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ファッションのトレンドって、どうやって生まれるんでしょうか?

「今年はこの色が流行る」「今シーズンはこのシルエットがトレンド」——毎シーズン、当たり前のようにそんな情報が流れてきます。

でも、よく考えてみると不思議です。誰が決めているのか。なぜそのアイテムが「次のトレンド」として選ばれるのか。自然に生まれているように見えて、実はその裏側には、思った以上に複雑な仕組みが存在しています。

今回は、ファッショントレンドが生まれる仕組みを、できるだけ丁寧に分解してみたいと思います。


トレンドの出発点——「トレンド予測」というビジネス

意外と知られていないことですが、ファッションのトレンドには「予測」という上流工程が存在しています。

世界には、ファッション業界に向けてトレンド情報を提供する専門機関があります。その代表格が「WGSN」というロンドン発の企業です。WGSNは、世界中のファッションブランド、アパレルメーカー、流通業者に向けて、2年先くらいまでのトレンド予測情報を提供しています。

さらにそのさらに上流には「カラー」の予測機関も存在します。代表的なのが「Pantone(パントン)」です。パントンは毎年「Color of the Year(今年の色)」を発表しており、この発表がアパレル業界だけでなく、インテリア、化粧品、グラフィックデザインなど、さまざまな業界に影響を与えています。

つまり、私たちが目にする「トレンド」の多くは、自然発生的に生まれたものではなく、専門機関による分析と予測を経て、ある程度「設計」されたものでもあるということです。


トレンド予測は何をもとに行われるのか

では、これらの専門機関は、何を根拠にトレンドを予測しているのでしょうか。

①社会・経済の動向

景気が良いときと悪いときでは、人々が求めるファッションの傾向が変わります。不景気のときは、派手さよりも実用性や堅実さを感じさせるスタイルが好まれやすくなる傾向があるとされています。逆に好景気のときは、華やかさや遊び心のあるデザインが支持されやすくなる。

社会全体の空気感や経済状況は、ファッションの方向性に大きな影響を与える要素のひとつです。

②社会的な出来事・価値観の変化

環境問題への意識の高まりがサステナブルファッションを後押ししたように、社会的な出来事や価値観の変化は、トレンドの方向性そのものを動かす力を持っています。ジェンダーレスファッションの広がりも、こうした価値観の変化と深く関係しています。

③過去のトレンドの「再評価」

ファッションには「20年周期」「30年周期」といった、過去のスタイルが再評価されて戻ってくるという経験則があります。90年代のスタイルが2010年代後半に再注目されたように、過去のトレンドのアーカイブは、新しいトレンドの重要な源泉になっています。

④異業種・アート・サブカルチャーからの影響

音楽、映画、アート、ストリートカルチャーといった、ファッション以外の領域からの影響も非常に大きい要素です。特定のアーティストのスタイルが注目を集めることで、そのスタイルがファッションのトレンドに変換されていくケースは数多くあります。


トレンドの「降ってくる」順序——トリクルダウン理論

トレンドがどのように一般に広まっていくのかについて、古くから語られている考え方が「トリクルダウン理論」です。

これは、トレンドはまず上流(ハイファッション、ラグジュアリーブランド、セレブリティ)から発信され、それが少しずつ下流(マスマーケット、ファストファッション、一般消費者)へと伝わっていくという考え方です。「trickle down」は「滴り落ちる」という意味で、まさに水が上から下へ伝わっていくイメージです。

パリコレクションやミラノコレクションで発表されたデザインが、半年〜1年ほどのタイムラグを経て、ファストファッションブランドの店頭に「似たデザイン」として並ぶ——これがトリクルダウンの典型的な流れです。

ただ、このトリクルダウン理論は、ここ十数年で大きく様変わりしてきています。


SNS時代の「トリクルアップ」という逆流現象

インターネットとSNSの普及によって、トレンドの伝わり方は従来のトリクルダウン理論だけでは説明できなくなってきました。

近年注目されているのが「トリクルアップ」と呼ばれる現象です。これは、ストリート、サブカルチャー、一般のSNSユーザーから発信されたスタイルが、逆に上流のハイブランドやセレブリティに取り入れられていく流れのことです。

ストリートカルチャーから生まれたスタイルが、ラグジュアリーブランドのコレクションに反映されるという事例は、近年非常に増えています。原宿のストリートファッションが、海外のハイブランドのデザイナーに影響を与えるという現象も、トリクルアップの一例といえます。

SNS、特にTikTokやInstagramの普及によって、一般のユーザーが発信するスタイルが、瞬時に世界中に広がる時代になりました。今では「誰が最初に着ていたか」よりも「どれだけ拡散されたか」のほうが、トレンドの広がるスピードに直結しているケースも少なくありません。


マイクロトレンドという新しい現象

SNS時代特有の現象として「マイクロトレンド」という言葉も注目されています。

これは、特定のアイテムやスタイルが、SNS上で爆発的に話題になり、短期間だけ強い注目を集めて、その後すぐに別のトレンドに取って代わられる現象を指します。従来のトレンドが「シーズン単位(数ヶ月〜半年)」で動いていたのに対し、マイクロトレンドは「数週間単位」で生まれて消えていきます。

この背景には、ファストファッション業界がトレンドをいち早く商品化するスピードの速さと、SNSのアルゴリズムによる情報の拡散スピードの速さが関係しています。「見つけてから買うまで」の時間が、以前とは比較にならないほど短くなっているのです。


トレンドは「予測」と「偶然」の両方から生まれる

ここまで見てきたように、トレンドには「意図的に設計される部分」と「偶然や社会の流れから自然に生まれる部分」の両方が存在しています。

WGSNやパントンのような専門機関による予測は、トレンドの「土台」を作る役割を果たしています。一方で、SNSでの自然発生的なバズや、ストリートカルチャーからの逆流現象は、予測の枠を超えて、トレンドに新しい流れをもたらしています。

現代のトレンドは、上から降りてくるものと、下から這い上がってくるものが入り混じった、非常に複雑な構造の中で生まれているといえます。


アパレルの現場で感じる、トレンドの「実感」

現場に立つ人間として感じるのは、こうしたトレンド予測の情報が、実際に店頭の商品展開にしっかりと反映されているということです。

シーズンが始まる半年から1年前から、メーカーやバイヤーはトレンド情報を集め、商品の企画・仕入れの方向性を決めていきます。店頭に並ぶ商品のほとんどは、こうした予測のプロセスを経て選ばれたものです。

一方で、お客様の反応を見ていると、予測通りに売れるものと、予想外に注目されるものが、はっきり分かれることもあります。SNSで話題になったアイテムが急に売れ始めることも珍しくありません。トレンドというのは、専門家の予測だけで完全にコントロールできるものではなく、最終的には人々の感性や、その時代の空気感によって、最後の最後まで動き続けているものなのだと感じます。


まとめ:トレンドは「作られる」と「生まれる」の両方でできている

トレンドがどう生まれるのかを整理すると、こうなります。

WGSNやパントンのような専門機関による予測と分析が「土台」を作り、社会の動き・経済状況・サブカルチャーからの影響が「方向性」を加えます。そして、SNS時代になってからは、ストリートや一般ユーザーからの「逆流」が、トレンドにさらに新しい力を与えています。

つまりトレンドは、誰か一人が決めているものではなく、専門家の予測と、社会全体の空気感、そして無数の人々の選択が積み重なって生まれる、ある種の「集合的な現象」だということです。

次に「今年のトレンド」という言葉を目にしたとき、その裏にあるこうした構造を少し思い出してみると、ファッションというものの面白さが、もう一段深く見えてくるかもしれません。

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