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銀座線で水戸黄門に会った

少し前の話

週末の昼過ぎ、銀座線に乗っていた

車内の混み具合は、座席が9割以上埋まり、立っている人がちらほらいる程度だった

私は、ドアのそばで立ち、
優先席の仕切りに背中を預けていた

私の背中側の席の向かいにある優先席は、3席。
ヘッドホンとサングラスをした若い女性、中年女性、小太りの中年男性で席は埋まっていた

某駅についたところ、ショルダーバッグを肩にかけた一人の女性が、早足で車内に駆け込んで来た

彼女は優先席に座る3人の前に立つと、自分のショルダーバッグを体の前側に移動させた

そして、そこにぶら下がるものを突きつけるように差し出し、

「これ見てよ、これ!」

的なことを言った

「それ」を見た中年の男女は慌てて立ち上がり、女性は同車両の遠くの方へ行き、男性は別車両へ行ってしまった

彼女の突きつけた「それ」は、『マタニティマーク』だった

ヘッドホンの女性は、反応なく座ったままだった。聞こえていないのかもしれない

ショルダーバッグの女性は、空いた優先席の中央に座り、スマホを操作し始めた


私は、ただ驚いて唖然としていた


事実は小説よりも奇なり



後にも先にも彼女と同じ行動をとる人物が、何かの作品の登場人物として現れることは、きっとないだろう


思うに、


ショルダーバッグの女性が、出産の日まで電車内で疲れた足を休ませられないことはないだろう


サングラスの女性が、メンタルクリニックの自動ドアを通る日はこないだろう


この話の中で、罪と呼ばれるようなことをしたものはいない

皆、ただ、自分の中の『常識』に従って行動しただけだ


私は思った


自分の中にもいつのまにか生まれてしまっている多くの『常識』を共感できる人との出会いは、『奇跡』なんだ

と。

そして、

いつも仲良くしてくれる皆、
改めて本当にありがとう

と。


【完】

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