アイドルビジネスにおける4つの収益源の考察
いま「アイドル」と呼ばれているビジネスは、4つの収益源があります。
Snow Manの『オドロウゼ!』が987,006枚。乃木坂46の『ビリヤニ』が781,492枚。どちらも Billboard JAPAN が発表した2026年上半期の数字で、CDの売上枚数の1位と2位です。集計は2025年11月下旬から2026年5月下旬までの26週。この2組が積み上げたのは、CDの枚数です。
アーティストチャートを見ると、2位にHANAが入っています。前年は31位だったので、1年で29ランク上がったことになります。5位は M!LK。前年は圏外です。総合ソングチャートでも M!LK の「好きすぎて滅!」が2位に入っていまず。
同じ半年のあいだに、Number_i が米 Atlantic Records とのレーベル契約を発表しています。2026年5月18日でした。
そして上半期が終わったあと、この夏の TOKYO IDOL FESTIVAL 2026 には、212組1,495人が出演しています。
ここに出てきた方たちは、どこかで一度は「アイドル」と呼ばれています。
でも、この人たちは同じ商売をしていません。売っているものも、お金が入ってくるタイミングも別ものです。
わたしの見立てでは、「アイドル」という言葉はいま、4つの別々の商売に割れています。分ける単位は、収益の主柱です。CD・特典型、ストリーミング型、海外レーベル型、接触・チェキ型。本記事では、そのアイドルビジネスの4つの収益源について深掘っていきます。
割れたのは「アイドル」ではなく収益源
歌って踊る若い人がいて、テレビに出て、CDを出して、握手会をやる。この一式をまとめて指す言葉として、「アイドル」は正確でした。作る側も、売る側も、聴く側も、その言葉ひとつで同じ絵を思い浮かべられたんですよね。
割れたのは、言葉のほうではありません。商売のほうです。
お金の入り口が増えました。サブスクの再生から入るお金、海外の会社を経由して入るお金、その日に現場で現金として入るお金。同じ看板を出していても、レジをどこに置いているかが違う。入り口が増えれば、そこに合わせて事業の形も分かれていきます。分かれたのに、上に乗っている言葉だけが1つのまま残りました。
ひとつめ。CD・特典型
売っているのは、枚数です。
Snow Man の987,006枚と乃木坂46の781,492枚は、この型のいちばん高いところにある数字です。
この型の特徴は、お金が立つタイミングがはっきりしていることです。発売日に、ほとんどが立ちます。しかも予約の段階で数がかなり読めるので、何枚作るかも、いくら宣伝に使うかも、発売の何か月も前から逆算して組むことができます。事業としては、4つのなかでいちばん計画が立てやすい、読みやすい形なんですよね。
その代わり、上限のつくられ方もはっきりしています。売れる枚数は、ファンの人数と、1人が何枚買うかの掛け算で決まります。人数を増やすのが難しい局面では、1人あたりの枚数を増やす方向に圧がかかります。封入特典やイベント応募の設計が細かくなっていくのは、この力学からきています。
この設計を批判するのは簡単なんですが、事業としてはきれいに筋が通っています。読める需要を、読めるかたちで積む。テレビの露出が減っていく時代に、自分の力だけで数字を作れる仕組みを持っています。よくできています。
そして、この型で5年後に手元に残るのは、名簿です。
原盤ではありません。
ファンクラブの会員数と、その人たちにもう一度買ってもらえる関係。あとは、あれだけの人数が動く現場を安全に回せる運営の練度。この2つが資産で、曲そのものは資産の中心にいません。極端に言うと、この型は音源の売買の上に、会員制の商品の売買が重なっている構造なんです。
だから、この型をストリーミングの再生数で評価すると、話が噛み合わなくなります。再生数はこの商売の目的変数ではないからです。目的変数というのは、その事業がいちばん増やしたい数字のこと。見るべきなのは初週の枚数と、会員数が減っていないかどうか。それだけです。
わたしはこれまで、エンタメ企業の事業統括・プロデューサーをしていました。新しい事業や企画を立てるとき、収益の柱をどこに置くかを先に決めていました。柱が決まらないと、そのあとの予算をどこに積むかが決まらないからです。いちど決めた柱を途中で変えるのは、かなり難しいんです。
ふたつめ。ストリーミング型
売っているのは、再生です。
HANA はアーティストチャートで前年31位から2位に来ました。M!LK は圏外から5位で、「好きすぎて滅!」は総合ソング2位の143,142ポイント。ストリーミングの再生だけを集計した Streaming Songs では、上半期のトップ20に男性ダンス&ボーカルグループが3組入りました。これは史上初です。
その3組には Snow Man も入っています。CDで1位だった側が、ストリーミングの上位にもいます。4つの型は、グループに貼るラベルではなく、収益の柱につける名前です。またがりは普通に起きるので、見るのはどれが主柱か、そこだけになります。
この型のお金は、発売日には立ちません。少しずつ、長く、あとから入ってきます。1回の再生で動く額は小さいので、まとまった金額になるまでには時間がかかります。
ただ、払っている人がまったく違います。
CD・特典型でお金を払うのは、そのグループのファンです。ストリーミング型で払っているのは、サブスクの月額を払っている人の全員です。ファンではない人の再生も、ファンの再生と同じ1回として数えられます。ここが決定的なんですよね。この型だけは、まだファンになっていない人、そのグループの名前を今日はじめて見た人からもお金が入ってくる経路を、最初から商売のなかに持っています。
だから、積み上がるものの置き場所も変わります。ここで残るのは名簿ではなく、曲そのものと、その曲が回り続けている状態です。プレイリストに入ったままである、ショート動画で使われ続けている、という状態。原盤を誰が持っているかが、そのまま効いてきます。
上限の位置も違います。ファンの人数で天井が決まらないので、理屈のうえでは上限はほぼなしで伸びていきます。
みっつめ。海外レーベル型
売っているのは、権利です。
Number_i が Atlantic Records とのレーベル契約を発表したのは、2026年5月18日。契約の中身は公表されていないので、条件は分かりません。分かるのは、海外で売るための回路を、現地の会社が持っているものに乗せた、ということだけなんです。
この型でやりとりされているのは、曲でも枚数でもありません。どの地域で誰が売るか、その売上を誰がいくら取るか、権利を誰が持ち続けるか。この設計が中身のほとんどです。
お金の入り方は、4つのなかでいちばん遅い型です。前払いと料率で、回収は年単位になります。半年のチャートには、まず出てきません。
そのかわり、うまくいったときに手に入るものが違うんですよね。現地の流通と宣伝の回路そのものに、乗せてもらえるようになります。これは日本国内でどれだけCDが売れても手に入らないものですし、逆に言えば、この型はCDの枚数では1ポイントも評価できません。
測るとすれば、現地の回路にどこまで深く乗れたか、次の契約を自分の条件で結べる位置に来ているか。この2つは、枚数でも再生数でも代わりになりません。※現地回路の話については下記の記事がよくわかると思いますので合わせてどうぞ。
よっつめ。接触・チェキ型
時間です。
さきほどの TOKYO IDOL FESTIVAL のステージに立っていた人たちのなかには、この型を主柱にしているグループがたくさんいます。物販の列に並んで、チェキを撮って、少し話す。その一回分に値段がついています。
回収は、4つのなかでいちばん速いです。その日のうちに、現場で決まります。チャートも配信の集計も通りません。
原価になっているのは、人と時間そのものです。1日に会える人数には上限があって、そこは超えられません。だから規模は伸びにくくなります。ただ、同じ理由で外の環境に振り回されにくくもあるんです。配信プラットフォームの仕様が変わっても、目の前の列は消えません。
積み上がるのは、名簿でも原盤でもなく、顔と名前を覚えている人の数です。
そして、Billboard の上半期チャートをどれだけ眺めても、この型の商売は数字として現れてきません。つまり「いまのアイドル」をチャートだけで語ると、4つのうち1つがまるごと視界から消えます。
4つは、それぞれ別の商売です
並べ直すと、こうなります。
CD・特典型は枚数を売り、ストリーミング型は再生を売り、海外レーベル型は権利を売り、接触・チェキ型は時間を売っています。
お金が立つタイミングも、発売日、数か月かけて少しずつ、年単位、その日の夕方、と全部ちがいます。払う人も、ファン、サブスクの加入者、海外の会社の先にいる人、目の前に並んでいる人、と全部ちがいます。

図にまとめました。4つ型はグループやアーティストたちに貼るラベルではなく、収益の主柱につける名前です。
こう見ると、もう別の産業でしょう。
これだけ違うのに、同じ「アイドル」で呼ばれています。そうすると、2か所で混線が起きます。
ひとつは、人です。
「アイドルのプロデューサー」という同じ肩書きなのに、要る技能がまるで違います。CD・特典型で効くのは、予約数の読みと、大人数を安全に動かす現場運営です。ストリーミング型で効くのは、曲と、聴かれ続ける状態をつくる回路の設計。海外レーベル型で効くのは、契約書を読んで条件を詰める力。接触・チェキ型で効くのは、日々の運営と、演者が消耗しない設計です。
この4つは、経験が横に持ち運べません。
CD型で10年やってきた人が、ストリーミング型でもそのまま強いとはかぎりません。逆もそうです。それでも採用の側は「アイドルの経験がある人」というひとくくりの条件で探してしまいます。入ってもらってから、ほしかったのはこの技能ではなかったと気づく。悪いのは採ったほうでも、来たほうでもありません。言葉が1つしかないせいです。
もうひとつは、評価です。
「いま、どのアイドルがいちばんすごいのか」という問いに、答えが出せません。CDの毎週、ストリーミングチャート、チェキの枚数は、そもそも比べられる数字ではないからです。単位が違います。土俵も別です。
単位が違うのに同じ言葉で括られているので、当事者は自分が選んでいない型の数字で説明を求められることになります。CDが強い側は「サブスクで弱い」と言われ、ストリーミングが強い側は「CDが売れていない」と言われ、現場で毎日回している側は「チャートに入っていない」と言われます。どれも、その商売の目的変数ではないんですよね。
事業の判断でも同じことが起きます。「アイドル事業をやります」という企画に、4つのうちどれなのかが書かれていないことがあります。書かれていないと、必要な人も、必要な資金も、回収までの年数も決まりません。それでも同じ言葉なので、書き忘れても企画書として成立してしまいます。ここがいちばん、もったいないところだと思っています。
何を売るかを、先に決められる
4つに割れたことは、悪い知らせではないと思っています。むしろ、選べる入り口が4本になった、という話です。
しかも、この半年から夏にかけて起きたことが、その4本ともいま実際に通れることを示しています。HANA と M!LK が、ストリーミング型の入り口を開けました。Number_i と Atlantic の契約は、海外レーベル型の入り口も通れることを示す一例です。接触・チェキ型はチャートに出てきませんが、この夏のフェスのステージの数が、そのまま入り口の広さになっています。

出典:Billboard JAPAN 2026年上半期チャート(集計期間 2025年11月24日〜2026年5月24日)・ORICON NEWS を基に筆者作成。①②は上半期26週の数字、③は同期間中の発表、④は上半期の集計期間より後(2026年夏)の出演規模です
だから、プロデューサーが最初に決めるのは、楽曲でも衣装でもコンセプトでもありません。どの柱で立つか、です。
柱が決まると、そのあとは順番に決まっていくんです。CD・特典型で立つなら、名簿をどう作るかから逆算します。ストリーミング型で立つなら、原盤を手放さない設計を先に組みます。海外レーベル型で立つなら、最初の契約書で権利を手元に残せるかから交渉します。接触・チェキ型で立つなら、顔と名前を覚えてもらう速さより先に、演者の時間をどう守るかを決めます。順番が逆になると、あとから直すのがかなりきつくなります。
なぜ、あとから直すのがきついのか。積み上がるものが、型ごとに別物だからです。
名簿は、ストリーミング型に持っていってもほとんど効きません。そこに載っているのは、もうその曲を買った人だからです。原盤を持っていても、物販の列は伸びません。
現地の回路は、チェキの1枚に換金できません。顔と名前を覚えている人の数は、初週の枚数になりません。4つの資産は、隣の型では使えないんですよね。
だから柱を変えるというのは、方針を変えることではなくて、それまで積んだものを一度ゼロに戻すことになります。ビジネスの言葉で言うと、ピボットではなく撤退して再始動が近いかも。
そして、いちばん変わったのは海外レーベル型だと思うんです。少し前まで、海外を主柱に置く設計は、かんたんに選べる選択肢ではありませんでした。いまは、そこを選んだ人が実際に契約まで到達しています。始める前に、そこを狙うと決めていいんです。そういう時代になった。
4つに割れた、というより、選べる柱が4本に増えた。そう読むほうが、実態に近いと思うんですよね。
それでは。
ここまで読んで、HANA はアイドルではなくアーティストでしょう、と思った方がいると思います。その感覚のほうが、たぶん正確です。Number_i も M!LK も同じで、いま「アイドル」という枠に入れると、どこかが引っかかる。ただ、引っかかるようになったのは、ここ数年のことなんですよね。本記事は、Billboard JAPAN の各チャートで「アイドル」と並べて語られるものを、収益の主柱で分類したものです。HANA・Number_i・M!LK をアイドルに分類する意図はありません。同じ言葉で括られてしまうこと自体が、本稿の主題です。
朝日けけ。
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