効率とは?公平とは?:顧適「択城」
あらすじ
『2181序曲』(2024年刊)所収。
気候変動による災害が激甚化した未来。たびたび洪水に悩まされる街に住む主人公は、ほかの多くの人々と同じように、外付けエアバッグと災害救助用ナビゲーションAI・大禹を搭載した自動車を持っていた。エアバッグは洪水発生時に車体の外で開き、それによって車が船として使えるようになる。そしてAIは現在地点から最善の避難ルートを案内してくれるのだった。
しかしあるとき、大禹が救助する人間を選んでいるのではないかという疑惑が持ち上がる。実は主人公は大禹の前身である小YU(シャオユー)の時代からこの種のAIの開発にたずさわっていた。そのアルゴリズムはブラックボックスであるため、具体的な証拠をつかむことはできないものの、主人公は過去の経験から「選別」の可能性を否定できずにいた。設計者の1人として責任を感じた主人公は、大禹の本体がある建物へと向かうが……。
感想
ストーリーはシンプルながら、そこここに言葉遊びや中国の伝説を踏まえた表現が散りばめられており、ひとことでいえば「うまい」作品だと感じました。
AIに頼りきりになってしまった人間たちが、自分たちが生み出したAIに自らの命の選別を許してしまう、というモチーフは特別目新しいものではありません。しかしそんな物語を肉付けするキャラクター(中心人物はすべて女性。これは以前ご紹介した「《2181序曲》再版導言」でも同様で、顧適さんご自身が女性作家であることを強く意識しているゆえの特徴だと思います)同士の心のひだが細やかに描かれ、人間模様の深みを味わわせてくれる読後感を作品に与えているように思います。
また、言葉遊びや中国の伝説は、問題となるAIや中心人物たちの名前をめぐって展開しています。AIは当初「YU(小YU)」という名前で、中国語の「雨」と同じ発音だったのですが、主人公が外を見ながら「小雨じゃなくて大雨じゃないの」とつぶやいたのを認識して、AI自ら「大YU」と名乗るようになりました。その「大YU」は、中国の伝説上の名君、禹(ユー)の敬称である「大禹」と同じ発音なのです。この禹には、大河の治水に成功したという伝説があります。そして主人公の「塗山嬌」、その子の「啓」という名前も、禹の妻と子供の名前からそのまま借りています。こういった点でも少しおもしろく読めるのも、ちょっとした魅力になっています。
ちなみに禹の父は鲧(グン)といい、治水に失敗してしまいました。この鲧も、YUから切り替え可能なAIアシスタントの名前で出てきます。(しかし中国語の中の罵倒語である「滚」と同じ発音のため、YUに「乱暴な言葉はやめてください」と言われてしまい切り替えられず、GUNにはセリフがありませんでした。どこまでもかわいそう……)
作者について
顧適さんについては以前こちらでご紹介しました。SF作家であるだけでなく、都市計画家の顔も持っているそうです。そのことを知ってこの作品を読むと、一層物語の奥行きを感じられるかもしれませんね。
