年金少ないからね、とあの70代は笑っていた。
先日、配送の合間に70代のドライバーさんと少し話した。
元気な方だった。荷物も普通に運ぶ。受け答えもしっかりしている。最初は70代には見えなかった、正直に言うと。
雑談の中で、その方が笑いながらこう言った。
「年金少ないからね。まだハンドル握ってるよ。」
冗談っぽいトーンだった。笑顔だった。でもその言葉が、なぜか頭から離れなかった。
軽貨物の現場では、いろんな話が出る。
どの案件が単価いいとか。あのステーションは荷量が多いとか。UberEatsは最近どうだとか。そういう話は飽きるほど聞く。
でも老後の話は、ほとんど出てこない。
不思議だな、とずっと思っていた。
私はサラリーマン時代、それなりに制度や契約の話に触れてきた。今は起業して、副業で軽貨物もやっている。
たまたま身近に、お金や年金に詳しい人間もいる。
そういう人間から見ると、軽貨物の現場には届いていない話がいくつもある。
配達中、階段5階を見るたびに思うことがある。
今は普通に上がれる。息は切れるが、脚は動く。
でも10年後はどうだろう。15年後は。
タワマンもある。置き配不可もある。真夏の炎天下もある。
軽貨物は身体が資本の仕事だ。59歳の私が言うと、少し笑えない話になってくる。
誤解しないでほしい。
軽貨物を辞めろと言いたいわけじゃない。不安を煽りたいわけでもない。
私はこの仕事が好きだ。配送中に見える景色も、気まぐれな道も、たまに話しかけてくれるお客さんも。だから続けている。
ただ、現場で知り合った人たちと話していると、「もっと早く知っておけば」と思う制度や仕組みが、世の中にはある。
年金。社会保険。iDeCo。小規模企業共済。マイクロ法人。
経営者の世界や金融の現場ではごく普通に出てくる話が、軽貨物の現場にはなかなか届いていない。
このシリーズでは、難しい話はしない。
現場で感じた違和感をもとに、「こんな考え方もある」という話を共有していきたいと思っている。専門家の話ではなく、現場を走りながら考えた59歳のおやじの話だ。
あの70代のドライバーさんは、別れ際にこう言った。
「まだ元気だからね。」
前向きな言葉だった。笑顔だった。
だからこそ思う。元気なうちに考えられることは、元気なうちに考えておいた方がいい。
次回は「サラリーマンを辞めた日に、厚生年金も消えた。」という話を書く。
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