【指導者インタビュー】保護者は“今どこにいるか”を見る。指導者は“今とその先”を見る千葉のクラブVIVAIO船橋代表が語る、育成と保護者のズレ
「親御さんって、どうしても“今うちの子がどこにいるか”を見るじゃないですか。
でも、僕らが見なきゃいけないのは、今とその先なんです」
千葉で長年クラブ運営と育成に関わってきた、VIVAIO船橋代表・渡辺さんの言葉です。
同じ子どもを見ていても、保護者と指導者では見ている時間軸が違う。
親は“今”を見る。
今どの位置にいるのか。どのカテゴリーなのか。評価されているのか。
一方で指導者は、“今とその先”を見る。
12歳までに何を積み上げるのか。15歳でどう変わるのか。
そして16歳、17歳でピッチに立てるかどうか。
「保護者にすべてを理解してもらうのは難しいです。
でも、少しでも情報を発信して、ズレが大きくならないようにしないと危ない時代だと思っています」
「うちの子はAに入れますか?」という問い
今回のインタビューで印象的だったのは、保護者の“位置”への意識でした。
「結局うちには入らなかったのですが、入団前にAですか?Bですか?と聞かれたことがあります。
“うちの子はAに入れますか?”って。
クラブとしては、SNSを通して外部にも育成の考え方や方針をオープンにしています。
それでもなお入団前に、「どこに入れるのか」を気にされるんですよね」
「結局、それって子どもが“どこでプレーするか”より、“どこに位置づくか”を見てるんですよね」
子どもの成長環境として合うかどうかよりも、
自分の子が上のカテゴリーにいるかどうか。
その視点が先に来る。
「極端に言えば、“そこに入れるなら行きます”っていう判断になる」
実際に他クラブでは、合格を出したあとにこう聞かれることもあるそうです。
「Aチームですか?Bチームですか?」
そして、
「Bチームならじゃあ今回はやめます」
そういうケースも、珍しくなくなってきていると言います。
「一方で、これまではありえなかったのですが、かなり遠方から来てくれる子も出てきました。
そのご家庭の近所には強いクラブがいくつかあるんですよ。そこを飛び越えてわざわざうちにくる意思があるということです。
多くのご家庭は、チームが強いのか、子供がAでプレーできるのかという部分を重視する一方で、子どもの成長環境に合うかというところも見て選ぶ方もいます。
情報化社会と親御さんの熱量、すごい時代だな、と思いますよね」
「僕も、もともとは勝ちたい人間だった」
渡辺さん自身も、最初から今の考えだったわけではなかったそうです。
「僕も、もともとは勝ちたい人間だったので」
そして、こう続けられました。
「週末の試合。リーグ戦の順位。結果を出すことが一番大事でした。だって、勝った方が選手も集めやすいし気分いいじゃないですか。
昔は、レギュラーを固定して試合を回して 交代は限られた人数だけ、というマネジメントもしていました。でも、ある時期から考えが変わっていきました」
「結局、私たち大人が先導するのではなく、選手が楽しい、もっと巧くなりたいと思えること。高校だけでなくチャンスがあれば大学とか、その先でサッカーを続けられるかどうか。 そこを見ないといけないな、と思ったんです。今では、できるだけ多くの選手に経験の場を用意しています。毎回スタメンを変えて多くの選手に経験の機会を用意できるようになりました」
「どこで伸びるかわからない子どもの可能性を、早く決めすぎないためでもあります」
選手に気づかされた「自分の基準の低さ」
ーーどんなきっかけで変わったのでしょうか。
「ある選手が、中学2年の段階で高校生の中に入ってプレーしたときのことです。
正直、その時は“一瞬でも良さが出ればいいな”くらいに思ってたんです。
でも実際には違いました。普通にやるんですよ。高校生の中で」
その姿を見たとき、強く思ったそうです。
「自分の基準が低すぎたな、って
大人が勝手に「このくらいはやるだろう」と見積もっていたものを、その子は想定を超えていったんです。
選手って、こっちが思ってるより全然上に行くんですよね」
そこから、より強く「子供から学ばないといけない」と意識するようになったそうです。
子どもの可能性を、早い段階で決めつけないこと。
そして、小さい年代から“その先”を見据えて関わること。
「昔は、子どもたちが僕の顔色を見ていました」
その変化は、子どもたちにも表れていると言います。
「昔は、僕の顔色を見てたんですよ」
ミスをしたらどう思われるか。
怒られないか。
評価が下がらないか。
そうした空気の中では、子どもはチャレンジしなくなります。
「今は、負けても“じゃあ次どうする?”って話ができるようになったんです」
勝敗の感情よりも、
何が足りなかったのか、どうすれば良くなるのかに目が向く。
「子どもたちに学ばされた部分は大きいですね」
「今の育成現場は、かなり危ないと思っています」
ーー育成環境全体はどんな状態になってるんでしょうか。
「今の現場って、かなり危ないと思ってます」
理由はシンプルです。
「選手が分散しているんです。
昔のように、能力の高い子が一つのクラブに集まるわけではない。
その一方で、多くのクラブは”そこまで能力が高くない子を丁寧に育てて、伸ばしていく経験”を十分に持っていません。
上手じゃない子を上手にする経験を、大人があまり積めてないんですよ」
その結果、何が起きるのか。
「どうしても、勝つ方に寄るんですよね。
一部リーグに残るため。 順位を落とさないため。結果を出すため。
そうなると、本来必要な“育てる時間”が削られていきます。
「試合を見れば、中盤がなくなっています。
余裕がない中、選択肢少なく前に蹴るプレー、リスク回避のプレーがかなり多くなっています。
ボールを大事にする。判断を育てる。ゲームを作る。
そういったプロセスよりも、まず勝つことが優先されてしまう」
情報が増えた時代の保護者たち
保護者についても、大きな変化を感じていると言います。
「今は情報が多いですよね。
SNSで試合も見られる。進路も見える。評判もすぐ入ってくる。
自分の意見に合う情報を取りやすい時代だと思います。
それ自体は悪いことではありません 実際、クラブの考え方を理解して選んでくれる家庭も増えています。
ただ一方で、どうしても、目先のジャッジになりやすいんですよね。
順位。カテゴリー。AかBか。進路実績。見えやすい情報に引っ張られやすくなる」
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