化になる境目。

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アニメ化が決まるのはいつか?

まず、タイミングの話から。

連載開始からアニメ放送開始までを、実測できた主要作で並べ直すと、こうなります。(数えた214本は2016年以降ですが、この速度比較だけは、実測できた代表作として、それより少し前から続く長期連載もいくつか参考に入れています)

筆者作成

最速はとんかつDJアゲ太郎で約1年7ヶ月。そこからヒロアカ、ぼくたちは勉強ができない、Dr.STONE、約束のネバーランド、呪術廻戦と続いて、だいたい2年台。鬼滅の刃で約3年2ヶ月、SPY×FAMILYで約3年。怪獣8号やダンダダンといった近年の大型作で3年半前後。いちばん長いのは忘却バッテリーで約6年です。じつはこの最速と最長、どちらも本誌ではなくアプリの「少年ジャンプ+」連載で、しかもとんかつDJは15分枠の短編アニメでした。

中央値は、おおむね「連載開始から約3年半で放送開始」です。

でも、この表にはもうひとつ、隠れた列があります。

「アニメ化が発表されたとき、単行本は何巻まで出ていたか」です。

鬼滅の刃がアニメ化を発表したのは、単行本11巻のころ。呪術廻戦は7巻。ヒロアカにいたっては5巻のころです。どれも、物語が完結するずっと手前での、決定でした。

筆者作成

つまりジャンプは、作品が「完結してから」ではなく、まだ序盤から中盤の、当たりそうな段階で、もうアニメ化が決まっているのです。

これが「タイミング」の話。ジャンプは当たってから動くのではなく、当たりそうな瞬間に、もう動いている。ここで、もう一歩踏み込んでみます。

さっきの「発表時◯巻」は、あくまで世間に向けて発表されたタイミングの数字です。でも現場の感覚で言うと、アニメ化の話そのものは、その発表の半年から1年くらい前には、もう水面下で動きはじめています。座組を組んで、制作スタジオを押さえて、というあの準備に、それくらいの時間がかかるからです。

そこから逆算してみます。週刊連載の単行本は、だいたい10話前後で1巻。週1ペースなら2ヶ月半、休載をはさんで、ざっくり3ヶ月で1巻ぶんが積み上がります。つまり半年で約2巻、1年で約4巻。

だから「発表時の既刊巻数」から、その2〜4巻ぶんを引いてあげると、実際に話が動きはじめた頃の巻数が見えてきます。

筆者作成

鬼滅の刃は発表時11巻だから、7〜9巻のころ。呪術廻戦は発表時7巻だから、3〜5巻のころ。ヒロアカは発表時5巻だから、1〜3巻のころ。

もうその頃には、「これ、アニメにしよう」という話が、どこかの会議室で動きはじめていた、と推測できるんです。

もちろんこれは連載スピードなどによって変わりますし、アニメ化する側の視点に立てば、なるべく早く、他社に負けないタイミングで声をかけるものです。

そのように考えると、各作品のアニメ化の話が動き始めたタイミングは、

  1. 鬼滅の刃:7巻ごろ

  2. 呪術廻戦:3巻ごろ

  3. 僕のヒーローアカデミア:1〜2巻ごろ

だったと推測できます。

ここまでくると、昨今のジャンプ作品のアニメ人気を鑑みれば、人気作は連載のかなり早い段階で、もうアニメ化の検討が動きはじめている、とも考えられます。とくに反応がすぐ数字で見えるジャンプ+では、単行本1巻分、だいたい10話のあたり。

極論、連載開始して1ヶ月以内、つまり連載開始か決まったくらいのタイミングで、アニメ化の話はすでに動きはじめており、そのタイミングでコンペや委員会の組閣などが始まっているかもしれません。

アニメ化発表は、氷山の一角です。わたしたちが「アニメ化決定!」の報を見たときには、現場ではもう、ずいぶん前にボールが転がりはじめている。この「思っているよりずっと早く動きはじめている」ことこそ、ジャンプのアニメ化を爆速だと感じさせる、中身の正体なんですよね。

そして、これがこのあとの話と、きれいに重なります。

アニメ化率は「26%」

ここまで読むと、「ジャンプ=アニメ化の約束された場所」に見えますよね。

ところが、全部を数えると、別の数字が出てきます。

本誌で新しく始まった連載のうち、アニメ化までたどり着いた作品の割合は、約26%でした。(2016〜2022年に始まった本誌の新連載すべてで数えた割合です。直近の2023年以降は、まだアニメ化を判断するには時間が足りないので、ここでは外しています)

筆者作成

年ごとに見ると、いちばん高いのは2016年スタート組で36%(鬼滅の刃と約束のネバーランドを同じ年に送り出した、特別な世代でした)。2017年は18%、2019年にいたっては9%。多くの年で、新連載の7割から8割は、アニメにならずに連載を終えています。

「なんだ、やっぱり狭き門じゃないか」

そう思いますよね。気持ちは、わかります。週に何本も新連載が発射されて、そのほとんどが2巻、3巻で推力を失い、上がりきれずに落ちていく。ジャンプの新連載は、世界でもっとも上昇しつづけるのが難しい発射台のひとつです。挑んだ作家さんは、みんな全力で、その一機を打ち上げようとしている。

だから、この26%という数字を、わたしは「失敗の山」だとは思っていません。

むしろ逆です。

アニメ化率 26%は選別が厳しいから

ここで、ひとつ基準を置きます。ロケットの「第1段切り離し」です。

単行本が5巻まで出た作品を「第1段を切り離せた」と呼ぶことにして、もう一度数え直してみます。打ち切りという重力を振り切って、5巻まで上昇した作品だけ。

すると、景色が反転します。

Dr.STONE、ぼくたちは勉強ができない、呪術廻戦、チェンソーマン、マッシュル、アンデッドアンラック、SAKAMOTO DAYS、逃げ上手の若君、ウィッチウォッチ、アオのハコ、夜桜さんちの大作戦。

5巻まで上昇できた作品は、その大半が、軌道に乗っています。わたしの計測だと8割を超える。

ここで、わたしの結論を置きます。
ジャンプの「週刊連載・読者アンケート・打ち切り」というシステムそのものが、軌道に乗せる前に毎週走っている、超高速のオーディションなんです。
大量に発射する。読者アンケートという、世界でもっとも正確な需要計測にかける。数字が立たなければ早めに着地させる。そして第1段を切り離せた数本に、軌道投入という桁違いの投資を集中させる。

アニメ化率が26%なのは、選別がゆるいからではなく、選別が厳しいから。数字は、足切りの精度の高さの裏返しなんです。

そこで使っていた物差しを、ひとつだけお渡しします。

新連載がアニメになるかどうかは、「5巻前後まで上昇できるか」でほぼ決まる。第1段を切り離せた機体は、ほぼアニメ化の軌道に乗る。

次にあなたが好きな新連載が発射されたとき、5巻まで上昇しつづけられるかどうかを見てください。そこで第1段を切り離せたら、軌道投入。アニメ化の発表は、もう時間の問題です。

しかも、さっきの逆算を思い出してください。動きの速い作品だと、あなたがその5巻を手に取るころには、水面下ではもう、アニメ化の話が動きはじめています。第1段を切り離した瞬間と、軌道投入の意思決定は、ほとんど同時に起きているんですよね。

デジタルが、軌道に乗せる精度を上げた

もうひとつ、データを掘っていて声が出そうになった発見があります。

ジャンプ+、つまりアプリで連載されている主要作品のアニメ化率は、約83%でした。

筆者作成

紙の本誌が新連載で26%、アプリの主要連載が83%。SPY×FAMILY、怪獣8号、ダンダダン、地獄楽、サマータイムレンダ、2.5次元の誘惑。ジャンプ+発の話題作は、ほぼ例外なくアニメになっています。

ただ、ここはフェアに言っておきます。この2つ、実は分母が違うんです。本誌の26%は「打ち切りも含めた、新連載ぜんぶ」が母数。ジャンプ+の83%は「単行本になった主要連載」が母数です。だから土俵を「生き残った作品」に揃えると、本誌の生存組も8割、ジャンプ+の主要作も8割で、ほとんど並びます。

じゃあ、デジタルの本当の強みはどこにあるのか。アニメ化「率」の高さではないんです。当たりを“見抜く早さと正確さ”なんですよね。

なぜ、ここに差が出るのか。

紙の雑誌は、アンケートのはがきや売れ行きという、少し時間のかかる信号で当たりを測ります。一方アプリは、閲覧数、いいね、コメント、読了率といった、連載が始まる前の読切の段階から、ものすごく細かい解像度で読者の反応が見える。

紙が「たくさん打って、母数を生む装置」だとすると、アプリは「掲載面が無限な分、その中から当たりを、より早く、より正確に見抜く装置」です。どちらが上という話ではありません。役割が、違う。紙という発見の母数があってこそ、アプリの精度が生きる。

そして、その「見抜く力」を、いちばん劇的に見せてくれるのが、冒頭のタコピーの原罪です。全2巻で完結した短編が、連載の終了から3年近く経って、アニメになりました。

ふつう、連載が終わってしまった短い作品は、そのまま静かに記憶のなかに残るだけです。でもジャンプ+は、その2巻が読者のあいだに残した熱量を、見失わなかった。完結した小さな機体を何年も視界に入れつづけて、もう一度、軌道に乗せた。これは「速さ」の話ではありません。終わった作品の熱量まで覚えていて、時間をかけてでも拾い上げる。掲載面が無限で、反応がぜんぶ数字で見えるアプリだからできる、執念にも近い「発見力」の話なんです。

デジタルは、ジャンプという発射台の照準を、一段シャープにしたんです。

「ジャンプ」というIP発射台の凄さ

ここまでの数字を、最後にひとつの絵にまとめます。

筆者作成

連載で発射する。アンケートと打ち切りで第1段を切り離す。切り離せた作品をアニメで軌道に乗せる。そしてNetflixやCrunchyrollという軌道に乗って、世界中へ届きはじめる。

この4つが、ひとつの流れとして、止まらずに回っている。

だからわたしには、ジャンプがもう「漫画雑誌」には見えないんです。これは、面白い物語を見つけ、世界でもっとも正確なテストにかけ、軌道に乗ったものを世界中へ届けるための、一体型のIP発射台です。雑誌は発射の装置で、アニメは軌道投入の装置。その二つが地続きでつながっている場所は、世界を見渡しても、そう多くありません。

日本のIPが、いまこれだけのスピードで世界に届いているのは、才能だけの話ではありません。世界一級の作家さんたちは、もうずっと前から十分にいました。そこに、軌道に乗ったものを最速で世界へ送り出す発射台が組み合わさった。才能に、座組が加わった。だから、今のこの景色があるんです。

この発射台を、これからどう使い、どう世界へ広げていくか。わたしがいちばんわくわくしているのは、そこです。日本には、世界に出ていくべき物語が、まだ発射台の手前にたくさん並んでいるんですから。

それでは。


※本記事はジャンプ本誌、ジャンプ+を対象に集計しております。
※本記事は個人による収集・計測になるので、参考程度にご理解ください。


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