【ショートショート】 国家ファクトチェック委員会による取り調べ 《せりふ三題噺》
「野崎好郎さん。年齢は56歳。住所は東京都文京区◯◯。職業は政治学教授。間違いありませんね?」
「…はい」
「これから行うのは国家ファクトチェック委員会の取り調べです。野崎さん、なぜ我々があなたに接触したかお心あたりは?」
「…」
「正直に答えていただけると助かりますが、いいでしょう。ではこちらを。この写真はあなたが昨年末に△△大学で講演をしたときのものです。このときの冒頭、ご自分で何を言ったか覚えていますか?」
「…いえ」
「あなたはこう言ったのです。『冬から空気も柔らんで暖かくなってまいりました。この時期は屋上に出て青空を見ながらドヴォルザークの春一番の歌などを聴くと、より季節を感じられます』と。これですね、正しくは春の歌です。YouTubeの演奏動画とかにもちゃんと春の歌と出ています。講演のド頭からかなりやらかしていますよね。恥ずかしくありませんか? 何千人もの前で。ただ、これは一度だけじゃない。あなた、何年も前から年度が変わる時期の講演で同じ間違いを繰り返し言っている。野崎さん、春一番というのは何かの暗号なのではありませんか?」
「ち、違います! それは…故意ではありません。今言われて初めて気がつきました」
「なるほど。確かに顔が真っ赤ですね。訓練で身に付けた演技だとしたら大したものだ。では、こちらはどうです? あなたが今年の年初に政治フォーラムでスピーチをしたときの写真です。スピーチの内容を覚えていますか?」
「す、全てではありませんが…」
「このときあなたはこう言った。『我が国は長らく経済停滞に喘いでいますが、抜けないトンネルはありません。リンジー・ローファーのTime after Timeではありませんが、いつも何度でも、戦後の焼け野原からでも、この国は蘇るのです』
誰ですか、リンジー・ローファーって? シンディー・ローパーでしょ? しかもこれ、リンジー・ローファーのなかにリンジー・ローハンが混じっていますよね? 彼女、今は良きお母さんになりましたけども。海外の著名人の名前を間違えて、なおかつ別の名前を混同して公の場で言うとか、ヘタしたら大問題ですよ。これは故意に誤情報を発信したと思われても不思議じゃない」
「ち、違います!! 信じて下さい! 故意ではないんです!」
「仮にそうであったとしても、これだけの誤情報をあなたが発信してしまったのは事実です。証拠も揃っている。我々の権限であなたを表舞台から退場させることもできます」
「そ、そんな…。そんなことをされたら私の収入や生活は…」
「では、ここからが本題です、野崎さん。今後、我々に協力すると今約束していただければ、あなたへのお咎めはなしとしましょう」
「協力? 何をしろと?」
「あなたよりはるかに悪質で、より影響の大きいフェイクを流している者たちを捕らえる手助けをしてもらいます」
「…ずるいね、そちらも。この状況で断るなんてできるわけないじゃないですか」
「ええ。お互い様ですよ」
*こちらに参加させていただきました🙇♂️
お題
せりふ:ずるいね
三題:屋上、春一番、ローファー
