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⚖️ 税務実務の読み解きノート🔯子ども名義の車は贈与か


――名義変更課税の落とし穴

ミカ「先生、父が全額お金を出して、子ども名義で車を買ったら、贈与になりますよね」
教授「普通は、そう疑われます」
ミカ「やはり」
教授「しかし、名義だけで贈与と決めるのは早いです」
ミカ「子ども名義なのにですか」
教授「はい。税務では、車検証の名前だけでなく、車の“人生”を見ます」
ミカ「車にも履歴書が必要なのですね」
教授「しかも、燃費より重要なのは、資金・管理・使用・売却代金の流れです」

1 事件の概要

今回取り上げるのは、平成27年9月1日裁決です。
父が資金を全額出して、子である請求人名義で車両を購入しました。
原処分庁は、子名義で登録された以上、これは父から子への贈与であるとして、平成20年分の贈与税の決定処分と無申告加算税の賦課決定処分を行いました。
これに対し、審判所は、贈与の事実はないとして、贈与税の決定処分等を全部取り消しました。

ミカ「父がお金を出して、子ども名義で車を買った。見た目はかなり贈与っぽいですね」
教授「そうです。税務署が反応するのも無理はありません」
ミカ「でも、結果は納税者側の勝ち」
教授「はい。理由は、名義を使った事情と、その後の実質的な支配関係にありました」

2 原告側、つまり請求人の主張

正式には訴訟ではなく審査請求なので、「原告」ではなく請求人です。
請求人側の主張は、要するにこうです。

父は、購入特典を利用するために、子である請求人の名義を使っただけである。
父が車両の取得資金を全額出している。
車両の維持管理費も父が負担している。
売却時の代金も父が受け取り、父が使っている。
したがって、父から子への贈与はない。

ミカ「つまり、“名義は子ども。でも中身は父の車です”という主張ですね」
教授「そのとおりです」
ミカ「購入特典のために子どもの名義を使った」
教授「はい。税務上、褒められた処理とは言いませんが、それだけで贈与と断定できるかは別問題です」
ミカ「名義借りと贈与は違う」
教授「まさに今回の核心です」

3 被告側、つまり原処分庁の主張

こちらも正式には「被告」ではなく、原処分庁です。
原処分庁は、次のように主張しました。

父が子名義で新たに購入した車両は、相続税法基本通達9-9により、原則として贈与として取り扱うべきである。
また、名義を子にしたことが過誤や軽率なものだったとしても、それを確認できるだけの証拠はない。
したがって、贈与税を課すべきである、という主張です。

ミカ「税務署側は、“名義が子どもなら、原則として子どもがもらったのでしょう”と見たのですね」
教授「はい」
ミカ「たしかに、車検証には子どもの名前がある」
教授「そうです。ただし、車検証は入口です。出口ではありません」
ミカ「税務署は入口で課税した」
教授「審判所は奥の部屋まで見に行きました」

4 審判所の判断

審判所は、原処分庁の判断を認めませんでした。
相続税法基本通達9-9は、取得資金を出した人以外の名義に財産が変更された場合、原則として贈与として扱う考え方です。
しかし、審判所は、反証があれば、贈与として取り扱わない場合があるとしました。

本件では、父が購入特典を利用するために請求人名義を使ったことが認められました。
さらに、次の事情が重視されました。

父には、本件車両を子に贈与する動機がなかったこと。
請求人への贈与の事実を疑わせる事情があったこと。
父が取得資金を出していたこと。
父が維持管理費をすべて負担していたこと。
売却代金を父が受け取り、父が費消していたこと。

これらを総合し、審判所は、車両の贈与がなかったことについて反証がされていると判断しました。
その結果、請求人は父から車両の贈与を受けたとは認められず、贈与税の決定処分等は全部取消しとなりました。

ミカ「先生、つまり“名義は子ども”だけでは足りなかったのですね」
教授「はい」
ミカ「お金を出したのは父」
教授「重要です」
ミカ「維持費を払ったのも父」
教授「重要です」
ミカ「売却代金を受け取ったのも父」
教授「かなり重要です」
ミカ「車は子ども名義でも、財布とハンドルは父だった」
教授「非常に良いまとめです」

5 税理士の意見

税理士として見ると、この裁決はかなり実務的です。
車に限らず、家族名義で財産を取得することはあります。
車、預金、株式、不動産、保険、証券口座など、名義と実質がズレる場面は少なくありません。

ただし、今回の裁決を見て、
「子ども名義でも贈与税はかからない」
と考えるのは危険です。

今回、贈与が否定されたのは、父が単に資金を出しただけでなく、車両の実質的な所有者として維持管理し、売却代金も取得していたからです。
つまり、名義だけ子に移っていても、経済的利益が子に移っていなかったと見られたわけです。

ミカ「先生、では子ども名義で車を買うときは、何を見ればよいですか」
教授「まず、次の点です」

・購入資金は誰が出したか
・名義を子にした理由は何か
・実際に誰が使っていたか
・自動車税、保険料、車検代、修理代は誰が払ったか
・駐車場代は誰が払ったか
・売却時の代金は誰が受け取ったか
・子が自由に処分できる状態だったか
・贈与契約書や贈与税申告があるか

ミカ「車検証より、支払いと管理の流れが大事ですね」
教授「はい。税務では、名義は表札。実質は生活実態です」
ミカ「車の所有者判断も、名義より家計簿」
教授「そのとおりです」

6 実例で考える

実例1 贈与と見られやすいケース

父が500万円を出して、大学生の子ども名義で車を購入した。
子どもが日常的に使っている。
保険料、自動車税、車検代は父が払っている。
しかし、車は子どもの通学や私用に使われ、父はほとんど使わない。
売却時の代金も子どもが受け取る予定。

この場合、子どもが車の経済的利益を受けていると見られやすく、贈与税の問題が出る可能性があります。

ミカ「これは名義も実態も子どもに近いですね」
教授「はい。父が財布係になっているだけに見えます」

実例2 贈与ではないと説明しやすいケース

父が購入特典を使うために、子ども名義で車を登録した。
ただし、実際に使っているのは父。
自動車税、保険料、車検代、修理代、駐車場代も父が負担。
売却時の代金も父が受け取り、父の口座に入金された。
子どもはその車を自由に使ったり売ったりできない。

この場合、今回の裁決に近く、子どもへの贈与ではなく、名義を借りただけと説明しやすくなります。

ミカ「車検証は子ども名義。でも、実態は父の車ですね」
教授「はい。税務では、車の鍵だけでなく、財布の鍵も見ます」

実例3 途中で贈与になる可能性があるケース

最初は父が自分で使うために、子ども名義で車を購入した。
数年後、子どもがその車を自由に使うようになった。
維持費も父が負担し続けている。
売却する場合の代金も子どもが受け取ることになった。

この場合、購入時は贈与でないとしても、途中で実質的に子どもへ経済的利益が移ったと見られる可能性があります。

ミカ「最初は名義借りでも、途中から本当にあげた形になることがあるのですね」
教授「はい。車にも“贈与に変わる瞬間”があります」
ミカ「名義変更より怖い、実質変更ですね」
教授「いいですね」

7 実務上のまとめ

今回の裁決は、子名義で車を購入したからといって、直ちに贈与税が課されるわけではないことを示した事例です。
原処分庁は、相続税法基本通達9-9に基づき、子名義の車両は父から子への贈与であると主張しました。
しかし、審判所は、父が購入特典利用のために子の名義を使っただけであり、取得資金、維持管理費、売却代金の流れなどを総合すると、贈与の不存在について反証があると判断しました。

ミカ「今日の結論は、子ども名義の車でも、名義だけで贈与とは決まらない、ですね」
教授「はい」
ミカ「資金を出した人」
教授「重要」
ミカ「維持費を払った人」
教授「重要」
ミカ「売却代金を受け取った人」
教授「非常に重要」
ミカ「子どもが自由に使えたか」
教授「そこも大事です」

教授は最後に言った。
「車検証の名義は大事です。しかし、税務では、車の名義より、お金と支配のハンドルを誰が握っていたかを見ます」
ミカが笑った。
「名義は子どもでも、税務署は運転席ではなく財布席を見るのですね」

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