寄附金とは何か⚖️ 税務実務の読み解きノート📚️税法・判例・通達から考える実務判断
善意の寄付だけが「寄附金」ではない
「先生、寄附金って、要するに寄付したお金のことですよね」
ミカが、法人税の資料を見ながら尋ねた。
教授は、少し笑って答えた。
「世間一般ではそうですね。しかし、税務上の寄附金は、もう少し広い概念です」
「広いのですか」
「はい。現金を寄付した場合だけでなく、相手に対価なく経済的利益を移転した場合も、寄附金になることがあります」
「お金を渡していなくてもですか」
「そうです。たとえば、時価より高く買う、時価より安く売る、根拠の薄い支援金を払う、債権を放棄する。このような場合にも、寄附金認定されることがあります」
「寄附金、思ったより守備範囲が広いですね」
「税務上の寄附金は、善意の募金箱だけに座っているわけではありません。商取引の中にも、こっそり座っています」
今回は、税務上の寄附金について整理します。
結論からいうと、税務上の寄附金は、世間一般の『善意の寄付』よりかなり広い概念です。
金銭を寄付した場合だけでなく、相手に対価なく経済的利益を移転した場合にも、寄附金とされることがあります。
実務で怖いのは、会社側が「これは販売促進費です」「協力金です」「支援金です」「取引維持のためです」と考えていても、税務上は「それは対価のない利益供与ですね」と見られることがある点です。
つまり、勘定科目名だけでは決まりません。
寄附金かどうかは、名目ではなく実態で判断されます。
1 税務上の寄附金とは何か
ミカが言った。
「先生、寄附金の定義を簡単に言うと、どうなりますか」
教授が答えた。
「法人税の世界では、寄附金は、金銭、物品その他の経済的利益を贈与または無償で供与した場合の金額や価額をいいます」
「無償で経済的利益を渡すことですね」
「はい。ここで大切なのは、民法上の贈与契約だけに限られないということです」
裁判所も、法人税法上の寄附金について、単なる民法上の贈与に限らず、経済的に見て贈与と同視できる金銭その他の資産の譲渡または経済的利益の供与と捉えています。
したがって、次のような取引も寄附金になる可能性があります。
時価より高く資産を買う。
時価より安く資産を売る。
合理的根拠のない協力金を払う。
見返りのない支援金を払う。
関連会社の債務を肩代わりする。
回収可能性があるのに債権放棄をする。
ミカが言った。
「つまり、寄附金は“寄付します”と書いてある支出だけではないのですね」
「そのとおりです」
「むしろ、“販売促進費です”“協力金です”“支援金です”と書いてあっても、実態によっては寄附金になる」
「はい。税務署は、ラベルより中身を見ます」
「お弁当の名前ではなく、ふたを開けて中身を見るのですね」
「税務調査は、かなり丁寧にふたを開けます」
実務上は、次のように考えると分かりやすいです。
相手に経済的利益を与えた。
その見返りが客観的に説明できない。
通常の商取引として合理的な理由も示しにくい。
この場合、寄附金認定の危険が高くなります。
ここで大切なのは、「会社のためだった」「将来の取引維持のためだった」という主観だけでは足りないことです。
税務では、契約書、請求書、算定基準、相手方の役務提供、業界慣行、稟議書、交渉経緯など、客観資料で説明できるかが問われます。
2 寄附金は全額経費になるとは限らない
ミカが言った。
「寄附金でも、会社の支出なら経費になるのではないですか」
教授は首を横に振った。
「そこが法人税の寄附金の怖いところです」
法人が寄附金を支出した場合、会計上は費用処理できます。
しかし、法人税上はそのまま全額損金になるわけではありません。
法人税法37条は、一定の損金算入限度額を超える寄附金について、損金不算入とする仕組みを採っています。
つまり、会社が費用として処理していても、法人税の計算では、その一部または全部が損金にならないことがあります。
ミカが言った。
「会計では費用、税務では一部アウト、ということですね」
「そうです」
「帳簿上は出て行ったお金なのに、税務上は経費として認められない」
「はい。会社のお金は減っていますが、税金計算上の所得は減らないことがあります」
「なかなか厳しいですね」
「寄附金は、税務上“気前よく払ったから全部経費”とはならないのです」
寄附金には種類があります。
一般寄附金。
国や地方公共団体に対する寄附金。
指定寄附金。
特定公益増進法人に対する寄附金。
認定NPO法人等に対する寄附金。
種類によって、損金算入の扱いや限度額が変わります。
特定公益増進法人に対する寄附金などは、一般寄附金とは別枠の損金算入限度額が設けられることがあります。
ただし、適用を受けるには、申告書の明細書や寄附先からの証明書類の保存が必要です。
寄附金は、支払えば自動的に税務上有利になるものではありません。
どこに、何の目的で、どの根拠で支払ったかを確認する必要があります。
3 交際費・広告宣伝費・販売促進費との境界
ミカが言った。
「先生、寄附金と似ている費用が多いですね」
教授がうなずく。
「はい。実務で難しいのは、寄附金そのものより、隣の費用との境界です」
寄附金と混同しやすいものに、交際費、広告宣伝費、販売促進費、売上割戻し、協賛金、支援金などがあります。
たとえば、取引先を接待したり贈答したりする支出であれば、交際費等の問題になります。
会社名や商品名を広く周知するための支出で、広告効果が明確なら、広告宣伝費として説明できる場合があります。
売上高や仕入高に応じて一定基準で支払う販売奨励金や売上割戻しであれば、販売促進費や売上割戻しとして処理できる余地があります。
しかし、問題はここからです。
算定基準がない。
契約根拠がない。
相手方が具体的な役務を提供していない。
相手方も支払の意味を明確に認識していない。
反対給付が不明確。
このような場合は、名目が「販売促進費」「協力金」「支援金」「差額補填」であっても、寄附金と見られる危険があります。
ミカが言った。
「つまり、“名前”ではなく、“何の対価か”が大事なのですね」
「そのとおりです」
「広告宣伝費なら、広告されていることが必要」
「はい」
「販売促進費なら、販売促進の基準や効果が必要」
「はい」
「交際費なら、接待や贈答の相手や目的が必要」
「そのとおりです」
社長が言いそうなセリフを、ミカがまねた。
「先生、これは将来の関係づくりのためです」
教授は即答した。
「その一言だけでは弱いです」
「では、“大切な関係づくり”なら」
「少し言葉が立派になっただけです」
「“戦略的パートナーシップ構築費”なら」
「税務署は横文字にそこまで感動しません」
寄附金と他の費用を分ける最大のポイントは、客観的な対価関係があるかどうかです。
具体的な役務提供があるのか。
広告掲載があるのか。
販売数量や売上高に応じた基準があるのか。
契約書や覚書に支払根拠があるのか。
金額の算定方法を説明できるのか。
ここを説明できなければ、寄附金認定の危険が高まります。
4 裁判例その1――時価より高く買うと差額が寄附金になることがある
ミカが言った。
「先生、寄附金というと、やはりお金を渡すイメージがあります」
教授が答えた。
「ところが、そうとは限りません。時価より高く資産を買う場合にも、寄附金が問題になります」
典型例が、時価より高い価額で不動産などを買い取るケースです。
東京地裁令和元年10月18日判決では、不動産業者が時価を大きく上回る価格で土地を購入し、その購入価額全額を売上原価として損金算入した事案が問題になりました。
報道や解説によれば、土地の時価は約7,000万円台であったのに、売買代金は約1億8,000万円とされ、その差額部分について、裁判所は売上原価ではなく寄附金の額に該当すると判断しました。
この事案のポイントは明確です。
高く買ったからといって、その高い購入価額が当然に売上原価や取得価額として認められるわけではありません。
通常の経済取引として合理的に説明できる価格なら問題は小さいでしょう。
しかし、時価を大きく超える部分について合理的な理由がなく、実質的に相手方へ経済的利益を与えたと見られる場合、その差額は寄附金となる可能性があります。
ミカが言った。
「つまり、買う側なのに寄附金になるのですね」
「はい。高く買うことで、相手に利益を移転しているからです」
「お金を寄付したのではなく、高値で買う形で利益を渡した」
「そのとおりです」
「寄附金、変装がうまいですね」
「高額購入というスーツを着て現れることがあります」
実務上、関連会社、取引先、代表者関係者から、不動産、在庫、車両、株式などを買う場合には注意が必要です。
「いくらで買ったか」だけでは足りません。
その価格を時価として説明できるかが重要です。
鑑定評価。
相見積り。
第三者との取引事例。
収益還元法による資料。
市場価格。
社内稟議。
価格交渉の記録。
これらがなければ、時価超過部分が寄附金と見られる可能性があります。
5 裁判例その2――時価より安く売っても寄附金になることがある
ミカが言った。
「高く買うと寄附金になるなら、安く売る場合も危ないのですか」
教授が答えた。
「もちろんです。安く売ることは、相手に利益を与えることになります」
国税庁の税務訴訟資料に掲載された船舶譲渡の事件では、船舶を適正価額より低い価額で譲渡したことが問題になりました。
この事件では、譲受法人側には、適正価額と取引価格との差額について受贈益が生じるとされました。
一方、譲渡法人側では、その差額が寄附金として問題になりました。
裁判所は、法人税法37条の寄附金について、名義を問わず、金銭その他の資産または経済的利益の贈与・無償供与をいうと整理しています。
そして、差額相当額の経済的利益を対価なく移転させることについて、通常の経済取引として是認できる合理的理由が存在したとは認められないと判断しました。
時価より安く売ると、売った側では寄附金、買った側では受贈益が問題になることがあります。
ミカが言った。
「安く売った側にも、安く買った側にも課税関係が出るのですね」
「はい」
「売主は寄附金」
「はい」
「買主は受贈益」
「そのとおりです」
「安売りのつもりが、税務上は両側から見られる」
「まさにそこです」
社長なら、こう言うかもしれません。
「先生、相手が困っていたので安く売りました」
教授はこう答えるでしょう。
「その事情が通常の経済取引として合理的に説明できるかが問題です」
「関連会社を助けるためです」
「それなら、なおさら根拠資料が必要です」
「昔からの付き合いです」
「昔話だけでは、時価との差額は埋まりません」
関連会社間、同族関係者間、グループ会社間では、低額譲渡が特に問題になりやすいです。
税務上は、当事者が合意していても、時価との差額に経済的利益の移転があるかを見ます。
安く売る場合も、高く買う場合も、時価との差額を合理的に説明できなければ寄附金認定のリスクがあります。
6 裁判例から見える寄附金判断の本質
ミカが言った。
「先生、裁判例を見ると、裁判所はかなり実態を見ていますね」
教授がうなずく。
「はい。単に勘定科目名を見るのではなく、経済的利益が対価なく移転しているかを見ています」
裁判例から見える寄附金判断の本質は、次の二つです。
第一に、対価なく経済的利益が移転しているか。
第二に、その行為について、通常の経済取引として是認できる合理的理由があるか。
この二つを説明できなければ、寄附金とされる可能性が高くなります。
ミカが言った。
「つまり、会社が“必要だった”と言うだけでは足りないのですね」
「はい」
「誰に何を渡したのか」
「はい」
「相手は何をしてくれたのか」
「はい」
「なぜその金額なのか」
「はい」
「契約や資料で説明できるのか」
「そこが重要です」
寄附金認定を避けるには、支出の目的だけでなく、対価関係と金額算定の合理性を客観資料で示す必要があります。
ここでいう客観資料とは、契約書、覚書、稟議書、請求書、領収書、価格算定資料、鑑定評価、相見積り、広告掲載資料、販売実績、議事録、取引経緯の記録などです。
口頭説明だけでは弱いです。
特に「昔からこうしている」「業界では普通」「相手との関係維持のため」という説明は、資料で裏付けられなければ危険です。
「先生、税務では“なんとなく”が一番弱いのですね」
「はい。“なんとなく払いました”は、寄附金への近道です」
「“社長の勘です”は」
「かなり危険です」
「“長年の信頼関係です”は」
「美しい言葉ですが、税務上は契約書の方が強いです」
7 消費税にも影響する
ミカが言った。
「先生、寄附金になると法人税だけの問題ですか」
教授が答えた。
「いいえ。消費税にも影響することがあります」
寄附金は、原則として何らかの資産の譲渡、貸付け、役務提供の対価ではありません。
つまり、対価性がない支出です。
そのため、寄附金と認定されると、消費税の課税仕入れに係る支払対価に該当しない可能性があります。
ミカが言った。
「つまり、寄附金になると仕入税額控除もできないことがあるのですね」
「はい」
「法人税では損金算入制限、消費税では仕入税額控除不可」
「そうです」
「寄附金は、法人税と消費税の二段構えで効いてくることがある」
「その理解でよいです」
寄附金認定の怖さは、法人税の損金不算入だけではなく、消費税の仕入税額控除にも波及し得る点にあります。
たとえば、相手から広告掲載や役務提供を受けているのであれば、その対価として消費税の課税仕入れになる余地があります。
しかし、相手が具体的な役務を提供していない場合、単なる支援金や協力金は、課税仕入れとは言いにくくなります。
このため、実務では法人税だけでなく、消費税の対価性もセットで確認する必要があります。
8 実務で危ない支出
実務で寄附金認定されやすい支出には、いくつかの典型があります。
取引先への根拠不明な協力金。
関連会社への資金援助。
赤字子会社への損失補填。
基準のない販売奨励金。
時価より高い資産購入。
時価より安い資産譲渡。
合理性の薄い債権放棄。
役員関係者への有利な取引。
地域団体や任意団体への支援金。
広告内容が不明確なスポンサー料。
相手方に具体的義務がない協賛金。
ミカが言った。
「これらは全部寄附金になるのですか」
教授が答えた。
「いいえ。全部が寄附金になるわけではありません」
「では、何が分かれ目なのですか」
「何の対価か、なぜその金額か、通常の商取引として合理的かを説明できるかです」
「説明できれば別費目になる余地がある」
「はい」
「説明できなければ寄附金に近づく」
「そのとおりです」
危ないのは、支出そのものではなく、支出の理由と金額を客観的に説明できないことです。
たとえば、スポンサー料でも、広告掲載、看板掲示、ウェブサイト掲載、イベントでの社名表示など、具体的な広告効果があれば広告宣伝費として説明できる可能性があります。
一方、名前だけの協賛で、広告の実態がなく、相手方の役務もない場合は、寄附金に近づきます。
販売奨励金でも、売上高、販売数量、契約条件に基づいて計算されていれば、販売促進費として説明しやすいです。
一方、相手の要請で何となく支払っているだけなら、寄附金認定の危険があります。
9 実務上のチェックポイント
ミカが言った。
「先生、実務ではどの順番で確認すればよいですか」
教授が答えた。
「私は、次の順番で見るのがよいと思います」
まず、支出の相手方を確認します。
国、地方公共団体、公益法人、認定NPO、取引先、関連会社、役員関係者、地域団体、政治団体、任意団体など、相手方によって税務上の扱いが変わります。
次に、反対給付があるかを確認します。
広告掲載、役務提供、商品購入、紹介、販売促進、情報提供、場所の使用、共同事業など、具体的な見返りがあるかを見ます。
次に、金額の算定基準を確認します。
売上高の何%、販売数量1個当たりいくら、広告料金表、契約単価、社内規程、見積書、鑑定評価などがあるかを確認します。
次に、契約や証憑を確認します。
契約書、覚書、請求書、領収書、寄附金受領証明書、稟議書、取締役会議事録、支払申請書などがあるかを見ます。
最後に、消費税の対価性を確認します。
相手から課税資産の譲渡や役務提供を受けているか。
単なる支援金や無償供与ではないか。
仕入税額控除の対象になる支払か。
ここを確認します。
寄附金かどうかを判断するには、相手方、反対給付、金額算定、契約根拠、消費税の対価性を順番に確認することが重要です。
社長が言った。
「先生、つまり“払ったら終わり”ではなく、“説明できて初めて終わり”なのですね」
教授がうなずく。
「そのとおりです」
「税務では、支払日より説明日が大事」
「かなり名言に近いですね」
「では、額に入れて飾ります」
「飾る前に、稟議書に残してください」
10 まとめ――寄附金は善意より説明責任が重い
ミカが最後にまとめた。
「税務上の寄附金は、現金の寄付だけではなく、対価のない経済的利益の移転を広く含むのですね」
教授がうなずいた。
「はい」
「時価より高く買う」
「はい」
「時価より安く売る」
「はい」
「根拠の薄い協力金を払う」
「はい」
「債権放棄をする」
「はい」
「これらも、場合によっては寄附金になる」
「そのとおりです」
寄附金の本質は、対価のない経済的利益の移転です。
税務上は、現金を寄付した場合だけでなく、低額譲渡、高額譲受け、根拠の薄い支援金、債権放棄、関連会社支援なども寄附金になり得ます。
裁判例を見ると、裁判所は単に「会社のためだった」という説明だけでは足りないと考えています。
重視されるのは、客観的な対価関係、契約上の根拠、金額算定の合理性、相手方の具体的な役務提供、通常の経済取引としての説明可能性です。
寄附金かどうかは、勘定科目名では決まりません。
領収書の名目でも決まりません。
会社の主観的な必要性だけでも決まりません。
客観的に見て、対価のある支出か、無償の利益供与かで決まります。
社長が言った。
「先生、寄附金は善意の支出というより、説明責任の重い支出なのですね」
教授は答えた。
「まさにそのとおりです」
「払う前に、何の対価かを確認する」
「はい」
「なぜその金額かを残す」
「はい」
「契約や資料で説明できるようにする」
「それが実務です」
ミカが笑った。
「税務上の寄附金は、気持ちより証拠ですね」
教授も笑った。
「善意は大切です。しかし、税務調査では、善意に領収書を添える必要があります」
寄附金は、会社の社会貢献や取引関係の中で発生する身近な支出です。
しかし、税務上は、法人税の損金不算入、消費税の仕入税額控除、受贈益課税、交際費課税、役員給与認定などに波及する可能性があります。
だからこそ、寄附金は軽く扱ってはいけません。
寄附金は「善意の支出」ではなく、「税務上もっとも説明責任の重い支出」の一つです。
支払う前に、何の対価か。
誰に支払うのか。
なぜその金額なのか。
契約や資料で説明できるのか。
消費税の対価性はあるのか。
ここまで確認しておくことが、寄附金認定を避けるための最も現実的な対策です。
