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そもそも、なぜファッションを「流行」と言うのか? 言葉の由来を辿ってみる。

「流行」という言葉、当たり前に使っていますが、よく考えると面白い言葉です。

「流れて」「行く」。なぜファッションやトレンドのことを、こんな言葉で表現するようになったのか。改めて問われると、答えられる人は少ないかもしれません。

今回は、この「流行」という言葉そのものの正体を、語源から掘り下げてみたいと思います。


「流行」はもともと、病気が広がることを指す言葉だった

まず驚くべき事実があります。「流行」という言葉は、もともとファッションとは無関係な意味で使われていた漢語でした。

「流行」の語源は「物事が河の流れる様のごとく世間に流布する」という意味を表す漢語です。そしてこの言葉が指していたのは、徳の広まることや、はやり病(疫病)が広まることでした。

つまり、もともと「流行」は、徳のような精神的なものが世間に広がっていく様子、あるいは、疫病が人から人へと広がっていく様子を表現する言葉だったわけです。「流れる水のように、止まらず広がっていく」というイメージが、言葉の核にありました。

これが日本に伝わり、日本では「流行」は動詞化された「はやる」という言葉と混同され、現在のような「世間に広まる」という意味で使われるようになっていきました。

服装や言葉、思想や行動様式といったものが世間にもてはやされて広まる現象を、もともと疫病の広がり方を表していた言葉で表現する——この発想の転換が、なんとも興味深いところです。


なぜ「疫病の広がり方」が、ファッションの広がり方と重なったのか

ここがこの言葉の面白さの核心です。

疫病というのは、特定の場所から、人と人との接触を通じて、次第に範囲を広げていきます。最初は一部の人だけがかかっていたものが、気づけば多くの人に広がっている。

実は、ファッションのトレンドの広がり方も、これと非常に似た構造を持っています。最初はごく一部の人が着ていたスタイルが、口コミや視覚的な伝播によって、次第に多くの人へと広がっていく。一人から一人へ、ある人から別の人へ伝わっていくという「感染的な広がり方」は、疫病とファッションに共通する現象です。

社会学の世界でも、ファッションの流行現象は「社会的伝染(social contagion)」という考え方で説明されることがあります。新しいスタイルが、まるで感染症のように、人から人へと伝わっていく——「流行」という言葉が持つ本来の意味と、ファッションという現象の構造が、結果的にぴったり重なっていたわけです。

言葉を作った人が、それを意図していたわけではないでしょう。でも、後から見てみると、この言葉の選び方は驚くほど的を射ています。


英語の「fashion」は、まったく違う語源を持つ

ここで、英語の「fashion」という言葉の語源も見てみると、さらに面白い対比が見えてきます。

英語の「fashion」は、「作ること」「なすこと」を意味するラテン語「factio」に由来し、古期フランス語の「faceon」を経由して「fashion」となりました。さらに遡ると、ラテン語の「facere」は「to make, to do, face」を意味する言葉です。

つまり英語の「fashion」は、もともと「作ること」「やり方」「形にすること」という意味から派生した言葉なんです。日本語の「流行」が「広がる」ことに焦点を当てているのに対し、英語の「fashion」は「作る」ことに焦点を当てている。同じ現象を指す言葉なのに、その語源が指し示すイメージは、まったく違う方向を向いているわけです。

これは非常に興味深い違いです。東洋では「広がっていく現象」として捉え、西洋では「作り出す行為」として捉えていた——言葉の成り立ちひとつにも、文化的なものの見方の違いが表れているように感じます。


「トレンド(trend)」という言葉の意味も見てみる

もう一つ、よく使われる「トレンド」という言葉にも触れておきます。

英語の「trend」は、もともと「曲がる」「傾く」「向かう」といった意味を持つ言葉で、川や海岸線が一定の方向に「傾いていく」様子を表す言葉として使われてきました。そこから、物事が一定の方向に進んでいく「傾向」を意味する言葉として定着していきます。

不思議なことに、ここにも「流れ」のイメージが見え隠れします。日本語の「流行」が河の流れを語源としていたのと同じように、英語の「trend」もまた、川や海岸線の「流れていく方向性」から生まれた言葉でした。

言語も文化も違うのに、人々がファッションやトレンドという現象を捉えるときに、どこかで「流れ」のイメージに辿り着いている。これは単なる偶然なのか、それとも、人間が物事の伝播を直感的に「流れ」として理解する傾向があるからなのか——考えてみると、なかなか奥深いテーマです。


「流行」という言葉を知ったうえで、ファッションを見ると

この語源を知ったうえで、改めて「流行」という言葉を見てみると、少し違った印象を持つようになります。

ファッションのトレンドは、誰かが一方的に「これが正解」と決めるものではなく、人から人へ、まるで水が流れるように、自然に広がっていくものです。そしてその広がり方は、良くも悪くも、止めることが難しい。これは、疫病の広がり方とまったく同じ性質です。

だからこそ、トレンドは一過性で、いつか必ず別のものに取って代わられます。流れる水が、ひとつの場所に留まり続けることがないのと同じように。

「流行」という、たった二文字の言葉の中に、ファッションという現象の本質——広がり、伝染し、そしていつか過ぎ去っていくという性質——が、すでに織り込まれていたのだと考えると、なんとも感慨深いものがあります。


まとめ:言葉の由来は、現象の本質を語っている

「流行」という言葉は、もともと疫病や徳の広まりを表現する漢語でした。その「水のように広がる」というイメージが、後にファッションという現象を表す言葉として定着していきました。

一方、英語の「fashion」は「作ること」に由来し、「trend」は「流れの向かう方向」に由来しています。同じ現象を指していても、言葉の生まれた背景はそれぞれ異なります。

言葉の由来を辿ることは、その言葉が指す現象の本質を理解することでもあります。「なぜそう呼ぶのか」を知ることで、当たり前に使っていた言葉が、少し違った輝きを持って見えてくる。それもまた、ファッションを学ぶ楽しさのひとつだと思っています。

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