黒い城と、白い花の記憶
遠くから、
黒く凛とした松本城を眺められれば、
それで十分だと思っていた。
松本を訪れた日。
城の周りをのんびり散策しながら、
偶然見つけた神社にも立ち寄った。
静かで落ち着いた空気に惹かれ、
自然と手を合わせる。

そのままお堀の周りを歩きながら
松本城について調べてみると、
2028年から耐震工事のため、
しばらく天守に入れなくなる予定だと知った。

入場は16時30分まで。
時計を見ると、すでに16時少し前。
外から眺められただけでも十分だと思っていた。
けれど、近いうちに入れなくなるのかもしれないと思うと、その場で気持ちが変わった。

「せっかくだし、入ってみよう」
急いでチケットを購入し、場内へ。

入口で靴をビニール袋に入れ、
急な階段を上っていく。
足裏から伝わる木の感触に、
長い年月の重みを感じた。
城内は想像以上に多くの人で賑わっていて、
海外からの観光客の姿も目立つ。
進んでいくと、天守へ向かう列ができていた。
急な階段は、まるではしごのような角度。
狭い空間の中で、
昇る人と降りる人が譲り合いながら、
慎重に進んでいく。

少し緊張しながらも、
その非日常に心が弾んでいた。
六階の天守に辿り着くと、
窓の外には松本の景色が広がっていた。
上を見上げると神棚があり、
この場所を静かに見守る存在があることに気づく。

二十六夜神という神様だそう。
下りの階段もまた慎重に。
小さな子どもも、高齢の方も、
みんなで少しずつ譲り合いながら進んでいく。
その場にいた人たちの小さな協力が、
なんだか温かかった。

優雅に泳いでいた。
城を出る頃には、16時半を過ぎていた。

すぐ近くには牡丹の花。
大きく咲く姿も、
これから開こうとしている蕾も、
それぞれに美しい。

さらに、門へ向かう途中、
満開の小手毬も見つけた。
夕陽に照らされた白い花はやわらかく、
思わず足を止める。

ふと、少し前のいろさんの記事と
小手毬の写真のことを思い出した。
咲いている花も、
今この瞬間に見られる景色も、
決して当たり前ではない。

だからこそ、
その日出会えたもの一つひとつが、
少し特別に思えた。
門のそばにあった記念スタンプも、
チケットの裏に押してみる。

普段なら通り過ぎていたかもしれない。
けれど、そんな小さなことでさえ
旅の思い出になるのだと知った。
松本城は、
ただ歴史ある場所というだけではなく、
その日、その瞬間にしか出会えない景色や気づきをくれた場所だった。
Keika
