⚖️ 税務実務の読み解きノート社長が会社に無利息で貸すと、なぜ税務上問題になるのか
――同族会社への無利息貸付けと所得税法157条
ミカ「先生、社長が自分の会社にお金を貸す場合、無利息でもいいのですか」
教授「中小企業ではよくあります。資金繰りが苦しいときに、社長が会社へお金を入れる。これは実務では珍しくありません」
ミカ「では、問題ないのですね」
教授「そこが税務の落とし穴です。少額・短期・資金繰り救済ならまだ説明しやすい。しかし、多額・長期・無利息・無担保・無期限となると、話が変わります」
ミカ「社長の善意が、税務署には利息の取り逃しに見えるのですね」
教授「はい。税務署は、人情劇を見る前に、まず金銭消費貸借契約を読みます」
1 事件の概要
今回取り上げるのは、令和7年3月7日裁決です。
問題になったのは、個人である請求人が、自己の同族会社に対して行った無利息貸付けです。
争点は、この無利息貸付けが、所得税法157条1項の「所得税の負担を不当に減少させる結果となるもの」に該当するか、そして、仮に利息を認定するならどの利率で計算するかでした。(KFS)
ミカ「つまり、税務署は“本来なら利息を取れたはずだ”と考えたのですね」
教授「そのとおりです。実際、原処分庁は、請求人が受け取るべきだった利息相当額を雑所得の総収入金額に算入すべきだとして更正処分をしました。(KFS)」
ミカ「利息をもらっていないのに、もらったことにされるのですか」
教授「税務上は、そういう場面があります。これが同族会社の行為計算否認です」
2 請求人側の主張
ミカ「社長側は、どう反論したのですか」
教授「主張は、かなり実務感があります」
請求人側は、次のように主張しました。
同族会社には借入金の返済資力がなく、倒産や信用失墜を避けるため、緊急かつ暫定的に貸し付けた。
役員が同族会社へ無利息で貸すことは一般的である。
自己資金を使って貸したものであり、会社は債務超過で、多額の収入も見込めなかった。
したがって、無利息にしたことは不自然でも不合理でもない。
このような反論です。(KFS)
ミカ「かなり分かる気がします。社長としては、会社を助けただけですよね」
教授「はい。社長の気持ちはそうです」
ミカ「なのに税務署は利息を取れと言う」
教授「税務署はこう見ます。本当に利息を取れないほど会社が危なかったのか。第三者なら同じ条件で貸すのか。そこを見せてください、と」
ミカ「善意にも証拠が必要なのですね」
教授「税務では、善意も契約書と返済計画を持って出廷します」
3 原処分庁側の主張
原処分庁側は、次のように考えました。
本件貸付けは、無利息・無担保・返済期限の定めなしという条件でした。
これは同族会社にとって非常に有利な条件であり、通常の独立第三者間の取引とは大きく異なる。
また、無利息にする合理的な事情も認められない。
したがって、本来受け取れたはずの利息相当額を受け取らないことで、請求人の所得税負担が不当に減少している、という主張です。(KFS)
ミカ「税務署側は、“親会社愛”ではなく、“第三者ならどうするか”で見たのですね」
教授「はい。税務では、同族会社との取引でも、赤の他人ならその条件で取引するかが重要になります」
ミカ「家族価格ならぬ、同族価格は危ない」
教授「まさに。税務署は“身内割引”を見ると、電卓を取り出します」
4 審判所の判断
審判所は、まず所得税法157条1項について、経済的・実質的に不自然、不合理なもの、つまり経済的合理性を欠き、所得税負担を減少させるものが対象になると整理しました。
そして、同族会社への無利息貸付けが経済的合理性を欠くかどうかは、貸付けの目的、金額、期間、融資条件、無利息にした理由などを総合して判断するとしています。(KFS)
ミカ「一律にダメではなく、事情を総合判断するのですね」
教授「そのとおりです。無利息だから即アウトではありません。ただし、本件では条件がかなり強烈でした」
本件貸付けは、23億4,459万円という多額の貸付けで、しかも無利息・無期限・無担保でした。審判所は、この条件は独立した第三者間で通常行われる取引とは大きく異なると判断しました。(KFS)
また、同族会社には配当収入が見込まれ、実際に配当金を受けており、その後は資産超過に転じていました。審判所は、財務状況を踏まえると、無利息にしなければ倒産する危険があったとはいえず、無利息貸付けに合理的な理由は見出せないと判断しました。(KFS)
ミカ「社長側は“会社が危ないから無利息にした”と言ったけれど、審判所は“本当にそこまで危なかったのですか”と見たのですね」
教授「はい。しかも会社には配当収入が見込まれていました」
ミカ「会社が“瀕死です”と言いながら、配当という栄養ドリンクを飲んでいた」
教授「かなりウイットがありますが、方向性は合っています」
5 利率はどう計算されたのか
ミカ「利息を認定するとして、いくらの利率で計算するのですか」
教授「ここも争点です」
原処分庁は、同族会社が実際に金融機関から借りた別の融資契約を参考にして、利息相当額を計算しました。
審判所も、同族会社が実際に金融機関から借り入れた際の金利を基礎として、個人側の雑所得を計算することには合理性があると判断しています。(KFS)
さらに、本件貸付けの条件は、金額や期間の点で一定の金融機関融資と類似性が高く、担保状況や会社の信用力を考えると、その金融機関融資の利率を参照することには合理性があるとされました。(KFS)
ミカ「つまり、“もし銀行から借りたら、これくらい利息がかかったでしょう”という見方ですね」
教授「そうです」
ミカ「社長銀行も、税務上は金利表を持たされる」
教授「よい表現です。社長銀行が無利息キャンペーンをすると、税務署が終了日を聞きに来ます」
6 裁決の結論
結論として、審判所は、無利息貸付けは経済合理性を欠き、所得税負担を不当に減少させる結果となると判断しました。
令和3年分・令和4年分の所得税等の更正処分は適法とされ、過少申告加算税の賦課決定処分も適法とされています。一方で、平成30年分から令和2年分については、別論点である先物取引に係る損失の繰越額の扱いにより、原処分の一部取消しとなっています。(KFS)
ミカ「つまり、無利息貸付けの本丸では、請求人側は負けたのですね」
教授「はい。利息相当額の認定という点では、原処分庁側の判断が基本的に認められました」
ミカ「ただし、別の計算ミスのような部分で一部取消し」
教授「その理解でよいです。税務裁決は、ときどき“本丸は落ちたが、物置は守った”という結果になります」
7 仮の実例で考える
実例1 資金繰り救済型
社長が会社に300万円を3か月だけ無利息で貸した。
会社は売掛金の入金遅れで一時的に資金繰りが苦しい。
契約書があり、返済期日も明確。
実際に3か月後に返済された。
この場合、ただちに所得税回避とまでは言いにくいでしょう。
ミカ「これは“社長の一時立替え”に近いですね」
教授「はい。金額、期間、理由、返済実績がそろっていれば、説明しやすいです」
実例2 オーナー資金固定型
社長が会社に2億円を無利息で貸した。
返済期限なし。
担保なし。
契約書も簡単。
会社には不動産収入や配当収入があり、利息を払う余力もある。
それでも何年も無利息のまま。
この場合、利息相当額が社長個人の雑所得として認定されるリスクが高まります。
ミカ「これは社長銀行の大型融資ですね」
教授「しかも金利ゼロ、担保ゼロ、期限ゼロ。税務署から見ると、ゼロが多すぎて逆に目立ちます」
実例3 赤字会社救済型でも注意
社長が会社に5,000万円を無利息で貸した。
会社は赤字だが、翌年から大口契約が決まり、返済可能性が高い。
銀行からの借入れも可能だった。
それでも社長貸付けだけを無利息にしている。
この場合も、**「本当に無利息にする必要があったのか」**を問われます。
教授「赤字だから何でも無利息でよい、とはなりません」
ミカ「赤字は免罪符ではなく、説明資料のスタート地点なのですね」
8 税理士としての意見
この裁決は、実務にかなりインパクトがあります。
従来、中小企業実務では、社長が会社へ無利息で貸すことはよくありました。
しかし、多額・長期・無利息・無担保・無期限のような条件が重なる場合は、今後かなり慎重に考えるべきです。
特に注意すべきなのは、次の点です。
貸付金額が多額か
貸付期間が長期か
返済期限が決まっているか
担保や保証はあるか
会社に利息を払う余力があるか
なぜ無利息にしたのかを説明できるか
同族会社以外の第三者でも同じ条件で貸すか
契約書、返済予定表、資金繰り表があるか
ミカ「先生、実務ではどう処理すればよいですか」
教授「まず、無利息にする理由を紙に残すことです。次に、金額が大きいなら、原則として利息を取る方向で検討すべきです」
ミカ「利率はどう決めますか」
教授「金融機関の借入金利、会社の信用力、担保の有無、返済期間などを見ます。少なくとも、“なんとなくゼロ”は危険です」
ミカ「ゼロ金利にも説明責任」
教授「はい。社長貸付けのゼロ金利政策には、税務上の国会答弁が必要です」
9 まとめ
今回の裁決は、同族会社への無利息貸付けについて、所得税法157条により利息相当額を認定できる場合があることを示した重要な事例です。
本件では、貸付金額が多額で、無利息・無期限・無担保という条件であり、同族会社の財務状況等を踏まえても、無利息にする合理的理由は認められませんでした。
そのため、本来受け取るべき利息相当額が、請求人個人の雑所得として認定されたのです。
ミカ「今日の結論は、社長が会社に無利息で貸しても、常に安全ではない、ですね」
教授「そのとおりです」
ミカ「金額が大きい」
教授「注意」
ミカ「期間が長い」
教授「注意」
ミカ「無担保、無期限」
教授「かなり注意」
ミカ「会社に利息を払う力がある」
教授「税務署が本気で見ます」
教授は最後に言った。
「社長の会社愛は尊い。しかし、税務ではその愛にも利率が問われることがあります」
ミカが笑った。
「無利息という優しさも、説明できなければ雑所得になるのですね」
