交通インフラの未整備が高齢者の事故を引き起こす:正しい税金の使い方は?
日本全国で増加する高齢者ドライバーの事故は、多くの人々の不安材料となっています。
この要因を「高齢者は年齢とともに運転技術が劣化するから」と捉える人は多いと思います。
たしかに、交通事故を起こす高齢者はブレーキとアクセルを踏み間違えるなど、判断能力や運動能力の鈍化によって自己を引き起こしているかもしれません。
しかし、本当の原因は「判断や運動能力が衰えた高齢者が、なぜ車を運転しなければいけないのか?」を解決することではないでしょうか。
日本には買い物難民や病院に通えずに困っている人が多くいます。
私は、彼らの移動手段が「自動車」しかないことが、根本的な問題だと考えます。
今回は、交通インフラの未整備がどのように高齢者の事故に影響し、そして私たちの税金はどのように活用されるべきなのかについて考えてみます。
減便による影響と高齢者の生活
バスや鉄道の減便は、高齢者の生活を直撃しています。
NHKの報道によると、例えば長野県の長電バスではコロナ禍の影響で1日23本あった便が9本にまで削減されました。
長年運転免許を返納し、バスに頼っていた高齢者にとって、バス減便は深刻な生活の不便さをもたらします。
このような例は全国で見られ、将来の公共交通インフラ整備が急務であることがうかがえます。
社会的コストの増大
交通事故の発生による社会的コストは、以下の数式で示せると思います。
「年間事故発生率 × 高齢者人口 × 一件あたりの事故処理コスト」
仮に高齢者の事故率が5%、
1件あたりの処理コストが100万円、
高齢者の定義を「判断力と運動能力が低下している」とし、その人口が1,000万人と仮定します。
5%× 1,000万人 × 100万円=500億円
仮定の計算のため、正確ではありませんが、数式に従えば、年間500億円のコストが社会に発生していることになります。
今後、公共交通機関の減便により自家用車の使用が増えれば、このコストはさらに増大する可能性があります。
結果的に、このコストが自治体にとって大きな財政負担となり、住民サービスの質を低下させる一因にもなっていくでしょう。
買い物難民と地域の交通インフラ
交通インフラの未整備により、「買い物難民」という問題も顕在化しています。
高齢者の中には「買い物難民」として苦しむ方も少なくありません。
交通インフラが脆弱な地域の高齢者は、日用品の買い出しや友人との交流を目的にバスや電車を利用します。
しかし、減便によって運賃や時間が倍になれば、生活に支障をきたしていくでしょう。
農林水産政策研究所によると、2020年には全国で904万人、65歳以上の25.6%が食料品のアクセスに困難を感じており、そのうち75歳以上は566万人に上ります。
アクセス困難人口のうち75歳以上が占める割合は63%で、2015年から9.7%増加しています。
買い物難民の高齢者にとって、日常生活を維持するためには車を運転する必要があり、事故リスクは年々高まるでしょう。
買い物難民の支援
全国各地では、買い物が難しい高齢者のために「乗り合い送迎サービス」などの運行を始めています。
平日の決まった時間に各地域を巡回し、食料品店やスーパーへのアクセスを提供するこのサービスにより、事故件数の減少が期待されています。
また、移動販売なども普及してきました。
NPOや民間事業者によって、高齢者が無理に運転を続ける必要がなくなれば、事故の減少につながるかもしれません。
地域社会の再生と交通インフラへの投資
しかし、交通インフラの整備を民間に任せるのは適切でしょうか。
民間事業者がこの分野に積極的に参入しない理由は、収益性が低いからです。
そのため、今後のエネルギー価格などの高騰で運営が困難になる可能性もあります。
また、コストを吸収するために価格転嫁していくことも考えられます。
そうなれば、また高齢者は自動車での移動を始めざるを得ないかもしれません。
私は高齢者に限らず、地方で安心して暮らせる社会を再生するためには、交通インフラへの投資が不可欠だと考えます。
また、交通網の整備は、コストではなく投資です。
交通インフラへの投資は、高齢者事故による社会的コスト削減という効果も得られるため、投資対効果が非常に高い施策と考えます。
交通インフラ投資による社会的コスト削減効果は、交通事故削減数 (A) の増加に応じて以下の式で表せます。
社会的コスト削減効果(Social Cost)
SC = A ÷ C
A :交通インフラ改善によって削減される事故件数
C :1件あたりの事故処理コスト
交通インフラ整備の効果を 投資対効果(ROI:Return on Investment) として評価する場合は、次の式で定義してみます。
インフラ投資の効果(Return on Investment)
ROI = SC / I
I :インフラ投資額
高齢者事故による社会的コストの削減が投資額を上回るとき、ROIは1以上になり、インフラ投資の効果が高いことが示されます。
適切なインフラ投資がいかに重要であるかを数値的に表す場合、このような投資対効果の検証が必要でしょう。
インフラ整備と税金の有効活用
では、私たちの税金はどのように有効活用されるべきでしょうか。
高齢者の事故防止という観点から考えれば、交通インフラの整備に充てることは効果的と考えます。
例えば、地域の交通インフラ整備への投資額が10億円で、高齢者の事故件数を200件減少させることができれば、年間の事故処理コストはどれくらい削減されるでしょうか。
事故が200件減少し、1件あたり100万円の処理コストがかかると仮定すると、削減されたコストは2億円になります。
ROI = 2/10 = 20%
単純計算で、年間20%の投資対効果と考えると、どれくらいの期間で投資回収ができるでしょうか。
• 投資額 = 10 億円
• 年間事故処理コストの削減額(年間 CF) = 2 億円
• 割引率 r = 5% (仮定)
DCF法で投資回収期間を求めるには、各年のキャッシュフローを割引率で割り引き、累積の割引キャッシュフローが投資額を超える年を探します。
割引率は地方自治体などが発行する地方債の利回りと仮定しています。
地方債の利回りは、公共インフラ投資とリスク水準が近いため、割引率の基準として妥当と考えました。
投資回収期間の計算例(簡易表)

この結果から、6年目で累積が10億円を超えるため、投資回収期間は約6年と算定されます。
仮定の話ですが、交通インフラへの投資と、年間事故処理の減少見込みを仮定すれば、投資回収期間は算定可能です。
投資回収が短期か長期か目安がつけば、判断しやすいのではないでしょうか。
また、このように投資効果が数値化できれば、私たちも税金の適切な配分として有意義な施策かどうか理解しやすいと思います。
まとめ
交通インフラの整備は、高齢者の安全な生活を支えるために必要不可欠だと考えます。
高齢ドライバーの事故を単純に「判断力や運動能力が衰えたドライバーのミス」と結論づける風潮は問題の論点が違う気がします。
高齢者が運転せざるを得ない状況になっている日本社会の根本的な問題かもしれません。
また、私たちが税金をどのように使うべきかを考える際、目先だけでなく、長期的な社会的利益も視野に入れることが重要だと考えます。
高齢者が安心して生活できる環境を整えれば、地域の安全向上と直結し、適切なインフラ投資によって社会全体が恩恵を受けるのではないでしょうか。
今後の日本は、高齢者ばかりになります。正しい税金の使い方を、真剣に考えて欲しいものです。
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