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「ホラーブーム」の解像度を上げまくったら、MBSが日本一怖い会社「株式会社闇」を買った理由がわかった。

2024年、映画『変な家』が興行収入50億円を超えました。映画.comを見ると、動員は328万人。原作は、雨穴さんがYouTubeに投稿した1本の不動産ミステリー動画です。動画が書籍になり、漫画になり、映画になりました。ここまでは、よくあるヒットの階段に見えます。

でも、わたしの職業病は、別のところで引っかかりました。前職のエンタメ企業でエンタメの仕事をしてきた人間は、ヒット作を見ると「この作品の稼ぐポイントはどこだろう、他にないか、何が資産として再利用できるんだろう」と考えてしまうんです。『変な家』で考えたとき、まったく思いつきませんでした。

グッズにできるキャラクターが、いないんですよね。

アクリルスタンドも作れない。コラボカフェも開けない。LINEスタンプにする顔がない。キャラクタービジネスの収益装置が、ほぼ全部使えない。なのに、50億円。

IPビジネスの世界には、長く信じられてきた常識があります。

強いIPには、強いキャラクターがいる。
面白いアニメ、漫画には面白い主人公、つまりキャラクターがいる。

ミッキーマウスから100年近く、ハローキティで半世紀、ポケモンで30年。日本が世界に誇るIPの長者番付は、ほぼそのままキャラクターの番付です。わたし自身、ずっとこの常識の中で仕事をしてきました。キャラクターを立て、キャラクターを育て、キャラクターで稼ぐ。それがIPビジネスの王道で、いまも王道のままです。

だから、問いはひとつです。

キャラクターのいないヒットは、IPになれないのか。

結論から言うと、なれます。しかも、キャラクターIPとは違う種類の資産を積みながら。いまホラーの世界で、その「第二のIPモデル」が同時多発的に立ち上がっています。

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キャラクターの代わりに、何が資産になるのか

先に、答えを置きます。

それは、フォーマットです。

フォーマットと聞くと書類の様式みたいで味気ないですが、テレビの世界では昔から、これが立派な商品でした。2001年に日本テレビで始まった『マネーの虎』を覚えているでしょうか。社長たちの前で、志願者が自分の事業計画を売り込む。あの番組の「構造」そのものが海外に売られて、イギリスでは『Dragons' Den』に、アメリカでは『Shark Tank』になりました。日本テレビによれば、フォーマットの輸出先は50の国と地域。出演者は国ごとに別人なのに、番組は世界中で成立して、本家の日本版より長く続いています。

キャラクターを輸出したのではありません。人を惹きつける「仕掛けの設計図」を輸出した。これがフォーマットの商売です。

そして、ここからが本題なんですが、『変な家』が売ったものも、これなんです。

あの作品の主役は、登場人物ではありません。間取り図です。「この間取り、何かおかしくないか」という違和感の設計。読者が図面を見て、自分で気づいて、自分でゾッとする。その体験の構造が商品だったから、動画でも書籍でも漫画でも映画でも成立しました。キャラクターを移植したのではなく、怖がらせ方を移植した。

キャラクターの隣に、フォーマットIPとでも呼ぶべきモデルがある。わたしはそう整理しています。

ホラーが、いちばん先に証明し始めた

なぜいきなりホラーの話になるのか。いま「キャラクターなしのヒット」が、ホラーの周辺でいちばん密集して起きているからです。

お笑い芸人の好井まさおさんは、2026年8月に東京国際フォーラムのホールAで5,000人を集めます。やることは、怪談を語ること。それだけです。全国ツアーは7月公演分まで全日程完売、年間動員は15,000人超の見込みです。

たっくーさんのYouTubeは登録者295万人。東洋経済に「空前の怖い話ブーム」の火付け役として取り上げられました。

ゾゾゾは100万人、ナナフシギは50万人。配信の恐怖は、もう一つの産業になっています。

「行方不明展」という展覧会は、東京で約7万人、合計約10万人を動員しました。ホラー作家の梨さん、テレビ東京の大森時生さん、株式会社闇という座組です。

映画では『変な家』の50億円に続いて、背筋さん原作の『近畿地方のある場所について』が初週4.4億円で2025年の邦画ホラーNo.1になりました。

そして2026年6月、その株式会社闇が「YAMI GAMES」というゲームレーベルを立ち上げ、Steam向けのホラーゲーム2本を発表。ボードゲーム『くらやみかくれんぼ』は全国の量販店に並んでいます。

ライブ、配信、展覧会、映画、ゲーム。ね、見事に別々の商売でしょう。世間ではこれが「ホラーブーム」「怪談ブーム」という一言でまとめられていますが、見てほしいのはそこではなくて。

この中に、グッズになるキャラクターが、ほぼ一人もいないんです。

怪談師の語る話は毎回違います。行方不明展に主人公はいません。『変な家』の主役は間取り図です。それでも、それぞれの場所でお金と人がちゃんと動いている。キャラクターという「顔」がないまま、5つの別々のビジネスが同時に立ち上がっている。こんな景色、キャラクターIPの世界では見たことがありません。

わたしが「怖い」を設計した日

ここで、少しだけ昔の話をさせてください。この景色がなぜわたしに刺さるのか、の理由でもあります。

前職のエンタメ企業で、わたしは作品がIPになるための設計をやっていました。漫画で当たったらアニメに。アニメが当たったらゲームに。ゲームが当たったらグッズに。この横展開は、キャラクターが好かれている限り成立します。逆に言えば、キャラクターが飽きられた瞬間に、全部止まります。

ある時期、まったく別の案件で「恐怖」を扱うコンテンツに関わったことがあります。ホラーテイストのイベント企画でした。そこで気づいたことが、いまでも忘れられません。

「怖い」は、キャラクターがいなくても機能するんです。

暗い部屋に入れば怖い。不協和音が鳴れば怖い。画面に何も映っていなくても、「何かが映りそう」なだけで怖い。「好き」はキャラクターを知らない人には発動しないのに、「怖い」は初対面の全員に発動する。恐怖は、キャラクターではなく体験の構造に宿っている。キャラクターの世界で生きてきた人間には、これはちょっとした衝撃でした。

だから横展開の設計図が、根本から変わります。キャラクターの横展開は「このキャラを知っている人を、別のメディアへ連れていく」設計です。ホラーの横展開は「この怖がらせ方の構造を、別のメディアに載せ替える」設計になる。連れていくのが、ファンではなく仕掛けなんですよね。

5つの経路をすべて歩く、たった一つの会社

この「載せ替え」を会社ぐるみで実行している例が、一つだけあります。株式会社闇です。

2015年、元グラフィックデザイナーの頓花聖太郎(とんか せいたろう)さんが「大好きなホラーを仕事にする」ために設立した会社で、公式サイトのURLはdeath.co.jp。日本一怖い企業サイトとして話題になりました。

この会社の歩みを時系列で並べると、きれいに「載せ替え」の連続なんです。WebコンテンツとホラーVRの受託制作から始まり、お化け屋敷やホラーイベントのプロデュースに広がり、「行方不明展」で展覧会を当て、YAMI GAMESでSteamのデジタルゲームに入り、『くらやみかくれんぼ』でアナログゲームにも手を伸ばした。映像の経路には、テレビ東京の大森時生さんとの協業で接続しています。さっき挙げた5つのビジネスのうち、少なくとも4つに自分の足場を持っている。ホラー業界で、ほかに見当たらない座組です。

しかも2018年、MBSメディアホールディングスのグループ会社が株式の80%を取得しています。放送局が、ホラーのクリエイティブスタジオを丸ごと買ったんです。さらに2021年には、お化け屋敷プロデューサーの五味弘文さんがEP(エグゼクティブプロデューサー)に就任しました。五味さんは1992年から100作以上、日本のお化け屋敷を「歩くだけの暗い通路」から「ストーリーのある体験」に変えてきた人です。


放送局の資本、体験エンタメのレジェンド、テレ東の仕掛け人。頓花さんは自分たちの仕事を「ホラテク」(ホラー×テクノロジー)と呼んでいますが、ここまで並べると、技術の話というよりメディアを横断するための座組の話に見えてきます。彼らが運んでいるのはキャラクターではなく、怖がらせ方のフォーマット。フォーマットならメディアの壁を越えやすい。行方不明展の「歩いて、読んで、考えて怖くなる」という構造は、お化け屋敷にもゲームにも転写できるからです。

ここから先で読み解くこと

ここまでで、「キャラクターがいなくてもIPは立つ」こと、そしてそれを1社で実演している会社があることまでは、お見せできました。闇という会社の動きは、もう自分で読めるはずです。

ここから先は、その地図をわたしの職業の言葉に翻訳していきます。具体的には三つです。ライブ、配信、体験、映像、ゲームの5つの経路は、5年後に手元へ残す「資産」の種類がまったく違います。どの経路が何を積み上げるのか。MBSという放送局は、なぜホラー番組の制作会社ではなく、この会社を買ったのか。そして、このモデルはホラーの外、エンタメビジネス全体のどこまで波及するのか

ここで、わたしの結論を先に置いておきます。

「強いIPには、強いキャラクターがいる」。この常識は、これからも王道であり続けます。でも、現場でキャラクターの寿命と戦ってきた側から見ると、MBSが買ったものの正体は、ホラー制作会社ではありません。キャラクターの寿命から自由な、次のIPモデルの実験機です。

5つの経路(ライブ・配信・体験・映像・ゲーム)は、仲良く並んでいません。5年後に手元へ残す「資産」の種類が、それぞれまるで違います。そして、いちばん"消耗の遅い"資産を残すのは、このうち1つだけ。

MBSがホラー番組の制作会社ではなく闇という会社を買ったのは、その1つを手に入れるためでした。それは

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