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『銀河の一票』が面白いから観てほしい!

最近は月曜夜10時が一番楽しみな時間。と言ってもいい気がする。

なぜなら、『銀河の一票』が面白いからである。黒木華が演じる元選挙秘書と、野呂佳代が演じるスナックのママが、東京都知事選に挑む話だ。あらすじだけ聞くと、よくある「政治もの」っぽいですよね。私も最初はそう思っていました。

だが観始めたら全然違って、4話まで来た時点で「あ、今期これだな」と確信してしまったんですよね。

でも、なんでこんなに好きなのかが、最初は自分でもすぐには言葉にできなかった。「テンポがいい」「会話が気持ちいい」くらいしか出てこない。いや、それじゃ何も言ってないのではないか、と思って二周目を観ている。というのがこの記事のスタートラインです。今日は『銀河の一票』を観ながら感じたことを、そのまま記事してみる。

このnoteでは「エンタメ解剖」シリーズと題して、エンタメ作品の面白さを自分なりに言葉にする記事を書いています。気になる方はフォローして他の記事も覗いてもらえると嬉しいです。

選挙ドラマなのに、政策の話がない。

最初に気になったのが、これは選挙ドラマなのに、政策の話がほとんど出てこない、ということでした。

比較対象として頭にぼんやり浮かんだのが、アメリカの政治ドラマである。『ザ・ホワイトハウス』『ハウス・オブ・カード』ーーああいうやつ。あの界隈のドラマはだいたい「どんな政策で勝負するか」が物語の真ん中にある。経済政策がどうとか、移民政策がどうとか、そういう論争が画面の中心を回っている。それに対して主人公がどういうポジションをとっていくか。

選挙ドラマとは、本来そういうものなんだろう。

ところが『銀河の一票』をその目線で観返してみると、政策っぽい話がほとんど出てこないんですよね。少なくとも4話時点までは。出馬会見も、街頭演説も、選挙公約の擦り合わせも、政策の具体名すら出てこない。

これはたぶん、抜けているのではない。抜いてある、のだ。

ついでに気になっていたのが、茉莉とあかりの会話のリズム。最初は「掛け合いが気持ちいい」くらいの感想だったのだが、なんで気持ちいいんだろうと思って観返してみたら、セリフの長さが、わざと不揃いになっていることに気づいた。

https://www.crank-in.net/news/184675

黒木華が演じる星野茉莉は、政界を追い出された元選挙秘書である。頭の回転が速くて、計算高くて、腹黒さが住み着いている。でも不器用に真っ直ぐな人間。

https://realsound.jp/movie/2026/05/post-2386305.html

一方の野呂佳代が演じる月岡あかりは、スナックのママ。政治の知識はゼロ、でも人の痛みを瞬時に嗅ぎ取れる人間。

https://www.iza.ne.jp/article/20260425-ODHKEQSRJRCZ5NRHOMR5C4ZBAM/

茉莉は長く喋る。論理を組み立てて、相手を詰めて、正論を言う。そのあとに、あかりの一言が来る。「でもさ」とか「うん、それで?」とか、そのくらい短いやつ。で、その短い一言が、茉莉の長い説明をスッと吹き飛ばす。

毎話これやる。毎話これをやるのに、飽きない。
なんならもっと観たいまである。

同じ会話をしていても、最初の頃の「でもさ」と、4話の「でもさ」では温度が違う気がする。あかりの「でもさ」が、茉莉を否定するためのものから、二人で一緒に考えるためのものに変わっていく。同じひとことなのに、二人の関係が少しずつ変わっていくからかもしれない。これに気づいたあたりで、「脚本おもしろっ」と声が出た。

https://realsound.jp/movie/2026/04/post-2379265.html

松下洸平もばっちりはまり役で、日山流星という表の顔と裏の顔を使い分ける政治家の人物を演じている。私が知ってある中で松下洸平の1番のはまり役にすら感じましたね。いい感じに胡散臭さと腹黒さと誠実さが混ざっていてバランスがいい。声のトーンが一段低いまま感情を動かすのが、彼の持ち味だと思う。

茉莉、あかり、洸平。全員が表と裏という二重の顔を持つ。このドラマは構造のレベルで「二つの顔」を反復させているのかもしれない。

https://www.oricon.co.jp/drama/614/cast/

4話で五十嵐隼人という「選挙の天才」が陣営に加わる。岩谷健司さんが演じるこの参謀のおじさんが、もう最高だ。

その最強の参謀は、コインランドリーで困っている人たちに手を差し伸べている、元選挙のスペシャリストだ。ちょっと疲れたくたびれたおじさんで、華やかさはゼロであるが、這い上がるしかない設定でテンション上がる。

・政策
・強い仲間
・信念ある主人公

このドラマはたくさん政治ドラマにありそうなものを抜いている。
残りに、何を置きたいのか。そこが本題なのではないか、と思うんです。

『銀河の一票』であかりが都知事選に出ようと決めるのは、政治的な野心からではない。スナックに来る常連客の、言葉にならない苦しみを見続けてきたからである。「助けて」と言えない人がいる。その人の声を、自分が届けたい。出馬の動機は、そこにある。

4話で、あかりが落ち込んでいる人に向かって、こう言うのだ。

失敗じゃない。穴に落ちちゃっただけ。

穴に落ちた人に「這い上がれ」とは言わない。「落ちちゃっただけだよ」と、まず事実を柔らかく言い直してあげる。

このセリフと、政治ゲームぽい政策が描かれないことと、参謀がコインランドリーにいることが、自分のなかで線でつながった気がしました。たぶんこのドラマがやろうとしているのは、「助けて」と言えない人の喉元まで降りていくこと、なのかもしれない。

政策では届かない場所に、ドラマだから降りていける。

これは完全に的外れかもしれない。が、そう思って観ると、毎話のセリフが全部、その方向を向いている気がしてくる。

蛭田直美と、カンテレ

脚本を誰が書いているのか気になって調べた。

蛭田直美さんだ。

https://www.ch-ginga.jp/detail/funewoamu/

過去作を並べてみると、NHK BS の『舟を編む〜私、辞書つくります〜』(ギャラクシー賞上期入賞、東京ドラマアウォード2024優秀賞)、NHK の『これは経費で落ちません!』『しずかちゃんとパパ』『Turkey!』。並べた印象として「観たら忘れられない」系が多い。

蛭田さんのインタビューを読んでいたら、面白い話があった。「プロットを書かない」スタイルらしい。物語の骨格を先に決めるのではなく、まずキャラクターの「脳」を作り込む。この人はどんな環境で育って、何が好きで、何が怖いか。そこまで作ってから、キャラクター同士を会わせる。すると勝手に動き出して物語ができる、というやり方らしい。

キャラクターの脳を作るとは、要するに「内側から人を立ち上げる」ことだ。と想像できる。

これを読んだとき、あ、だから茉莉とあかりの会話が"書かれてる"感じがしないのか、と腑に落ちた。プロットから逆算したセリフではなく、キャラクターの内側から出てきた言葉だから、こっちにも自然に届くのかもしれない。

『舟を編む』を観た人ならわかると思うのだが、あのドラマも辞書編纂という地味な仕事を通じて「言葉」を丁寧に扱っていた。言葉に対する解像度の高さ。それが『銀河の一票』にもそのまま流れている気がして、根っこにあるものは似ている気がするんです。

そういえば、と思って気になったのが、『銀河の一票』はカンテレ制作だ、ということだった。

https://tver.jp/series/sr8mvl7qv9

エルピス、覚えているだろうか。ギャラクシー賞大賞・放送文化基金賞最優秀賞、冤罪事件を扱ったあの作品。あれもカンテレだった。わたしは大好きだった。『アンメット〜ある脳外科医の日記〜』も、記憶障害を抱えた医師という、ふつう主人公に据えにくい設定で勝負していた。これもカンテレ。

並べてみると、共通点がある気がしてくる。題材が攻めていて、しかも「テレビドラマの常識」と少し違う脚本家を起用している。エルピスの渡辺あやさん、アンメットの篠崎絵里子さん、銀河の一票の蛭田直美さん。

カンテレが攻めた作品を出せる理由については、「キー局より編成判断のレイヤーが薄い/政治部を持たない」といった話を聞いたことがある。どこで見たり聞いたりしたかは忘れた。たしかにこういった組織体質は、選挙ドラマを正面から作るには大事な条件かもしれない。とはいえこれは中を知らないので、断言できない。なるほどそういうもあるのかもな、くらいに受け取っている。

いまの時代、テレビドラマで「政策」をまっすぐ描くのは、たぶん難しい。リアルの政局と被るリスク、スポンサー、クレーム、炎上。だからこそ、政策を描かないという選択そのものが、正解。そして、ざわざわするテーマのドラマを扱うことに、カンテレという企業の体温があらわれているのかもしれない。

最後に、私が一番好きなシーンの話をさせてほしい。

4話で、茉莉が五十嵐隼人を参謀に迎えるくだりである。

ここまでの3話で、茉莉とあかりの二人は、明らかに勝てない戦いに挑もうとしていた。東京都知事選。相手は現職と大物政治家。茉莉には選挙の知識があるけれど、金もコネも組織もない。あかりには人の心をつかむ力があるけれど、選挙の実務はまったくの素人。

そこに五十嵐が加わる。元幹事長秘書で、選挙のプロ中のプロ。でも表舞台から退いていて、職場と化したコインランドリーでひっそり暮らしている。茉莉が彼を説得して陣営に引き入れ、裏の銭湯がそのまま選挙事務所になる。

構造だけ取り出すと「勝てなそうな二人の陣営に、最強の参謀が加わる」という、王道のチーム結成だ。最強の参謀は、廃業した銭湯に選挙事務所を構えようとしている、ちょっと疲れたおじさん。華やかさはゼロ。

そのゼロの華やかさが、このドラマのトーンにすごく合っている。

というわけで

月曜の夜10時、私はこのドラマだけは絶対に観るようにしている。観ながら少しずつ「ああ、ここがいいのか」と発見していく感じが続いていて、それがまた楽しいのだ。

みんなにも観てほしい。

それでは。


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