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⚖️ 税務実務の読み解きノートその役員旅行、本当に視察ですか🔯役員だけで行った旅行は、研修か観光か


1 事件の概要

ミカ「先生、役員だけで旅行に行って、会社の経費にするのは危ないですか」
教授「危ないです。特に、視察と言いながら観光が中心だと、税務署はかなり厳しく見ます」
ミカ「でも、採石場を見に行ったとか、取引先と会ったとかなら、研修や交際費になりませんか」
教授「そこがこの事例のテーマです」
今回の事例は、昭和61年12月4日裁決です。
法人が、役員のみで旅行を行い、その費用を会社の経費として処理しました。
会社側は、旅行の目的について、役員相互の意思疎通、採石場の視察、取引先等の接待を挙げました。
しかし審判所は、採石場視察の事実も、取引先接待の実態も、役員間の意見対立の調整が図られた事実も認められないとして、観光目的の旅行であり、費用は役員賞与に該当すると判断しました。
ミカ「つまり、“視察旅行”という名前だけでは通らなかったのですね」
教授「はい。税務署は、旅行のタイトルではなく、旅程の中身を見ます」
ミカ「旅行会社のパンフレットより、税務調査の虫眼鏡ですね」
教授「そのとおりです」

2 原告、つまり会社側の主張

正式には訴訟ではなく審査請求なので、「原告」ではなく請求人です。
請求人側の主張は、こうです。
本件旅行は、役員相互間の意思疎通を図るためのものだった。
採石場を視察する目的もあった。
取引先等の事業関係者にも該当する役員を接待し、事業の円滑化に役立てる目的があった。
したがって、旅行費用は業務遂行上必要なものであり、交際費等として処理できる。
ミカ「会社側としては、“単なる遊びではなく、仕事のための旅行です”という主張ですね」
教授「そうです」
ミカ「役員同士の意思疎通も大事ですし」
教授「大事です。ただし、税務では、意思疎通したという事実をどう示すかが問題です」
ミカ「温泉で語り合いました、では弱いですか」
教授「かなり弱いです。議事録のない温泉会議は、税務署から見ると湯けむりです」

3 被告、つまり原処分庁側の主張

こちらも正式には「被告」ではなく、原処分庁です。
原処分庁側は、次のように見ました。
採石場を視察した事実が確認できない。
取引先接待といっても、相手は取引先等の事業関係者というより、役員の立場にある者である。
旅行中に役員間の意見調整が行われた事実も認められない。
したがって、本件旅行は業務遂行上必要なものではなく、観光目的の旅行である。
会社が負担した旅行費用は、参加役員に対する経済的利益であり、役員賞与に該当する。
ミカ「税務署側は、旅行の目的をかなり冷静に見たのですね」
教授「はい。税務署は旅館の料理写真ではなく、業務との関係を見ます」
ミカ「観光地の写真はある。でも視察記録はない」
教授「それは危険です。税務では、写真が絶景でも、経費性は絶景とは限りません」

4 審判所の判断

審判所は、原処分庁側の判断を認めました。
ポイントは、次の3つです。
第一に、採石場の視察を行った事実が認められなかったこと。
第二に、取引先等の事業関係者の接待とはいえなかったこと。
第三に、旅行中に役員間の意見対立の調整等が図られた事実も認められなかったこと。
そのため、審判所は、本件旅行を役員のみで行われた観光目的の旅行と判断しました。
その結果、旅行費用は業務遂行上必要なものとは認められず、参加役員に対する役員賞与に該当するとされています。
ミカ「役員だけで行ったこと自体が問題ですか」
教授「それだけで即アウトではありません。ただ、役員だけの旅行は、業務性の説明が弱いと、一気に私的旅行に見えます」
ミカ「社員研修なら参加対象が広い」
教授「はい」
ミカ「取引先接待なら相手先との関係がある」
教授「はい」
ミカ「視察なら視察先と成果がある」
教授「そのとおりです」
ミカ「この事例では、それらが見えなかった」
教授「まさにそこです」

5 実例で考える

実例1 観光旅行と見られやすいケース

役員3人で2泊3日の旅行に行った。
行き先は温泉地と観光名所。
旅程表には「業界視察」と書いてある。
しかし、視察先へのアポイントはない。
面談記録もない。
報告書もない。
旅行後に会社での検討事項もない。
この場合、業務上必要な旅行とは説明しにくく、役員賞与とされるリスクがあります。
ミカ「これは“視察”という名前の観光ですね」
教授「はい。税務署には、湯気の向こうに賞与が見えます」

実例2 研修・視察と説明しやすいケース

役員と幹部社員で、同業他社の工場を視察した。
事前に訪問依頼書を送付。
当日は担当者から説明を受け、設備や管理方法を確認。
写真、名刺、議事メモ、視察報告書を保存。
帰社後、改善会議を行い、設備投資や業務改善に反映した。
この場合、業務との直接関係や成果を説明しやすいです。
ミカ「これは会社に持ち帰るものがありますね」
教授「はい。お土産が饅頭だけでなく、業務改善案なら強いです」

実例3 交際費と説明しやすいケース

会社の主要取引先を招き、商談と懇親を兼ねた旅行を行った。
参加者名簿、取引先名、商談内容、接待の目的、支出内訳が残っている。
取引先との関係維持や新規案件の協議が明確。
この場合は、交際費等として検討する余地があります。
ただし、役員家族の参加分や観光部分が大きい場合は、私的費用や役員給与の問題が出ます。
ミカ「同じ旅行でも、誰と行き、何をしたかで変わるのですね」
教授「そのとおりです。税務では、旅行先より目的地が大事です」

6 税理士のミカタ

税理士として見ると、この裁決は非常に実務的です。
中小企業では、役員旅行が「研修」「視察」「慰労」「親睦」という名目で行われることがあります。
しかし、役員だけで行く旅行は、経費性の説明がかなり重要です。
特に次のような場合は危険です。
観光地中心の旅程である。
視察先のアポイントがない。
業務報告書がない。
取引先の参加実態がない。
家族同伴である。
役員だけが参加している。
会社の業務改善や取引拡大につながった資料がない。
ミカ「先生、視察旅行にするなら、何を残すべきですか」
教授「最低限、次の資料です」
・旅行目的を記載した稟議書
・旅程表
・訪問先とのアポイント記録
・参加者名簿
・視察先の資料、名刺、写真
・商談メモ、議事録
・帰社後の報告書
・会社業務への活用内容
・観光部分と業務部分の費用区分
ミカ「つまり、旅行に行く前から勝負は始まっているのですね」
教授「はい。税務調査の前に、旅程表の段階で結果が半分決まります」

7 実務上の注意点

実務では、研修旅行・視察旅行・慰安旅行・交際費・役員賞与を分けて考える必要があります。
社員全体を対象とする福利厚生的な慰安旅行なら、福利厚生費として検討する余地があります。
取引先を接待するなら、交際費として検討します。
業務上の視察なら、旅費交通費や研修費として検討します。
しかし、役員のみで、観光中心で、業務記録がない旅行は、会社の経費ではなく、役員個人への経済的利益と見られやすくなります。
ミカ「科目名だけ変えてもダメですね」
教授「はい。研修費、旅費交通費、交際費。どの服を着せても、中身が観光なら危ないです」
ミカ「観光旅行がスーツを着て領収書を持ってきた感じですね」
教授「まさに。税務署は服装ではなく足取りを見ます」

8 まとめ

今回の裁決は、役員のみで行った旅行について、業務遂行上必要なものとは認められず、参加役員に対する役員賞与とされた事例です。
会社側は、役員相互の意思疎通、採石場視察、取引先接待を目的とした旅行であり、業務上必要な支出だと主張しました。
しかし審判所は、採石場視察の事実、取引先接待の実態、役員間の意見調整の事実が認められないとして、観光目的の旅行と判断しました。
ミカ「今日の結論は、役員旅行は、名目より実態ですね」
教授「はい」
ミカ「視察なら、視察先と報告書」
教授「大事です」
ミカ「接待なら、取引先と目的」
教授「大事です」
ミカ「研修なら、学習内容と成果」
教授「大事です」
ミカ「何もなければ、観光」
教授「そして、会社負担なら役員賞与の危険です」
教授は最後に言った。
「視察旅行は、会社に知識を持ち帰るものです。写真と思い出だけを持ち帰る旅行は、税務上、役員賞与になりかねません」
ミカが笑った。
「旅のしおりに“研修”と書いても、税務署は足跡を見ているのですね」

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