パタゴニアの素晴らしさ。何十年とリペアして着続けるということの意味。
アパレルの仕事をしていると、いろんなブランドと向き合います。
その中で、パタゴニアというブランドは、やはり特別な存在感を持っていると感じます。機能性や素材の良さはもちろんですが、それ以上に「ものとの向き合い方」そのものを、このブランドは問い続けています。
今回は、パタゴニアというブランドの核にある「リペアして着続ける」という文化について、その背景と意味を深掘りしていきます。
1973年、クライマーが「道具」として作り始めたブランド
パタゴニアの歴史は、1973年にアメリカ・カリフォルニア州で創業されましたが、その原点はさらに遡ります。
創業者のイヴォン・シュイナードは、1950年代からロッククライミングに魅了された人物です。当時のクライミングギアは質が低く、彼は自分で鍛冶仕事を学び、自分や仲間のためにギアを手作りし始めました。1966年には、もとは食肉加工場だったボイラー室を作業場として、高品質のクライミング道具の製造を開始。1970年までにはアメリカ最大のクライミング・ギアのサプライヤーに成長しました。
ウェアラインを立ち上げるにあたり、イヴォンは新たにパタゴニアブランドを設立します。南米・パタゴニア地方の荒々しい自然にインスピレーションを受け、その名をブランド名にしました。
出発点が「道具を作る職人」だったことは、パタゴニアの本質に深く関わっています。道具は長く使えるものでなければならない。修理しながら使い続けられるものでなければならない——この考え方が、ブランドの根幹に最初から埋め込まれていたのです。
「Don't Buy This Jacket」という衝撃の広告
パタゴニアというブランドを語るうえで、外せないエピソードがあります。
2011年のブラックフライデー(アメリカ最大のセール日)に、パタゴニアはニューヨーク・タイムズ紙に全面広告を掲載しました。そこに書かれていたのは「DON'T BUY THIS JACKET(このジャケットを買わないでください)」という、アパレル企業としてはあり得ない一文でした。
広告の内容は、自社の人気フリースジャケット1枚を作るためにどれだけの水・エネルギー・CO2が消費されるかを詳細に示したうえで、「本当に必要なものだけを買ってください」というメッセージを伝えるものでした。
自社製品の購買を抑制しようとする広告——これはアパレル業界の常識を根底から覆す行動でした。でもパタゴニアにとっては、これが一貫した思想の自然な表現だったのです。「たくさん売ること」ではなく「長く使えるものを作ること」がブランドの目的なのだという、明確な意志表示でした。
Worn Wear——リペアを「文化」にした取り組み
パタゴニアのリペア文化を象徴するのが「Worn Wear(ウォーン・ウェア)」というプログラムです。
Worn Wearは、パタゴニアの製品を修理・再生・再販するためのプラットフォームです。世界各地を巡るトラックに修理設備を搭載し、その場でパタゴニア製品を無料で修理するイベントを展開してきました。また、使わなくなったパタゴニア製品を買い取り、クリーニングと修理を施したうえで中古品として再販するプログラムも運営しています。
「Worn」は英語で「着古した」「使い込まれた」という意味です。使い込まれることを「劣化」としてではなく「価値の蓄積」として捉えるこのネーミングに、パタゴニアの哲学がそのまま表れています。
さらに、製品を購入したお客様に対して修理の方法を教えるワークショップも開催しています。自分で直せる人を増やすことで、廃棄の量を減らしていく——これは単なるサービスを超えた、消費文化そのものへの問いかけです。
何十年と着続けるということの、本当の意味
パタゴニアのリペア文化の本質は、「長く使える服を作る」ことと、「長く使い続けようとする人を育てる」ことの両方にあります。
アパレル業界全体を見渡すと、服の「使い捨て化」は深刻な問題です。世界では毎年膨大な量の衣類が廃棄されており、その多くが数回しか着られずにゴミになっています。ファストファッションの普及がこの傾向を加速させたことは事実です。
パタゴニアが示している答えは、シンプルです。「良いものを作って、直しながら長く使う」。これだけです。でもこのシンプルな考え方を、ビジネスとして徹底的に実践しているブランドは、世界でもそう多くはありません。
何十年と着続けることができる服というのは、素材と製造のクオリティがその前提になります。だからこそパタゴニアは、素材の選定と縫製の品質に徹底的にこだわってきました。長く着られる服だからこそ、リペアに価値が生まれる。この循環が、パタゴニアというブランドの存在意義そのものです。
2022年、株式を「地球」に譲渡した決断
パタゴニアというブランドを語るうえで、2022年の歴史的な決断を避けることはできません。
イヴォン・シュイナードは2022年9月、パタゴニアの全株式をすべて環境保護団体と信託に譲渡することを発表しました。その総額はおよそ30億ドル(約4300億円)相当といわれています。
投資家への売却でも、株式上場でもない。文字通り「地球が唯一の株主」となる形を選んだのです。パタゴニアが生み出す利益はすべて、環境保護と気候変動対策のために使われることになります。
ビジネスで莫大な富を築いた後に、それをすべて環境に返す——これは言葉でいうほど簡単なことではありません。それをやり遂げたイヴォンの決断は、ファッション業界だけでなく、世界のビジネス界に大きな衝撃を与えました。
企業ミッションとして掲げてきた「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という言葉を、行動で証明したのです。
アパレル現場から見るパタゴニアの特別さ
現役のアパレル店員として感じるのは、パタゴニアを愛用している方の「服との向き合い方」が、他のブランドのお客様とは少し違うということです。
長年着込んだフリースを「これ、どこで直せますか?」と持ち込んでくる方。色あせた古いジャケットを大切に着ている方。「このブランドのものは、本当に長持ちするんですよ」と嬉しそうに話してくださる方。
パタゴニアというブランドが伝えてきた「長く使う」という思想が、お客様の服との関係性そのものを変えている——そんな印象を、現場で感じることがあります。
まとめ:リペアして着続けることは、思想の実践である
パタゴニアの素晴らしさは、機能性や素材の良さだけではありません。
「本当に必要なものだけを買い、長く大切に使い続ける」という思想を、ブランドとして50年以上にわたって一貫して体現してきたことにあります。
何十年とリペアして着続けること。それは単に「節約」や「エコ」という言葉で片付けられるものではなく、ものとの向き合い方、消費という行為そのものへの問い直しです。
ファッション業界に身を置く人間として、このブランドのあり方は、時代が変わるたびに改めて考えさせられるものがあります。
