見出し画像

米国務省「北方領土は日本が主権」――プーチン択捉島訪問への強烈なけん制

ロシアのプーチン大統領が8月13日、北方領土の択捉島を訪問した。

これを受け、米国務省の報道担当者は、

「米政府は北方領土に対する日本の主権を長年認めてきた」

と表明。さらに、日米同盟を「自由で開かれたインド太平洋の礎」と位置づけ、地域の平和と安定を損なう行動に強く反対する姿勢を示した。FNNプライムオンライン⁠

今回の発言は従来の米国の立場を確認したものだが、プーチン大統領の訪問直後というタイミングには、はっきりとした政治的意味がある。

プーチン大統領が初めて択捉島を訪問

プーチン大統領は択捉島で学校や病院、水産加工場などを視察した。

現地の水産加工場ではイクラを試食する様子も報じられている。単なる施設視察に見えるが、ロシア大統領が北方領土を訪問すること自体が、ロシアによる実効支配を国内外へ印象づける政治的パフォーマンスでもある。

ロシア側は、北方領土を自国の一部として開発し、行政サービスを提供し、大統領自身が訪問することで、「ロシア領として統治している」という既成事実を積み重ねようとしている。

今回がプーチン氏にとって初めての北方領土訪問だったことも、その象徴性を一段と強めている。Reuters⁠

日本政府はロシア大使を召致

日本政府は、ノズドリェフ駐日ロシア大使を外務省に召致し、強く抗議した。

外務省は、

「北方領土は我が国が主権を有する島々であり、我が国固有の領土」

としたうえで、今回の訪問は日本の一貫した立場と相いれず、国民感情を傷つけるもので「断じて許容できない」と表明している。外務省⁠

北方領土とは、北海道の北東に位置する次の4島を指す。

* 択捉島
* 国後島
* 色丹島
* 歯舞群島

日本政府は、北方四島について「歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、現在ロシアに不法占拠されている」との立場を取っている。

米国の発言は何を意味するのか

注目すべきは、米国務省が単に「日本の立場を理解する」と述べたのではなく、「日本の主権を認めている」と明言した点だ。

これはロシアに対し、次のメッセージを発したと考えられる。

1.実効支配と主権は同じではない

ロシアが北方領土を現実に支配していても、それだけで米国がロシアの主権を認めるわけではない。

大統領の訪問や開発事業によって既成事実を積み重ねても、国際的な領有権問題が解消されるものではない、というけん制である。

2.北方領土問題を日米同盟の文脈に置いた

米国務省は北方領土への日本の主権に言及すると同時に、日米同盟とインド太平洋の平和・安定を強調した。

つまり今回の訪問を、単なる日露間の領土問題ではなく、ロシアがインド太平洋地域で軍事的・政治的圧力を強める動きの一つとして見ている可能性がある。

3.ロシアによる「力を背景とした現状変更」を警戒

ウクライナ侵略を続けるロシアに対し、領土問題で既成事実を積み上げる行動を容認しないとの姿勢も含まれている。

米国としては、欧州だけでなくインド太平洋でも、力による一方的な現状変更を認めないという原則を示す必要がある。

ただし「米軍が北方領土を守る」という意味ではない

ここは冷静に区別する必要がある。

米国が北方領土に対する日本の主権を認めたからといって、直ちに日米安全保障条約第5条による防衛義務が北方領土へ適用されるという意味ではない。

第5条の対象は、基本的に「日本国の施政の下にある領域」への武力攻撃だ。北方領土は現在ロシアの実効支配下にあり、日本の施政下にはない。

したがって今回の発言は、軍事的な防衛保証というより、外交的・政治的に日本の立場を支援するものと見るべきだ。

それでも、世界最大の影響力を持つ米国が「日本の主権」を明言する意義は小さくない。

ロシア側は日本の抗議を拒否

ロシア側は択捉島を「ロシアの不可分の領土」と主張し、日本政府の抗議を拒否している。

ロシア外務省は、国内における大統領の移動に外国が口を出すことはできないとの立場を示した。

日本とロシアの平和条約交渉は、ロシアによるウクライナ侵略と日本の対露制裁を受け、事実上停止した状態にある。今回の訪問によって、日露関係はさらに冷え込む可能性が高い。

北方領土問題は新しい段階に入った

これまで北方領土問題は、主に日本とロシアの二国間交渉として扱われてきた。

しかし現在は、

* ロシアによるウクライナ侵略
* ロシアと中国の連携強化
* 北朝鮮とロシアの軍事協力
* オホーツク海周辺の戦略的重要性
* 日米同盟による対露けん制

といった国際安全保障の問題と強く結びついている。

プーチン大統領の択捉島訪問に対し、米国がすぐに「日本の主権」を明言したのは、北方領土問題がもはや日本とロシアだけの問題ではなくなっていることを示している。

おわりに

米国務省の発言は、突然の方針転換ではない。

米国は以前から北方領土に対する日本の立場を支持してきた。しかし、ロシア大統領が初めて択捉島を訪問した直後に、あえて「日本の主権」を強調したことには大きな意味がある。

一方で、外交的な支持だけで北方領土が返還されるわけではない。

日本に必要なのは抗議を繰り返すだけでなく、日米欧との連携、国際世論への発信、元島民の記録継承、そして将来の交渉再開に備えた長期的な戦略だろう。

ロシアが既成事実を積み重ねるのであれば、日本もまた、北方領土に対する主権と歴史的経緯を国際社会へ粘り強く発信し続ける必要がある。

いいなと思ったら応援しよう!