Arctic Monkeys - Opening Night (2026)
1995年にリリースされた、Helpというチャリティ・アルバムを覚えていますでしょうか。War Childというプロジェクトの一環で、ボスニア紛争下の子供達を救うため、Brian Enoの主導のもとわずか1日で制作されました。時はブリット・ポップ全盛期。OasisやThe Stone Roses、Blur、Radioheadらトップ・アーティストが楽曲提供を即断。Paul McCartney+Paul Weller+Noel Gallagerといったスーパーセッションも収録されています。アルバムは全英チャート1位。実はこの頃からNow!などのコンピ盤は別チャートでの集計になっていたのですが、集計機関側の「このアルバムはWar Childという単独アーティストの作品である」という素敵な配慮でチャート1位という実績をプレゼントされています。英音楽メディアのNMEも、このアルバムを特別扱いで10点満点にしています。
それから30年、子供たちの取り巻く環境はさらに悪化しています。この30年で紛争の影響を受けている子供達の数は倍増しているというデータもあるようです。本当はチャリティ・レコードやイベントなんて時代遅れとなり無用となる世の中が理想なのですが、時代は再びWar Childを必要とし、まもなくHelp(2)というアルバムがリリースされます。すでに参加アーティストは発表されていますが、まず先陣を切って音源が公開されたのがArctic Monkeysの新曲Opening Nightです。
一時はSpotifyの全英チャートで10位に入りました。有象無象がアクセスする(暴言)ストリーミング・プラットフォームでこんなシリアスな曲が一瞬でもチャートインするというのは快挙です。さすがのアーティスト・パワーでしょうか。この件はNME Japanの編集長さんが詳しく書かれていますが、Arctic MonkeysはいわばNMEが育ててきたバンドというイメージがありますので、重みのある記事ですね。
確かにArctic Monkeysは強いメッセージ性を発することがなく、30年前の(今でもですが)スターであるOasis、Blur、Radioheadとはかなりスタンスが違います。それが彼らのクールさにつながっているのかもしれません。
思えばArctic Monkeysのデビューは衝撃的でした。00年代前半は久々に若くてシンプルなギター・ロックを鳴らすバンドが続出し、ロックン・ロール・リバイバルなんて呼ばれていました。UKからはThe Libertines、USはThe StrokesやThe White Stripes、スウェーデンのThe HivesにオーストラリアのThe Vines。ちょっとひねったニューウェイブ系のFrantz Ferdinandらも注目を集めました。個人的にはThe Vines以外は(←キャンセルでした)すべてライブを体験し、若さと勢いを楽しんだものの力量に関しては今後に期待、というレベルだったのを覚えています。そこに登場したのがArctic Monkeysでした。
いや、とにかく衝撃的でした。轟音ギターに早口のヴォーカル、それを支える確かなリズムセクション。同世代のバンドが一気に色褪せるようなインパクトがありました。しかもこの曲と次のWhen The Sun Goes Downと2曲連続で全英チャート1位。Oasisだってシングル1位は6曲目のSome Might Sayだったことを考えると、デビューアルバムすら出していないのにこの実績は凄すぎました。しかもこの時点でメンバーは20歳そこそこ。
そして結構来日してくれています。最初の頃はキャパに対して人気が加熱しすぎ、単独は即ソールドアウトでフェスですら入場規制で観ることができずといった状況が続き、2ndアルバムのショーケースという場でようやく彼らを目にすることができました。
2ndアルバムFavorit Worst Nightmareのリリース時は、デビューアルバムWhatever People Say I Am, That's What I'm Notよりパワーダウン的なネガティブな評価もありましたし、サマソニ始めフェスのヘッドライナーは早すぎたのではという批判もありました。しかし今ではライブ前半のハイライトBrainstormや、今なおストリーミングで人気の505が収録された名盤ですね。
その後は疾走感なロックを封印し、ダークなサウンドに傾倒したと思えば5thアルバムAMではブラック・ミュージック指向のグルーヴ感あふれる作風で再度シーンの頂点に。このときサマソニの2度目のヘッドライナーで貫禄十分のステージでした。
フロントマンのAlex Turnerはこの後サイドプロジェクトとしてThe Last Shadow Puppetsを結成、アルバム2枚をリリースして来日もしています。
本体Arctic Monkeysとは真逆とも言える、ベタベタなオールディーズ・サウンド。ちなみにバンドの相方はThe Rascals(Felix Cavaliereのとは別バンドです)のMiles Cain。ginger2さんのイベントでMilesはThe Black KeysのDan Auerbachと組んでルーツ・ロックに傾倒していることを知りましたが、バンドの典型的なブリット・ポップ路線と異なり案外こっちの路線がはまっているのかもしれません。
来日公演ではArctic Monkeysイメージとは全く違う、仰々しいステージアクションに驚いたのですが、何か「クールなスター・バンドという立ち位置」に対するストレス発散では?という印象さえ受けました。
その後は突然のラウンジ・ミュージックへの変貌で世間を驚かせ、それでも高い評価と共に商業的にも売れ続けます。OasisもRadioheadもデビューから20年間アルバムが売れ続けたわけではないことを考えると驚異的な人気の持続性でしょう。
この路線での来日は望み薄かと思いきや、まさかの小規模会場でのツアー開催。ロックとは違い難易度がかなり上がったのか(Alex以外の)演奏力にやや不安を感じましたが、そこはThe Last Shadow Puppetsで身につけたAlexの大袈裟なアクションでカバー?充実のステージを魅せてくれました。
30年ぶりというWar Childのプロジェクト、Helpの名に恥じない面々が集まったHelp(2)アルバム。リリースされたらじっくり聴いてみようと思いますが、まずはトップバッターを買ってでたArctic Monkeysのシーンを背負うスタンスに拍手ですね。
1. Arctic Monkeys - Opening Night
2. Damon Albarn, Grian Chatten & Kae Tempest - Flags
3. Black Country, New Road - Strangers
4. The Last Dinner Party - Let’s do it again!
5. Beth Gibbons - Sunday Morning
6. Arooj Aftab & Beck - Lilac Wine
7. King Krule - The 343 Loop
8. Depeche Mode - Universal Soldier
9. Ezra Collective & Greentea Peng - Helicopters
10. Arlo Parks - Nothing I Could Hide
11. English Teacher & Graham Coxon - Parasite
12. Beabadoobee - Say Yes
13. Big Thief - Relive, Redie
14. Fontaines D.C. - Black Boys on Mopeds
15. Cameron Winter - Warning
16. Young Fathers - Don’t Fight the Young
17. Pulp - Begging for Change
18. Sampha - Naboo
19. Wet Leg - Obvious
20. Foals - When the War is Finally Done
21. Bat For Lashes - Carried my girl
22. Anna Calvi, Ellie Rowsell, Nilüfer Yanya & Dove Ellis - Sunday Light
23. Olivia Rodrigo - The Book of Love
重鎮Depeche Modeから前回も参加していたPulpやDamon。今のシーンを牽引するFontaines D.C.。ここ数年のブライテスト・ホープWet Leg、English Teacher、The Last Dinner Party。昨年最大の注目バンドGeeseのフロントマンCameron Winterまで。Helpの名に恥じないラインナップですね。聴くのが楽しみです。
