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「君がここに居た理由。」⭐︎

↓noteオリジナルの短編小説です。

夜の山道を下りながら、ヒトミは少し後悔していた。

「やっぱりやめときゃよかったかも。」

友だちに誘われて、なんとなく行った心霊スポット。取り壊されたトンネルの跡地。

数年前に事故があって、そのまま封鎖された場所だと聞かされた時点で引き返すべきだった。

でも、怖いもの見たさと、ちょっとしたノリで、ヒトミはつい同行してしまった。


「うわーやっぱ無理!ヤバいヤバいって!」

「もう帰ろ、マジで無理や」

友だちの叫び声に追われるように、皆が車へと戻る。

エンジンをかけて、坂を下りるその道の途中、ふと、ヒトミの目に一人の青年が映った。


暗い道の脇、街灯も届かない場所で、まっすぐに立っているその姿。

黒いコートに、やや長めの髪。目を凝らさなくてもわかるほど整った顔立ち。

それなのに、どこか儚げで、空気に溶け込みそうな輪郭をしていた。


その人が、ふとこちらに目を向けた。

ヒトミと、目が合った。


「、え?」

その瞬間、車がカーブに入り、
視界が流れて、彼の姿は見えなくなった。

ただ、なぜかヒトミの胸の奥には妙なざわめきが残った。怖さとは違う、もっと柔らかくて、でも切ないもの。

そして、不思議なことに、それからというもの、ヒトミはたびたびその青年に出会うようになった。

たとえば、家の近くの公園で。

たとえば、帰り道の踏切で。

たとえば、雨の日の書店で。


彼はいつも、何かを思い出そうとするような表情をしていて、でもヒトミに気づくと、必ず優しく微笑んだ。

ある日、ついにヒトミは勇気を出して声をかけた。


「、、あの、よく会いますよね?」

青年は少し驚いたような顔をして、でもすぐに、あの穏やかな笑みを浮かべた。

「うん、そうだね。偶然って、重なるものなんだね」

「名前、、聞いてもいいですか?」

「アキト。君は?」


その名前を聞いた瞬間、胸の奥がぎゅっとなった。

どこかで聞いたような気がする。

けれど思い出せず、ヒトミは自分の名前を名乗った。


そこからは、自然だった。

何度も偶然に出会い、気づけば一緒に歩き、コーヒーを飲み、映画を観て、季節が変わるのを感じた。

アキトは、いつも少し寂しげだったけれど、ヒトミの話に静かに耳を傾け、時折くしゃっと笑った。

その笑顔に、ヒトミは次第に惹かれていった。


だけど、いつも決まって、夜の10時を過ぎるとアキトは姿を消した。

「もう行かないと」と、必ずその一言を残して。


そして、ある日の夜。

公園のベンチに並んで座っていたとき、アキトがぽつりと呟いた。

「ヒトミ、君に話しておかないといけないことがあるんだ」

「え?」


「君が最初に僕を見た場所、覚えてる?」

「心霊スポットの帰り道。あの時、道の端に、、」


「そう。あれが、最初で最後の“本当の偶然”だったかもしれない」

ヒトミは戸惑った。アキトの声はいつになく低く、震えていた。


「今から、一緒に来てほしい場所がある。真実を見てほしい」

そして、アキトに連れられてたどり着いた先は、病院だった。


「どういう、こと?」

「もうすぐ、会える。僕のすべてを」


ヒトミは訳が分からないまま、アキトの背を追った。

静まり返った廊下。面会終了時間を過ぎた病棟。

なのに、不思議と誰にも止められなかった。


最後にアキトが立ち止まったのは、薄暗い個室の前だった。

「この部屋に、、僕がいる」

「、、え?」


扉を開けた瞬間、ヒトミは息を呑んだ。


そこには、ベッドに横たわる青年がいた。

無数のチューブに繋がれ、眠るように目を閉じたままの姿。


「、、アキト、、さん?」

ヒトミが振り返ると、アキト、さっきまで隣にいたはずの彼の姿は、もうなかった。

代わりに、病室の静寂の中で、わずかな電子音だけが響いていた。


意味がわからなかった。夢?幻?

でも、そのとき、アキトの手の指が、ほんのわずかにピクリと動いた。


「、、っ!」

看護師が駆け寄る。

「今、動きました!先生!」


慌ただしく動く医師たち。

その騒がしさの中で、アキトのまぶたがほんの少し、震えた。


ヒトミは、声にならない声で泣いた。


きっと彼は、ずっと眠ったまま、心だけが彷徨っていたのだ。

そして、自分のことを見つけ、惹かれて、傍にいた。

気づいたときにはもう、恋に落ちていた。


目の前のアキトが、ほんのわずかに、唇の端を動かしたように見えた。

まるで、笑っているように、あの日、公園で見せてくれた、あの笑顔のように。


ヒトミはそっと、彼の手に触れた。

もう迷わない。今度こそ、ちゃんと伝えたい。

「やっと、会えたね。」

その言葉に応えるように、アキトの指が、確かに握り返した。


これは、奇跡の始まり。

ふたりの時間は、ここからまた、始まろうとしていた。

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