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⚖️ 税務実務の読み解きノート📒高く買っただけのつもりが、税法では寄附金だった話


――仕入金額が高すぎると寄附金になるのか

「先生、仕入金額が高すぎると、寄附金になることがあるのですか」
ミカが資料を見ながら尋ねた。
教授はうなずいた。
「あります。税法では、“高く買った”という形でも、相手に経済的利益を与えたと見られることがあります」
「寄附金というと、お金をあげるイメージですが」
「税務上の寄附金は、募金箱だけに住んでいるわけではありません。売買契約書の中にも潜んでいます」

1 事件の概要

問題になったのは、法人が土地を時価よりかなり高い金額で購入した事例です。
土地の時価は約7,284万円でした。
ところが、売買代金は約1億8,422万円でした。
差額は約1億1,000万円です。
会社は、この購入価額全額を売上原価として損金算入しました。
これに対し税務署は、時価を超える部分は土地の購入代金ではなく、相手方への経済的利益の供与、つまり寄附金だとして更正処分をしました。
「先生、会社としては土地を買っただけですよね」
「はい。ただ、税務署は“土地の値段”と“相手に余分に渡した利益”を分けて見たわけです」

2 原告の主張

原告は、不動産業を営む法人です。
原告の主張は、要するに次のとおりです。
これは土地の売買である。
実際に売買契約がある。
代金も決まっている。
だから、購入価額は売上原価として損金に算入できる。
また、相手方との債権債務関係があり、高く買ったことには経済的理由がある。
したがって、時価との差額を寄附金とするのはおかしい。
ミカが言った。
「原告としては、“高く買ったのには事情がある”ということですね」
教授が答えた。
「そうです。ただし、税務では、その事情が通常の経済取引として説明できるかが問われます」

3 被告の主張

被告は国です。
被告側は、次のように主張しました。
土地の時価は約7,284万円である。
売買代金は約1億8,422万円である。
時価を超える部分は、土地そのものの購入対価とはいえない。
その差額は、買主から売主に対価なく移転した経済的利益である。
したがって、その部分は売上原価ではなく、法人税法37条の寄附金に該当する。
「先生、国側は“土地代に見えるが、実は余分な利益供与だ”と見たのですね」
「そのとおりです」
「売買契約書を着た寄附金」
「なかなかよい表現です」

4 裁判所の判断

裁判所は、国側の主張を認めました。
結論は、納税者敗訴です。
裁判所は、時価より高く資産を購入した場合でも、時価との差額が買主から売主に供与された経済的利益と評価できる場合には、その差額は寄附金の額に該当すると判断しました。
ポイントは、売買契約そのものを否定したわけではないことです。
私法上は売買契約です。
しかし、法人税法上は、購入価額のうち時価を超える部分を、売上原価ではなく寄附金と評価したわけです。
「つまり、契約は売買。でも税務上は、差額部分だけ寄附金と見るのですね」
「はい。税法は、契約書のタイトルだけでなく、経済的な中身を見ます」

5 裁決事例との比較

一方で、仕入金額が高いように見えても、必ず寄附金になるわけではありません。
令和5年3月8日裁決では、親族関係のある仕入先との取引が問題になりました。
しかし、仕入単価は相場や歩留まりを基に計算され、営業担当者と相手方との交渉で決まっていました。
審判所は、その仕入金額が時価相当額より不相当に高額とはいえないとして、寄附金には該当しないと判断しました。
ミカが言った。
「つまり、高く見えるだけではダメなのですね」
教授が答えた。
「そのとおりです。不相当に高額で、しかも実質的に贈与や無償供与といえる部分が必要です」

6 税理士としての意見

税理士としては、この論点はかなり実務的です。
特に、関係会社、同族会社、親族会社、代表者関係者との取引では注意が必要です。
仕入金額が高いこと自体が直ちに悪いわけではありません。
しかし、時価を説明できない高値仕入れは危険です。
実務では、次の資料を残すべきです。
相見積り。
市場価格資料。
鑑定評価。
取引事例。
価格交渉の記録。
稟議書。
なぜその金額で買う必要があったかの説明。
特に、関係会社を助けるため、債務を整理するため、赤字会社を救済するため、という事情がある場合は要注意です。
それは事業上の事情かもしれません。
しかし、税務上は「相手への利益供与」と見られる可能性があります。
「先生、結局、いくらで買ったかより、なぜその価格なのかですね」
「そのとおりです」
「高値仕入れには、価格の履歴書が必要」
「名言です。しかも、その履歴書には証拠写真、つまり資料を添付してください」

7 まとめ

仕入金額が高すぎる場合、その時価超過部分が寄附金とされることがあります。
特に、時価との差額について通常の経済取引として合理的な理由を説明できない場合は危険です。
ただし、単に高いように見えるだけで、直ちに寄附金になるわけではありません。
相場、品質、歩留まり、数量、取引条件、交渉経緯などから価格を説明できれば、寄附金とはされない余地があります。
結論はシンプルです。
高く買うこと自体が問題ではありません。
問題は、なぜ高く買ったのかを説明できないことです。
教授は最後に言った。
「税務では、“高く買いました”より、“なぜその価格なのか”が大事です」
ミカがうなずいた。
「仕入価格にも、説明責任があるのですね」
「そのとおりです。高値仕入れは、領収書だけでは走れません。時価資料という車検証が必要です」

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