和製英語が多い日本のファッション用語。「今」と「昔」で何が変わったのか。
日本のファッション用語には、和製英語が驚くほど多く存在します。
以前の記事で「ワンピース」「トレーナー」「カットソー」などの和製英語を取り上げましたが、今回はもう少し広い視点で「日本のファッション用語の変化」を見ていきます。
なぜ日本のファッション用語にはこれほど和製英語が多いのか。そして昔の言葉と今の言葉では、何がどう変わったのか。
この問いを深掘りすることで、日本がいかに独自のファッション文化を育ててきたかが見えてきます。
なぜ日本のファッション用語には和製英語が多いのか
まず、根本的な問いから始めます。
日本のファッション用語に和製英語が多い理由は、明治以降の西洋文化の受容の仕方にあります。
明治時代、日本は急速に西洋化を進めました。服装もその例外ではなく、それまでの和服中心の生活から洋服へと移行していきます。でも洋服の概念を輸入するとき、日本語にはその概念を表す言葉がなかった。
そこで取られた方法が、外来語をそのまま取り込みつつ、日本語として使いやすい形に変形させることでした。英語の発音を日本語のカタカナに変換し、場合によっては省略・合成・造語する——これが和製英語の基本的な生まれ方です。
さらに戦後、アメリカ文化の大量流入が起きます。GHQの進駐とともに入ってきたアメリカのファッション——デニム、Tシャツ、スニーカー——これらの言葉も日本語に取り込まれていきました。この頃に定着した言葉の多くが、今も現役で使われています。
つまり日本のファッション用語の和製英語は、「西洋の概念を日本語に変換しようとした歴史の積み重ね」の結果です。
「昔」の言葉——戦前・戦後に定着した和製英語
まず、比較的古い時代に定着した和製英語を見ていきましょう。
ワイシャツ(Yシャツ)
「white shirt(ホワイトシャツ)」が訛って「ワイシャツ」になったとされる言葉で、明治時代から使われています。英語では「dress shirt」または「button-down shirt」と言いますが、日本では「ワイシャツ」が完全に定着しています。
面白いのは、白いシャツ以外の色のシャツも「ワイシャツ」と呼ぶようになったことです。「青いワイシャツ」「ストライプのワイシャツ」——もはや「white」の意味は完全に抜け落ちています。
ズボン
フランス語の「jupon(ジュポン)」が語源とされる言葉で、明治時代から使われてきました。英語でも仏語でもない独自の変化を経た言葉です。現代では「パンツ」に置き換わりつつありますが、年配の方を中心にまだ現役で使われています。
オーバー(overcoat)
コートのことを「オーバー」と略して呼ぶ言葉は、昭和中期まで広く使われていました。「オーバーを羽織る」という表現は、今の世代にはほぼ通じませんが、ある年代以上の方には自然な言葉です。「外套(がいとう)」という日本語も同義で使われていました。
アベック(avec)
これはファッション用語というより文化用語ですが、カップルのことを「アベック」と呼ぶ言葉はフランス語の「avec(〜と一緒に)」から来ています。昭和のファッション誌では「アベックルック」「アベックコーデ」という表現がよく使われていました。今は「カップル」「ペア」に置き換わっています。
「バブル期〜90年代」に生まれた和製英語
次に、バブル期から90年代にかけて生まれ、定着した言葉を見ていきます。
カットソー
「cut and sew(裁断して縫う)」という製造工程の名称を略した完全な和製英語です。ニット(編み物)と区別するための業界用語として生まれ、いつの間にか消費者にも広まりました。英語圏では通じませんが、日本のアパレル業界では今も現役の重要ワードです。
フォーマル・カジュアル(の日本的使われ方)
「フォーマル」「カジュアル」自体は英語ですが、日本での使われ方は英語圏とかなりズレています。日本では「スーツ=フォーマル」「デニム=カジュアル」という二項対立的な使い方が定着していますが、英語圏では「formal」はもっと限定的な場面(黒いタキシードなど)を指すことが多い。
セットアップ
上下同素材・同柄のアイテムの組み合わせを指す言葉です。英語の「set up」から来ていますが、この意味での使い方は和製英語的です。英語圏では「matching set」「co-ord(コーオード)」と呼ぶことが多いです。
ワンピ(ワンピース)
「ワンピース」をさらに略した「ワンピ」は、完全に日本で生まれた省略形です。英語圏では当然通じません。省略と造語が得意な日本語らしい変化の例です。
「2000年代以降」——グローバル化で変わった言葉
2000年代以降、インターネットの普及とグローバル化によって、日本のファッション用語にも変化が起きています。
「ニット」と「セーター」の混在
かつては「セーター」が一般的でしたが、今は「ニット」が広く使われるようになりました。「セーター」はやや古い響きを持つようになり、若い世代は「ニット」と呼ぶことが多い。この変化は、海外ファッション誌やブランドの影響が大きいとされています。
「スニーカー」の定着と「上履き」感の喪失
「スニーカー」は英語の「sneaker」から来た言葉ですが、日本では完全に定着しています。かつては「運動靴」「テニスシューズ」とも呼ばれていましたが、今や「スニーカー」が唯一の呼び名に近い状態です。
「ビッグシルエット」「オーバーサイズ」の台頭
2010年代以降に急速に定着したこれらの言葉は、SNSとともに広まりました。以前は「ダボっとした服」と表現されていたものが、「ビッグシルエット」「オーバーサイズ」という言葉を得て、ファッション用語として確立されました。言葉が変わることで、「だらしない」から「スタイリッシュ」へとイメージも変わっています。
「ワントーン」「ワントーンコーデ」
全身を同系色でまとめたスタイルを指す言葉ですが、これも日本独自の言い方です。英語圏では「monochrome outfit」「tonal dressing」と言います。SNSの投稿を通じて急速に広まった、比較的新しい和製英語の例です。
昔の言葉が消え、新しい言葉が生まれる——言葉の新陳代謝
ファッション用語の変化を見ていると、興味深いパターンが見えてきます。
古い言葉は「古さ」そのものを示す記号になる
「オーバー(コート)」「アベック」「ズボン」——これらの言葉を使うと、それだけで「昭和」「古い人」という印象が伝わります。言葉がファッション用語としての機能を失っても、「時代の記号」としての機能を持ち続けるわけです。
デニムの呼び方の変化——「Gパン」→「ジーンズ」→「デニム」——も同じパターンです。どの言葉を使うかで、だいたいの世代がわかる。
新しい言葉は「今っぽさ」を演出する
逆に、新しいファッション用語を使いこなすことが「今のファッションを知っている」サインになります。「ビッグシルエット」「ゴープコア」「クワイエットラグジュアリー」——これらの言葉を知っているかどうかが、ファッションへの関心度を示す一種の指標になっています。
英語への回帰も起きている
近年、和製英語から本来の英語表現への回帰も見られます。「トレーナー」が「スウェット」に。「ジャンパー」が「ブルゾン」や「ジャケット」に。これはグローバル化の影響で、英語本来の意味に近い言葉が好まれるようになってきた流れとも言えます。
和製英語はなくなるのか
最後に、この流れを踏まえて「和製英語はこれからなくなるのか」という問いを考えてみます。
答えは「なくならない」だと思います。
日本語は、外来語を取り込みながら独自に変形させることを繰り返してきた言語です。英語が入ってきても、フランス語が入ってきても、それを「日本語として使いやすい形」に変えてしまう。この傾向は、情報がグローバル化した今でも続いています。
「ワントーンコーデ」「セットアップ」「カットソー」——これらは英語圏では通じませんが、日本のファッション文化の中では完全に定着した言葉です。これらは間違いでも劣ったものでもなく、日本が独自に育てたファッション語彙です。
和製英語の多さは、日本のファッション文化が外来の概念を取り込みながら独自に発展してきた証です。言葉の変化を追うことは、文化の変化を追うことでもあります。
「ズボン」から「パンツ」へ。「オーバー」から「コート」へ。「Gパン」から「デニム」へ——言葉は変わります。でもその変化の軌跡の中に、日本のファッション文化の歴史が刻まれています。
