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「くーれーなーいーだーーー!!」私の肛門科体験物語

これは、人に言えない痛みを抱えて孤独に戦う現代の女性たち――「潜伏痔主」へ向けた、壮大な救いと連帯の物語である……!

初めての肛門科を受診した日に先生に言われた。
先生「女性の患者さんが多いんですよ。若い人も多いです」
少なくとも私の周囲で肛門が女子会の話題になったことはない。だからこそ未知の扉の先にある肛門科。

我がシモノセキに異変を感じ、いよいよ専門のところで診てもらうしかないかと腹を括った女(私)の体験談である。先人の体験談を探したものの「これこれ、我が同志!」と思えるものがなく、肛門科受診に非常に勇気が必要だった当時の私が知りたかった(尻だけに)ことをまとめたものである。

【ことの発端は便秘外来】

ことの発端は普通の便秘であった。
職場で催したらどうしよう、食物繊維不足、水分不足、運動不足、あらゆる対策をしたとて出ない。書き込みサイトでもよそ様の体験談を真似て合法な範囲であらゆる腸活にチャレンジしてきた。
お腹は常にパンパンで横から見ると前にもお尻があるようなまんまるフォルム。アニメキャラの「みなしごハッチ」ようなお腹のシルエットである。
あらゆる腸活をしても私には効かない。一方でうちの男(夫)には効果テキメン。つまり方法は間違いはなく、被験者の適正の問題である。

ぬか漬けや納豆などの発酵食品、海藻その他水溶性食物繊維、ごぼうなど不溶性食物繊維、水分摂取、腸マッサージ。

うちの男(以下男)「君は、君は、俺に何をしたんだ!なんの実験をしたんだ!!腸が破れたかと思ったよ!俺の腸はどうなってるんだ!!!」

アウトプットの喜びをさも困ったかのように伝えてくる。困ったふりをしながらも破顔して喜びが漏れ出ているのだ。
なるほど、方法は間違いない。被験者1(男)には効果あり。被験者2(私)にはからきしだめである。

市販薬を愛用していたが、これはこれで「癖になる」「胃腸が黒くなる」など巷で言われており、なんとかしないとなと思っていた。市販薬を使い始めて数年経つしいっそ便秘外来に行って、自力出力機能をアップデートしたいと思い立って調べたところ数年前にコロナワクチンを打った近所のクリニックに便秘外来があった。
「なんだあそこか」と気楽になって受診することにした。

クリニックは激混みである。ここにいる人全員が何らか不具合があるのかと思うと滅入るほどの待ち人。秋口だからインフルエンザ予防接種の人もいればコロナかも?の人もいた。なんとか座る場所を見つけた。

【出ない人は出ない】

40分ほど待って名前を呼ばれた。先生は豊かな体型の女性。これは親身になってくれそうだ。(偏見)
先生「いつから便秘ですか」
考えてみたら小学生の頃から悩んでいる。実家のトイレの壁に貼ってあったカレンダーに出た日はイラストを描いていた程度の便秘。大家族でゆっくりトイレに座ることもできなかったからか。

先生「何をしても出ない人は出ないですよ。血圧を下げようと対策しても下がらないみたいなもので」
私「え、え、」
先生「腸活は継続することと、出ないことには出すしかないから薬を飲むこと。内視鏡検査してみたら?」
簡単に言う。
近所だし、気楽に来てみたら内視鏡検査なんてオオゴトにされそう。

私「乳がん治療中で定期的にCTを撮ってますがそれとは違うんですか」
先生「CTだとお腹に便がたまっていたりするとよほど大きな炎症や異変は見つかるが、小さなものはわからないことがあるから大腸内視鏡がいいですね。そこで何もなければ地道に薬を飲んだり腸活したり安心して対策できますから」

先生は話をしながらこちらを一瞥もせず、高速ブラインドタッチであっという間に入力を終えた。
私「今決めないとなりませんか?」こんなオオゴトとは想像してなかった。
先生「考えてみて下さいね。では2週間分のお薬を出しますので、効き方を教えてくださいね」

「出ない人は出ない」
もしかしたら、オーソリティのこうした言葉が聞きたかったのかもしれない。気が楽になったのは確かだ。

【再び便秘外来へ】

数日後再び便秘外来へ。2週間分の薬をもらったがそれが全く効かず、お腹がいよいよ球体に近づきみなしごハッチからスイカ泥棒のようになっている。うちの男に「あなた、もうすぐ産まれるわ」とまん丸のお腹をさすって見せた。男は50歳を過ぎた女の素っ頓狂な欺瞞を相手にせずに腹部の丸みに驚いて「かわいそうだ、かわいそうだ」と憐れんだ。

クリニックの受付で「薬が効かず苦しいです」と伝えたところなぜかすぐに順番が来てレントゲン室に案内された。若い男性医師。数年前だったら自意識過剰で若い男性医師にシモノセキだの便秘だのとのっぴきならない事情を知られるのはとても恥ずかしかったが今はそんなことは全くない。早く楽にしてくれた者勝ちだ。

レントゲンの結果はすぐに出た。
先生「これだけ便秘なのにガスも溜まってないし問題はなさそうだが念のため内視鏡をやりましょう」とのこと。
もしや、内視鏡商法か?
内視鏡を受けたくない拒否反応が妙な悪徳商法に結び付けようとしている。
仕方がない。何もなければいいんだから。と「内視鏡をうけ、、、ま、、、、っす」と伝えたところ帰りの受付で予約となった。この時10月。しかし内視鏡予約は最短で年末ですと言われた。やはり内視鏡商法か?

私の乳がん主治医は面倒見がよくて「体の不調があればまずは私に教えてください。そこから各科に連絡しますから」と言ってくれ、実際そうしていたし、乳がん以外の体調もひとまとめで話をするのがとても気に入っているのだが今回は事後報告か。

一通り内視鏡検査の説明を受けた。主に前日の下剤の説明だが、まだ10月だぜ?年末まで覚えていられるのかね。メモを取りながら、実質1週間前から素うどん生活がよさそうだなと思うなどした。
ああ、生きるってトイレだ。

【座薬初体験】

さて、レントゲンを受診した後に初回とは違う薬を処方された。
私「ひとまず今の詰まりを出したい」とお腹をさすりながら訴えた結果、刺激性の薬と座薬が処方された。なんだ刺激性か。これでは市販薬と変わらないではないか。
52年生きてきてまだ初体験が残っていた。その一つが座薬である。

うちの男はもともとお節介で世話焼きなのだが今回は待望のお世話チャンスと見たのか
男「君一人ではできないから俺が座薬を入れる!俺がやらなきゃ誰がやる。俺は子供の頃しょっちゅう発熱して座薬の経験があるんだ!」と高らかに宣言した。
貴様の子供の頃なんて半世紀も前のことを持ち出されても時代は令和だぜ?
私「絶対に嫌だ」と言いながらも不安が勝ち、結局水揚げされたマグロのように横たわり身をゆだねた。

・・・入った!肛門にすごい刺激!何これ!すごい!
男は無事座薬が入ったのを確認して安心して出かけた。
取説によると座薬を入れてから早ければ数分、遅くとも数十分後にはなんらか変化が訪れるはずであった。一人尻を出したまま横たわること10分経過、20分、30分。反応はない。なぜ?ただ男に尻を見られただけではないか。

薬剤師が1日2個まで使っていいと言っていたがその時は(1日2個!そんな人いるの?)と驚きながら聞いていたがそれは私のことである。
こうなったらもう開き直ってお尻の感覚を覚えているうちに第2弾いってみますか。
ついでい竹内涼真のドラマを観ようとスマホスタンドを枕元に準備して第二弾レッツゴー。

ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」涼真(敬称略)のキャラが極端に思えるような気もするし、いやいや男の本音だろうとも納得できる。なかなか面白いな、来週が楽しみだな。しっかり45分ドラマを観たがその間、尻はまたも無反応であった。

【効かない座薬】

「座薬 効かない」とネットとAIに聞いてみて自分なりの解釈を得た。
おそらく肛門の出口で水分を失ったコロコロ便が蓋をしているのではないか。
さらにとある肛門科の先生が「当院ではコロコロ便には麻子仁丸を処方する」との記述を発見。買ってみよう。

外出から戻った男に一連の報告をした。
男「かわいそうだかわいそうだ」と心配してくれたが自分がいかに座薬投与に貢献したかを語り始めた。

麻子仁丸を3か所ドラッグストアをはしごして見つけた。多少効いた気もするが、劇的にすっきりするわけでもなく「やっぱり良くも悪くも漢方だぜ」と即効性に飢えているこの身には少し物足りない。
麻子仁丸とクリニックで処方された飲み薬を飲んで数週間、まあ、もうこんな感じなら悪くないしもう内視鏡をキャンセルしてもいいんじゃないか、と思う頃に事件が発生した。

【ハローイボ姉妹】

便秘外来でアドバイスされた通り、決まった時間にトイレに座るモーニングルーティンを実践。
この日、「あ、出るかも?ん、出ない?ん、出る?ん、出ない?」を繰り返し、初めてエスカレーターに乗る時のように足を出しては引くような感覚を尻に感じながらトイレに座っていた。

出そう、待て待て、出ないーーーー痛いーーーー、うわーーーーーーオエーーーー吐き気もする、痛いーーーーーー!!

耐えがたきを耐えてウォシュレットのレベルを一番弱くしてお尻を洗った。どこかが切れたのか流血している。
紅に染まる便器を見て「くーれーなーいーだーーー!!」とつぶやく余裕は多少ある。

鏡を持ってきて患部を覗き見たところ、小粒のシャインマスカットのようなはちきれんばかりイボが二つ並んで顔を赤らめて「やっと会えたね」と言っている。

こんなことが我が身に起こるとは、信じられない思いだが謙虚に目を閉じて運命を受け入れる。
後から押し寄せる吐き気の波。経験したことのない臀部の違和感。強烈な痛み。それに反してどこまでも愛らしい小粒のイボ姉妹。
(BGMはジャクソン5「BEN」)



とてもじゃないが吐き気と痛みで動けない。でも仕事に行かなくちゃ。大幅に遅刻したがなんとか事務所に到着したものの座れない。吐き気で仕事ができない。痛すぎて吐き気を催し絶叫したのはマンモグラフィー以来だ。その場にいた人が青ざめてこちらを見る。地獄があるのなら、ここですよと言いたい。

結局会議室の床に横たわりしばらく休み、帰ることにした。よちよち歩きで電車に乗り優先席に座るおばさま方がこちらを心配そうに見ている。
立つのもつらいし座るのもつらい。しかし、どうにか座って最寄り駅へ。開発途中の二足歩行ロボットのようにぎこちなく歩いて3度目の便秘外来へ。
便秘外来もある内科のクリニックだが消化器科もあって「痔」の記載もあった。ナムサン!頼むぞ!

【藁をもつかむ気持ちでイケメン】

1時間待った。今日もインフルエンザの予防接種でゲキ混み。この中にいぼ痔仲間はいるかなぁー?呑気に見渡す余裕もなく、生まれたての赤ちゃんを触るような慎重さでそーっと座った。

今日は今まで見たことがなかった若いイケメンがいる。TIKTOKで踊るグローバルボーイズグループにいてもよさそうな背がすらっとした若い先生だ。52歳のいぼ痔バージンおばこと私はどうかこの人以外で頼みますと願って待った。

診察室のドアが開き、私の名前を呼ぶイケメン先生。この人にイボ姉妹を紹介することになるのか。嗚呼。

イケメン先生「ここは内科なんで、薬で様子を見ていただいて改善しなければ泌尿器科へ」と。
せっかくの機会だからイボ姉妹を紹介したかったけど、見ないのね。それはそれで残念だ。

軟膏と痛み止めなどを処方してもらい帰宅。勝手にいぼ痔だと決めつけた私は市販のいぼ痔の薬を買った。
うちの男には夕食は自助で頼み、自分用にみかんやうどんを買って帰宅。帰宅した男は妻の様子に戸惑って顔がひくひくしている。薬を飲んで軟膏を塗って化粧を落として足を洗って寝た。

【イボ姉妹に支配された体】

翌日も体調不良のため自宅警備。起きたら昨夜の熱は下がり、気力もある。
昨日の私はやってないことを「私がやりました」と答えてしまいそうなほど辛く早く楽になりたかった。

痛み止めと軟膏によりイボ姉妹はサイズダウンしたもののまだそこにいる。今そこにある危機、だ。

経験したからわかることだが、いぼ痔には寝た方が楽なフェーズと立っている方が楽なフェーズがあるようだ。
昨日は歩くのもままならず、一つ一つのアクションが覚えたてのロボットダンスみたいなぎこちなさだったが、今日は寝るより立った状態が楽で、歩きも圧倒的にスタスタいける。

一連の出来事をSNSでつぶやいたところ例によって外科医の友人がすぐに連絡をくれた。
内科の対応(患部を見ずに投薬で様子見)は致し方ないことや、いざとなったら消化器科ではなく肛門科受診と教えてくれた。

それはそうと生きる営みとして出ないといきんでイボ姉妹は悪化するが、いきむには痛くてたまらない。ニワトリが先か、ならぬBENが先かいぼ痔が先かに悩んだ。
いよいよ肛門科受診を決めた。時が来たのだ。

夕方姉から電話。私のSNSを見たようで、心配の電話だ。
そこで痔の手術をした身内がいること、手術はしてないが他にも家族内に罹患者がいることが判明した。「え、てことは家系的なやつー?」と安堵した。

身内が受診した病院は4駅ほどの距離。その辺りの名医との情報を得て、電話を切った後早速調べてみたら車がないと通院が大変そうだ。となると、うちの隣駅の肛門科だなと心を決めた。姉が教えてくれた肛門科は名医らしくかなり混雑していることが口コミからわかった。つまりそれだけ仲間がいるのだと思えば気が晴れた。

【リアルサイボーグと私の関係】

夜、男が怒りながら帰宅した。
男「昨日の医者(イケメン)はやぶ医者だ!君をこんな風に苦しめて!」
ありがたいが、対応に問題はなかったと伝えたが「僕は心配でたまらない!」と怒りが収まらない。
私「昨日今日と痛くて参ったんだけど、人間1箇所しか痛みを感じないって言うから太ももに傷つけたらお尻の痛みを感じないのかな」
男「それは戦後渋谷のスクランブル交差点に本屋を作った軍人の話しみたいなやつだね」

話はこうだ。
米兵に「リアルサイボーグ日本兵」と呼ばれた軍人がいた。彼の名は舩坂弘。(敬称略)
米軍からの攻撃に遭い太もも裂傷。その後も数回にわたって被弾しては復活し自力で基地に帰還。戦争終盤に決死の突撃したところまた被弾!米軍が野戦病院に連れて行くと3日後立ち上がり、その後帰国して渋谷に本屋を開業。(テレ東ウェブサイト参照し抜粋)

うちの男からしたら、私の様子は満身創痍でこの偉大なリアルサイボーグ日本兵を思い出すほどのことだったのか。申し訳なく存じます。こちらは尻の不具合だけです。

かつてうちの男が同僚とマレーシアに出張した際の話も聞いた。
同僚は現地のスパイシーな食事を食べまくって帰国前夜に潜んでいたいぼ痔が出てきてしまった。薬局で説明しようにもいぼ痔の英語がわからない。
うちの男はいぼ痔の英語を知っていたが若い女性の店員に言うのが恥ずかしくて黙っていたそう。

すると同僚は
「Something came out from my tube!」
俺のチューブ(管)から何か出てる!!と説明して店員に爆笑されたらしい。
飛行機がハードに着陸した瞬間、同僚の絶叫が機内にとどろいたそうだ。

【おしりを出した子一等賞】

翌日。晴天。熱は下がり、体調が良くなってきている。
尻は相変わらず痛いから長時間座るのは難儀だが、自宅警備をする分にはなんら問題はない。肛門科に行くつもりが本日は木曜日で休診。

無理のない範囲で家事をこなし、夕食の下ごしらえ。たまには手間のかかるものを作ろう。メニューはスコッチエッグ。半熟にゆでた卵を冷やしてからハンバーグの生地に包んで衣をつけてあげる。下ごしらえをしておく。
手間のかかる料理は男への感謝の証。

お手洗いに行き、イボ姉妹に軟膏を塗ろうかとお尻を出したままキッチンへ。
軟膏は坐剤兼用のため冷蔵庫保管中。冷蔵庫から軟膏を一つ取り出して少しだけ常温に置いた。軟膏を抽出しやすくするためだ。

あ、そうだ、ごはんを研がないと思いつき米を研いだ。尻は出したままだ。
♪くまの子見ていたかくれんぼ♪
♪おしりを出した子一等賞♪
歌いながらお釜にセット。
尻出し米だ。

手を洗って消毒し、手袋をはめて軟膏タイム。
軟膏も慣れたものであらかじめ切っておいたガーゼに軟膏を乗せてお尻に貼る。

やけに手慣れてるなと記憶を辿る。私の世代ではギョウ虫検査という肛門に何やらフィルムを貼る検査があったのだ。あの要領だ。
ギョウ虫検査の経験が今になって活きてくるとは人生って愉快なものですね。

男が帰宅した。
ただいまの前に「お尻はどうだ!」と言う。家族っていいもんですね。
スコッチエッグを揚げて夕食。卵がとろとろで美味しくできた。
男も気に入ったようだが、これをまた作る気になる日は今回並の困難あってのことなのでできればもう作りたくない。

食後は姉が教えてくれた肛門科の口コミを再び見た。入院中は1日数回の腰湯があるそうだ。やはり温めるのは良さそうだから湯船に入って今日も21時過ぎには寝た。
明日は娑婆に出ていよいよ肛門科の門を叩こう。

【肛門科体験物語】

翌日、午後はいよいよ肛門科へ。
私の人生でまさか肛門科にお世話になるとは全く思っていなかった。
一口に便秘といえど、生産段階の不具合か(腸)、出口の問題か(尻)見極めが必要なのだ。やみくもに世間の情報を取り入れたとて自分にマッチするかは別問題。こじらせて尻から血を出した私が言うのだ。

今時ホームページがない肛門科クリニック。Googleマップでの口コミしかないがその口コミはあたたかい。中には☆一つのものもあるが駐車場が停めにくいとおよそ診察とは関係のないもので、ほかは☆5つばかり。親身だ、家族で世話になっていると口コミが並ぶ。家族で世話になる肛門科とは?
ホームページで宣伝しなくても地元の人で成り立っている良さそうなイメージが持てた。それにしても緊張する。肛門科。今の私は門戸開放中だ。

駅からナビを片手に歩き、5分もかからず到着。隣の駅だからしょっちゅう来ているが、いつもは反対側の飲み屋街ばかりでこちら側は来たことがなかった。かなり静かで人通りもまばら。飲み屋街から数メートルしか離れていないなんて信じられない。

口コミでは混雑していると書かれていたが、クリニック前は閑散としている。まさか休み?慌てて入り口の貼紙を見ていたら自動ドアが開いた。診察中だった。

【ここはパラレルワールド?クラシカルな肛門科】

かなり先輩風情のお姉様方が受付奥に3名。これは52歳の私がうっかり就職したら若手と呼ばれるパターンだ。
ピンクの事務員制服が華やかで癒される。なんとも言えない懐かしい雰囲気。

初めてと伝えたら「今日はどうされましたか」と聞かれた。
人がそばに数名いたので、肛門科バージンの私は少し恥じらい小声で「いぼ痔からの切れ痔で、」と小声で伝えたところすべて言い切る前に「はいわかりました」と問診票を渡された。

問診表は原紙が行方不明になったものをコピーしてコピーしてコピーして使っているようで、全体が斜めにゆがんで回答欄を構成する表の線はもはや直線とは言えない。これがむしろ安心感につながるものだから不思議なものだ。

待合には6名ほど、問診票を書いてる間に2名が清算を終えて帰った。待合には年配が多いが年若い人もいる。「今月から後期高齢者になったから負担が軽くなった(安くなった)」「あら、いいわねー!」と待合で居合わせた人で会話する感じなど、なんともタイムスリップした気分になる。

名前を呼ばれて診察室へ。かなり頑丈な分厚いドアを看護師が開けてくれた。パラレルワールドに入ってしまったような気がしてならない。ピンクのナース服を着た豊かな体型の看護婦。あえて看護婦と呼びたくなるのは終戦の年に生まれた我が母と同世代に見えるからなのか。この感じ、妙に癒される。靴は白のナースシューズに白いソックス!

青い上下の服を着た先生はメガネをずらして私を見て、お尻の経緯を一通り聞くと「じゃ見てみましょう。壁に向かって寝て、ズボンを膝下まで脱いでね」え、こうもあっさり見てくれるの??

ベッドに移動したらピンクナースがカーテンを閉めて「膝を抱えるような姿勢でお待ちください」と優しい。パンツを脱いだだけで「上手よ」と褒めてくれる。泣いちゃう。がんばれる。人間の尊厳を守って下さりありがとうございます。



「お待ちくださいね」とピンクナースが言い終わったとほぼ同時にカーテンが開きいよいよその時が来た。テンポがとにかくいいのだ。

先生は見るなり「あ、これは典型的な裂肛ですね。失礼します」と肛門という名のトンネル内に何かひんやりした器具が入る。

私「い、い、痛いです」
先生「ここは痛い?」
私「はい痛いです」

こうした問答を数回繰り返して終わった。パンツを履く前にピンクナースがお尻をぬぐってくれて「ありがとうございました」となぞにお礼を言われた。もう好きにして。

【イボ姉妹はいぼにあらず】

結果、いぼ痔ではなかった。
先生「典型的な裂肛ですね。レッコウ。こういう字を書きますよ」とメモしてくれた。
先生「女性の患者さんが多いんですよ。若い人も多いです」

「裂肛(れっこう)」裂けた肛門こと裂肛。X JAPANの歌にありそう。
結果、中で3箇所切れていた。先生が切れてるところを描いてくれた。肛門を時計に見立てて1時、7時、9時のところが切れているのだと。どうりで痛いわけだ。

では、小粒なシャインマスカットのような弾けそうに赤らんだイボ姉妹は何だったのか?
先生曰く「肛門からスキンタグが出てる」と言っていた。スキン(皮)のタグ。いきみにいきんで裂肛の炎症で腫れた皮膚が伸びて余った皮だそう。えー。
【いぼ痔ではない】この事実は私を喜ばせた。

確かに今日は薬を塗ってもいぼ姉妹の存在は指で確認できなかった。ただ肛門の中が強烈に痛く、トイレが再び薄紅に染まった。ドラマ「積木くずし」で娘の非行に悩んだお母さんが血尿するシーンがあったが、それを思い出し、再び歌いだす。

「くーれーなーいーだーーー!!!!」
紅に染まったこのトイレを慰めるヤツはもういない

「来て良かったです。安心しました。ありがとうございます!」と深々とお礼を言い、ピンクナースが分厚いドアを開けて待っていてくれているのでお礼を言って退室した。

今日は坐剤と酸化マグネシウム、出にくい時の薬が処方された。数日前に便秘外来でイケメン先生に処方されたものと同じ注入もできる坐剤。今日までいぼに塗っていたが今夜からはお尻の中に入れる。

今日処方された坐剤の量たるや、上野アメ横ニキの菓子で売ってる徳用菓子みたいな量である。リュックがパンパンになった。

最後までパラレルワールドにいる気分が抜けなかった。あれだけ躊躇した肛門科だが、これまで行ったどのクリニックよりも親身にお尻に向き合ってくれたじゃないか。私にとっては秘密の部位だが、先生にとってはあらゆる肛門のうちの一つに過ぎず、なんてことはないのだ。もっと早くに行けばよかった。

パラレルワールドのようなクリニック


【潜伏痔主は令和のリアルサイボーグ】

お尻は痛いが晴れやかな気分で帰宅し男に一連の報告。
男「良かった。でも僕の出番がなかった。せめて腰にカイロを貼るのは僕の役目だよ」とかわいいことを言う。
SNSで肛門科に行ったと書いたら「私も」「実は私も」と潜伏痔主がDMで挨拶をしてくるという怪現象が起きた。一人や二人じゃない数である。それぞれのエピソードが熱く寄せられた。

これで点と線がつながった。「女性が多く来ます」の実態が。みな潜伏していたのね。人に言えないからって一人で戦っていたんだ!令和のリアルサイボーグじゃないか。
人に言えないから病院を我慢してる人も多いのかもしれない。しかし行って分かったのは肛門科は私と同じくらい私のお尻に正面から向き合ってくれる寄り添いの場所だった。
したがって潜伏痔主にあなたは一人じゃないと伝えたい。つらい時はピンクナースをイメージしてみて。

尻は痛いが心晴れやか。風呂上がりに男にめぐリズム(低温カイロ)を腰に貼ってもらって寝た。
その後も数回肛門科にかかり、薬を変え、生活習慣を肛門科で相談し平穏な日が続いている。

トイレが紅に染まることはあれから一度もない。


#創作大賞2026 #エッセイ部門

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