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⚖️ 税務実務の読み解きノート🔯おばあちゃんの株式は誰のものだったのか


――父の相続財産か、孫への死因贈与か

ミカ「先生、今日は少し家族ドラマっぽいですね」
教授「はい。テーマは、祖母の株式は、父の相続財産なのか、それとも孫への死因贈与なのかです」
ミカ「おばあちゃんが孫に株を渡すつもりだった、という話ですね」
教授「そうです。ただし税務では、“つもり”だけでは足りません。意思表示、受け取る側の認識、保管状況、引渡しの事実が問題になります」
ミカ「気持ちは温かい。でも税務は冷静」
教授「そのとおりです。税務署は涙より証拠を見ます」

1 事件の概要

この裁決は、平成10年3月31日裁決です。
問題になったのは、請求人名義の株式でした。
原処分庁は、この株式について、請求人の父である被相続人が、亡母、つまり請求人から見れば祖母の相続により取得したものだと考えました。
したがって、その株式は父の相続財産である、という認定です。(KFS)
ミカ「税務署側は、“祖母が亡くなったあと、父が相続した株式でしょう”と見たのですね」
教授「はい。つまり、祖母から父へ、そして父の相続財産へ、という流れです」
ミカ「でも、請求人側は違うと」
教授「そうです。請求人側は、祖母は父に残したのではなく、孫に渡すつもりだったと主張したわけです」

2 請求人側の主張

ミカ「請求人側の主張は、どういうものですか」
教授「要するに、こうです」
本件株式は、祖母が孫である請求人に渡すつもりで準備していたものである。
祖母は、父に相続させるつもりではなかった。
したがって、この株式は父の相続財産ではなく、請求人の固有財産である。
ミカ「“お父さんのものではなく、おばあちゃんから私へのものです”という主張ですね」
教授「そのとおりです」
ミカ「でも、死因贈与って、遺言とは違うのですか」
教授「違います。死因贈与は、贈与者の死亡によって効力が生じる贈与契約です」
ミカ「契約ということは、もらう側の承諾も必要ですね」
教授「はい。ここが大事です。遺言は一方的な意思表示ですが、死因贈与は契約です。つまり、“あげる側”と“もらう側”の関係が問題になります」

3 原処分庁側の主張

原処分庁の主張は、かなりシンプルです。
請求人名義の株式は、父である被相続人が、祖母の相続により取得したものである。
したがって、その株式は父の相続財産である。
ミカ「税務署側は、株式の流れを“祖母 → 父 → 父の相続財産”と見たのですね」
教授「はい。家系図でいうと、一世代上から父へ流れたと考えたわけです」
ミカ「請求人側は、“祖母 → 孫”だと」
教授「そうです。税務の世界で、株式がどの道を通ったのかを争った事件です」
ミカ「株式にも通学路があるのですね」
教授「しかも、税務署はその通学路の防犯カメラを見たがります」

4 審判所の判断

審判所は、請求人側の主張を認めました。
ポイントは、祖母がこの株式を、被相続人らの相続財産として残す意図はなかったと見られる事情です。
裁決要旨では、祖母が請求人に株式の購入目的を告げていたこと、死期が近づいた祖母が購入していた株式等を4つに分け、孫たちにあてて第三者に預けたこと、その後、祖母の死亡後1か月ほどして請求人に引き渡されたことが認定されています。(KFS)
ミカ「かなり具体的ですね」
教授「はい。ここが重要です。単に“おばあちゃんがくれると言っていた”だけではありません」
ミカ「株式を4つに分けた」
教授「はい」
ミカ「孫たちにあてた」
教授「はい」
ミカ「第三者に預けた」
教授「はい」
ミカ「死亡後に請求人へ引き渡された」
教授「そのとおりです」
審判所は、これらの事情から、遅くともその時までに、祖母と請求人との間で、祖母が死亡したら本件株式を贈与するという死因贈与契約が成立していたと認めるのが相当だと判断しました。(KFS)
その結果、本件株式は請求人の固有財産であり、父である被相続人の相続財産ではないとされました。
したがって、原処分庁が本件株式を父の相続財産と認定したことには事実誤認があり、その価額は相続財産の課税価格から差し引くべきだと判断されています。(KFS)

5 この裁決のポイント

ミカ「先生、この裁決の一番大事なところはどこですか」
教授「名義だけでなく、贈与の意思と具体的な行動が重視されたところです」
ミカ「祖母の気持ちだけではなく、行動ですね」
教授「はい。税務では、愛情にも足跡が必要です」
この事例では、次の点が効いています。
・祖母が孫に株式を渡す意思を示していたこと
・株式を孫たちに分ける形にしていたこと
・第三者に預けていたこと
・祖母の死亡後、実際に孫へ引き渡されたこと
・父の相続財産として残す意図がなかったと見られること
ミカ「つまり、“祖母の意思”が、ちゃんと行動として外に出ていたのですね」
教授「そのとおりです。頭の中だけの相続対策は、税務ではなかなか通用しません」

6 税理士としての意見

税理士として見ると、この裁決は非常に示唆的です。
相続では、家族の間で「これは孫にあげるつもりだった」「これは父のものではない」という話が出ることがあります。
しかし、税務上は、誰の財産かを判断するには、意思だけでなく、客観的な資料と具体的な行動が必要です。
ミカ「先生、今回のような場合、実務では何を残すべきですか」
教授「少なくとも、次のようなものです」
・贈与の意思を示す書面
・死因贈与契約書
・株式の名義、保管状況、管理者の記録
・誰に何株渡すかのメモ
・第三者に預けた場合の記録
・死亡後の引渡し記録
・配当金の受取人
・株主権を誰が行使していたか
ミカ「やはり契約書があると強いですね」
教授「はい。もちろん、この裁決では契約書がなくても事情から死因贈与契約が認められています。ただ、実務では契約書がある方がはるかに安全です」
ミカ「“おばあちゃんが言っていた”だけでは弱い」
教授「かなり弱いです。税務署には、思い出話だけではなく、資料を出す必要があります」

7 実務上の教訓

この裁決から学べることは、シンプルです。
相続財産かどうかは、名義だけでも、家族の説明だけでも決まりません。
死因贈与を主張するなら、贈与者の意思、受贈者の承諾、財産の特定、引渡しや管理状況を説明できることが重要です。
特に株式は、名義、配当、議決権、保管、管理の流れを確認する必要があります。
ミカ「先生、家族間の財産移転は、感情だけでなく記録が大事ですね」
教授「そのとおりです」
ミカ「愛情には記録を」
教授「税務的には、かなり正しいです」

8 まとめ

今回の裁決では、祖母が孫に株式を分ける意思を示していたこと、株式を孫たちにあてて預けていたこと、祖母の死亡後に孫へ引き渡されたことなどから、祖母と孫との間に死因贈与契約が成立していたと判断されました。
そのため、本件株式は、父である被相続人の相続財産ではなく、孫である請求人の固有財産とされました。
ミカ「今日の結論は、おばあちゃんの株式は、父の相続財産ではなく、孫への死因贈与と認められた、ですね」
教授「はい」
ミカ「ただし、そう認められるには、意思と行動の証拠が必要」
教授「そのとおりです」
ミカ「株式にも、家族の物語と税務上の履歴書がある」
教授「まさに実務の核心です」
教授は最後に言った。
「おばあちゃんの気持ちは尊い。しかし、税務ではその気持ちがどの財産に、どのように結びついたかを見ます」
ミカが笑った。
「相続税では、思い出も、株式も、証拠があると強いのですね」

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