⚖️ 税務実務の読み解きノート空室か、空家か🔯小規模宅地で問われる“営業実態”
1 事件の概要
ミカ「先生、相続開始直前に賃貸物件が空室だった場合、小規模宅地等の特例は使えますか」
教授「使える場合もあります。ただし、一時的な空室といえるかが問題です」
ミカ「空室と空家は違うのですか」
教授「違います。空室は“次の入居者を待っている部屋”。空家は“賃貸市場から退場しかけている建物”です」
今回の裁決は、平成12年12月22日裁決です。
問題になったのは、相続開始直前に建物が空家になっていた宅地について、小規模宅地等の特例を適用できるかという点でした。
請求人側は、建物は一時的に空家だっただけで、賃貸用の建物だから、事業用宅地として特例を認めるべきだと主張しました。
しかし審判所は、賃借人募集の事実が認められず、建物も老朽化して直ちに第三者へ賃貸できる状態ではなかったとして、一時的空室とは認めませんでした。(KFS)
2 請求人側、つまり納税者側の主張
ミカ「納税者側は、どう主張したのですか」
教授「要するに、“たまたま空いていただけです”という主張です」
請求人側の主張は、次のようなものです。
本件宅地上の建物は、もともと賃貸用である。
相続開始直前には空家だったが、それは一時的な空室にすぎない。
賃借人を募集していた。
したがって、この宅地は被相続人の事業用宅地として、小規模宅地等の特例を適用すべきである。
ミカ「確かに、賃貸物件なら、入居者が退去して空室になることはありますよね」
教授「あります。賃貸経営では普通です」
ミカ「では、空いていたらすぐアウトではない」
教授「そのとおりです。問題は、次の入居者を探している状態だったのか、それとも実質的に貸付事業が止まっていたのかです」
ミカ「賃貸物件にも、営業中と休眠中があるのですね」
教授「はい。税務署は“空室中”の札だけでは納得しません。“営業中”の証拠を見ます」
3 原処分庁側、つまり税務署側の主張
原処分庁側は、次のように考えました。
相続開始直前、建物は空家だった。
賃借人を募集していた事実は確認できない。
建物は老朽化しており、すぐに第三者へ賃貸できる状態ではなかった。
したがって、空家状態は一時的なものではなく、事業用宅地とはいえない。
ミカ「税務署側は、“空いていた”ではなく、“貸す気と貸せる状態があったのか”を見たのですね」
教授「はい。賃貸事業は、物件を持っているだけでは足りません」
ミカ「募集している、修繕している、管理している、という動きが必要」
教授「そのとおりです。賃貸業にも脈拍があります」
4 審判所の判断
審判所は、原処分庁側の判断を認めました。
審判所は、相続開始直前に建物が空家であったことについて、賃借人を募集していた事実は認められないとしました。
さらに、建物は老朽化しており、直ちに第三者に賃貸できる状態ではなかったと判断しました。
そのため、建物が空家であった状態は、単なる一時的な空室とはいえず、本件宅地は事業用宅地に該当しないとして、小規模宅地等の特例の適用を否定しました。(KFS)
ミカ「つまり、“空室です”と言っても、賃貸に出せる状態でなければ弱いのですね」
教授「はい」
ミカ「募集もしていない」
教授「弱いです」
ミカ「建物も老朽化している」
教授「さらに弱いです」
ミカ「すぐ貸せない」
教授「決定的に弱くなります」
ミカ「空室というより、税務上は空家」
教授「まさに今回の核心です」
5 この裁決のポイント
この裁決のポイントは、空いている理由と状態です。
賃貸物件では、入居者が退去して一時的に空室になることは当然あります。
そのような場合でも、すぐに募集しており、修繕もされ、いつでも貸せる状態なら、賃貸事業が継続していると説明できる余地があります。
しかし今回のように、募集の事実がなく、建物が老朽化し、すぐ貸せない状態であれば、賃貸事業が継続していたとは言いにくくなります。
教授「ミカさん、空室と空家の違いを一言でいうと何でしょう」
ミカ「空室は、次の入居者を待っている状態。空家は、賃貸市場から寝落ちしている状態です」
教授「かなりよいですね」
6 実例で考える
実例1 「一時的空室」と説明しやすいケース
アパートの一室で、令和8年5月に入居者が退去した。
相続開始は令和8年6月。
退去後すぐに管理会社へ募集を依頼し、募集サイトにも掲載。
室内清掃と軽微な修繕を実施。
令和8年7月には新しい入居者が決まった。
この場合、一時的空室と説明しやすいです。
ミカ「これは、たまたま入居者の入替え時期だっただけですね」
教授「はい。賃貸事業の流れが止まっていません」
実例2 「空家」と見られやすいケース
古い貸家で、最後の入居者が2年前に退去。
その後、募集広告なし。
管理会社への依頼なし。
雨漏り、床の傷み、設備故障がある。
修繕見積りも取っていない。
相続開始直前もそのまま放置。
この場合、一時的空室ではなく、空家と見られる可能性が高いです。
ミカ「これは“次の入居者を待っている”というより、“建物が休眠している”感じですね」
教授「はい。税務署から見ると、賃貸事業の看板が外れているように見えます」
実例3 判断が分かれやすいケース
貸家が半年空いている。
相続開始の2か月前にリフォーム見積りを取った。
管理会社に相談したが、正式な募集開始は相続後。
建物は古いが、軽微な修繕で貸せる状態。
この場合は、資料次第です。
ミカ「微妙ですね」
教授「はい。こういう場合は、相談記録、見積書、メール、写真、管理会社とのやり取りが重要です」
ミカ「空室期間そのものより、貸すための動きがあったか」
教授「そのとおりです」
7 税理士の意見
税理士として見ると、この裁決はかなり実務的です。
相続税の小規模宅地等の特例は、税額への影響が非常に大きい制度です。
そのため、賃貸用建物がある土地については、できれば貸付事業用宅地等として特例を使いたい場面があります。
しかし、建物があるだけでは足りません。
過去に貸していたことがあるだけでも足りません。
相続開始直前に、実際に貸付事業が継続していたと説明できることが重要です。
特に、貸家が空いている場合には、次の点を確認すべきです。
・最後の賃借人の退去日
・空室期間
・賃借人募集の有無
・募集広告、管理会社との契約、メール
・修繕や清掃の状況
・建物がすぐ貸せる状態か
・老朽化の程度
・相続開始後の賃貸状況
・他の用途に使っていないか
・賃貸をやめる意思がなかったか
ミカ「つまり、空室の説明には“営業証拠”が必要ですね」
教授「はい。空室は黙っていますから、資料にしゃべってもらう必要があります」
ミカ「募集広告、修繕見積り、管理会社とのやり取りが証人ですね」
教授「そのとおりです」
8 実務で特に注意すべきこと
実務では、次のようなケースに注意が必要です。
古い貸家を長期間空けたままにしている。
相続開始前に入居者募集をしていない。
修繕しないと貸せない状態で放置している。
親族が物置として使っている。
固定資産税や草刈りだけはしているが、賃貸活動はしていない。
管理会社との契約が終了している。
このような場合、相続開始直前に「賃貸用です」と主張しても、かなり苦しくなります。
教授「ミカさん、賃貸物件で一番大事なのは何でしょう」
ミカ「家賃収入ですか」
教授「それも大事です。ただ、空室時には、次に貸す意思と行動です」
ミカ「貸す気があるだけではなく、貸すために動いていること」
教授「まさに実務の核心です」
9 まとめ
今回の裁決は、相続開始直前に建物が空家だった宅地について、一時的空室とは認められず、小規模宅地等の特例が否定された事例です。
請求人側は、建物は一時的に空家だっただけで、賃借人も募集していたから、事業用宅地として特例を適用すべきだと主張しました。
しかし審判所は、賃借人を募集していた事実は認められず、建物も老朽化して直ちに賃貸できる状態ではなかったとして、特例の適用を否定しました。(KFS)
ミカ「今日の結論は、空いているだけなら空室。でも、募集も修繕もなく、貸せない状態なら空家、ですね」
教授「はい」
ミカ「小規模宅地等の特例では、賃貸の営業実態が問われる」
教授「そのとおりです」
ミカ「空室にも、税務上の履歴書が必要」
教授「名言です」
教授は最後に言った。
「賃貸物件は、空いていても事業が続いていることがあります。しかし、何も動いていなければ、税務上は“空室”ではなく“空家”と見られます」
ミカが笑った。
「空室は次の入居者を待っている。空家は税務署に待たれているのですね」
