メタルとグラミー
前回のMAJの記事、邦楽をほとんど知らない私が書いたにも関わらず多くの方に読んでいただいたようでありがとうございます。世間的にも賛否両論あり、関心の高さを表しているのでしょうか。あとBABYMETALの無視についてはMAJ批判だけでなく「彼らはMAJよりもっと上位の存在」「すでに世界レベルなので対象外でやむなし」などの擁護論もあるのですが、中には「だから(メタルを評価できない)日本はダメ」「英米はちゃんと評価している」という意見もちらほら見かけます。
しかし40年以上グラミーを見続けていた私としては、それ、全然違うからという印象です。つまり、グラミー(だけでなくブリットも)は決してメタルを高評価しているわけではありません。そもそもグラミーなんてメタルどころかロック自体ほとんど評価していません。案外知らない人が多いので、具体例をあげてみましょう。
1 最もロックな受賞作はMichael Jackson?
グラミーのメイン賞はアルバム・オブ・ザ・イヤー(以下AOY)ですが、The Beatlesを別にするとこの賞を受賞した最初の「ロックらしい」アーティストは78年(開催年であり作品リリース年ではない、以下同様)のFleetwood Mac - Rumours。その後Toto、Phil Collins、U2や、10年代にはArcade Fire、Mumford And Sons、Beckなどが受賞します。しかしいずれもソフトなタッチや渋みのある「大人向け」のスタイルで、いやロックってこう、派手なギターとシャウトするヴォーカルで・・・などということを言い出すと、唯一の該当例が83年に最優秀レコード(ROY)を受賞したMichael Jackson - Beat Itとその収録アルバムでAOY受賞のThrillerということになります。
2 The Rolling Stonesが受賞したのはたった3回
ストーンズの初受賞は95年のVoodoo Lounge。その後は18年のブルーズ・カバーのBlue & Lonesomeと昨年のHackney Diamonds、すべて部門賞。グラミーいつからやっていてストーンズの凄かった時代はいつだと思ってるのでしょうかね。しかも彼ら、86年に功労賞をもらっています。もともと70年代の頃から「ストーンズはグラミーは無理」と言われてましたがなんとかごまかした形です。ただ、普通こういうことがあるとアワードは卒業(つまりアーティストがアワードより格上になる)という位置付けだと思うのですが、その10年後に部門賞を与えるなんて、ロック史上最高のバンドを舐めすぎです。
3 85年はBruce Springsteen - Born In The USAとPrince And The Revolution - Purple Rainを破ってLionel Richie - Can't Slow Downが受賞
個人的にはどんなに受賞者が意外でもせいぜい呆れたりする程度なんですが、ふざけんなと怒りが湧いたのが過去2回だけあり、最初がこの時です。そして2回目はこの後紹介します。
Lionel Richieのアルバムは今ではRIAAで15ミリオン、当然チャート1位でシングルは2曲のNo.1ヒットを含む5曲がTop10入りとなった大ヒット作です。しかしそれを言うならRIAAで17ミリオン、7曲のTop10ヒットを放ったBorn In The USAや、RIAAで13ミリオン、24週1位となり2曲のNo.1ヒットを含むシングル5曲をTop40に送り込んだPurple Rainの方が商業的にも大ヒットでしょう。何より当時だけではなく今なお音楽史に残る大名盤として聴かれているこの2枚を外す理由がどこをどう考えても理解できません。まあLionelのこの高評価があったからこそWe Are The Worldが実現したとも言えそうですが。ちなみに2人ともロック部門は受賞。
4 新人賞を受賞をしたロック勢は80年代以降10組程度
程度と書いたのは、ポップやカントリーとの境界線上の分類が難しい人たちが多いから。誰が聴いてもロック以外のジャンルは思い浮かべないという意味では、久々の単独公演が決まったEvanescenceと、あとMen At WorkとCulture Club、Bon Iverくらいでしょうか。Sheryl Crow、Hotie And The Blowfish、Paula Coleとかはロックと言いきれずMaroon 5とFun.はむしろポップだと思っています。なおEvanescenceが受賞した04年、ノミネートされていた50 Centは受賞を逃したことでステージ上に乱入しかけましたが、グラミーはロック以上にHip Hopに冷たいです。翌年はMaroon 5がKanye Westを破って受賞していますし。
さて、70年代後半から増え続けるロックのマーケット拡大に対応するため、グラミーは80年になってようやくロック部門を立ち上げました。当初は最優秀ロック・ヴォーカル・パフォーマンスと呼ばれ、男性・女性・デュオまたはグループの3部門ありました。
男性部門は最初の80年こそBob Dylanでしたが、その後Billy Joel、Rick Springfield、John Cougerときて、84年には結局マイケルになりました(楽曲としてのThriller)。女性部門に至っては最初がDonna Summerというのもびっくりですが、次の3年間がPat Benatar、その次の4年間がTina Turnerともう思考停止状態です。デュオ&グループも迷走気味で、Eagles、Bob Seger & SBB、The Police、Survivor、再びThe Policeと続きます。
ようやく本題です。80年代も後半になると受賞者の選考もこなれてくるのですが、世間はハード・ロックやメタル勢が台頭し、単なるロック部門だけでは受け皿がなくなってしまいます。その対応としてグラミーは89年に最優秀ハード・ロック&メタル・パフォーマンス賞という部門を立ち上げます。そして授賞式にはノミネートされたMetallicaがグラミー初登場。
まさに天下を獲る寸前、そしてあえてこんな長尺曲を(少し縮めてますが)演奏。MVはモチーフになった映画のシーンが大半でしたが今回しっかり演奏が観られます。これには感激した人は多かったでしょう。しかし、事件はその後起こります。
彼らの演奏が終わった後、Alice CooperとLita Fordによる受賞の発表はあったのですが、日本では(私の観ていたときは)放映されませんでした。そして画面の下にひっそりと字幕が映ったのです。
受賞はJethro TullのCrest Of A Knave、と。
え?ジェスロ・タルってここでノミネートされてたの?しかも受賞って。まあ他もIggy PopとかJane's Addictionとか、AC/DC以外はよくわからない選考でしたが、わざわざパフォーマンスに呼んでこれ?ちなみに会場では沈黙の後、爆笑が起きたという話です。
当時はインターネットなどなかったのでリアルタイムの反応など知ることはできなかったのですが、今でも史上最悪の選考と言われています。そして私がふざけんなと思った2件目でもあります。気の毒なのはJethro TullのIan Andersonで、しばらくは常にこの件のコメントを求められていましたし、当時は他のバンドにも「俺たちジェスロ・タルのようなメタル・バンドじゃないからグラミーは無理」などとネタにされてました。確か翌年のセレモニーでも「今年はジェスロ・タルはいないようだね」と言ってた人がいたような記憶があります。
さすがにこのバックラッシュはグラミーも堪えたのかこのカテゴリは1年で消滅。翌90年にはハード・ロックと分離してベスト・メタル・パフォーマンスとして仕切り直しが行われます。そしてMetallicaはこの部門、3年連続で受賞。前年の非礼を詫びたということでしょうか。なんか権威がクレームに屈したみたいで、この図式はMetallicaが逆にクレーマーみたいであり失礼じゃないかと当時思いました。しかも90年は前年と同じ…And Justice…収録曲、翌91年はコンピ盤に提供したQueenのカバーStone Cold Crazy、92年に黒盤でようやく真っ当に受賞できたという感じです。
グラミーはMetallicaに気づくのに7年、真の価値を理解するのに10年かかったわけですね。というか黒盤はメタルじゃなくてAOYの価値ありだろ、という意見が圧倒的だと思いますが、残念。この年はNatalie Coleの親父とのバーチャルデュエットUnforgettableが席巻した年でした。ちなみに同年、NirvanaのNevermindはオルタナ部門でR.E.M.に敗れています。そんなものです。グラミーの傾向って。なのでこの後グラミーの選考に腹が立ったことはありません。
その後メタル部門は35年後の今でも続く定番カテゴリとなりました。ここ数年はMetallica、Tool、OzzyといったビッグネームだけではなくプログレのDream Theater、ハードコアのBody Count、オペラ歌手と共演したGojira(パリ五輪での、首を切られたマリー・アントワネットが歌い出すという悪趣味衝撃的なパフォーマンスのやつです)など幅広い選考をしています。以下閲覧注意。
今年のウィナーはTurnstile。ハードコアだから別にメタルの範疇じゃないかという声もありますが、10年前の彼らならともかく、今回のアルバムNever Enoughは芸風を広げオルタナやニューウェイブまでカバーする傑作です。
実際この部門だけでなく最優秀ロック・アルバムではDeftonesやHaim、Linkin Parkを抑え受賞しているのですが、こういった幅広い芸風の人たちが受賞するなら何のためのサブジャンルなのか、という気もします。それに今年は他の候補はSleep Token、Ghost、Spiritbox、Dream Theaterと、他の誰が受賞しても納得だったのですけどね。このあたり、やっぱりグラミーのズレ加減、変わらないなという感じです。
受賞コメントがひたすら無難でした。
ということで1回で済まそうと思ったらグラミーへの愚痴だけでこんなボリュームに。でも本来グラミーの目的は音楽の発展や教育の推進ですから、たとえ主要部門とはいえ、あまりあれこれ注文をつけるものではないのだと思います。
グラミーの商業主義化、などと言われますが、商業主義どころか商業そのもののMAJには真似できない部分ですね。これが個人的にはMAJをグラミーと同一視できないところですが。
次は英国のブリット・アワードの状況です。
