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家族の未来:楊晩晴「玩偶之家」


あらすじ

『帰来之人』(2021年刊)所収。
ある街に暮らす4人家族。長女のアンナは4歳の誕生日に交通事故で失明する。失明の原因は脳の損傷にあった。母親のカイラは激しく動揺し、夫に娘を治すよう詰め寄る。
そこで人工神経の研究を専門とする父親・ムーシエンは、娘の脳に接続して身体的な反応を補助する、四肢を備えたいわば外付けのCPU=テディの開発に成功する。一見クマのぬいぐるみにしか見えないテディを持ち歩くおかげで、アンナは再び目が見えるようになったのだった。
しかしある日、アンナは幼稚園でいたずらっ子にテディを奪われてしまう。そのときテディが取った行動とは、手に電流を流していたずらっ子を感電させるというものだった。それを耳にしたムーシエンは、テディにあるはずのない自我が芽生えていることに衝撃を受ける。
月日は流れ、アンナは成長して結婚相手を見つけていた。時代遅れのテディはアンナの結婚を機に、ハチドリ型のデバイスと交換されてしまう。以後、あるじを失ったテディはアンナの記憶だけを反芻して日々を過ごしていた。
一方、すでにテディのような存在は「共生体」と呼ばれて広く使用されており、アンナの弟であるアレンもドラゴン型共生体を連れ歩いていた。ところがアンナばかり顧みられる家庭で鬱屈していたアレンは、カーチェイスに興じる中であっけなく命を落とす。父親はアレンの共生体を使って息子を子供の頃の姿で蘇らせる。一旦は結婚したアンナも、やはりテディから離れられずに生家へと戻って来ていた。もう一度、4人と1台の生活が始まるが……。

感想

楊晩晴(ヤン・ワンチン)作品はどれも人間関係をきめ細かく捉えていますが、本作もやはり繊細な世界観が印象的でした。
ストーリー全体は、アンナに語りかけるテディの視点(二人称)と、後年の父親が書いたという設定の自叙伝「ピグマリオンーーある創造者の観察」からの抜粋(一人称)を交互に配置することで構成されています。テディの語りが時間の経過に寄り添ってストーリーラインを形作るのに対し、父親の回想は「ピグマリオン」としての自分の行いが正しかったのかと逡巡する場面が多くなっています。テディパートではひたすら科学者であろうとし、父親であろうとするムーシエンが描かれていますが、自叙伝パートからは、悩み、後悔する「人間らしい」彼の心の内側が読み取れます。
また、テディもただ物語を進めるために説明していくだけの役割ではなく、アンナへの長い手紙とも取れるような二人称で語りかけていることで、どこからか芽生えたテディの自我がどんなものなのかを垣間見せてくれます。またテディベアという外見の設定からは、映画「A.I.」のテディを連想しました。実際に作者も意識しているのかもしれませんが、本作を読んだ後で「A.I.」をもう一度見てみたいと思わせる不思議な引力を感じます。

作者について

楊晩晴さんは本noteですでに何度かご紹介しています。今年に入り、長編小説「金桃」を発表しており、こちらは8世紀、唐を舞台にしたシルクパンクとのこと。近未来の短編が多いイメージの楊晩晴さんですが、「金桃」ではどんな物語が展開しているのか、期待が膨らみます。

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