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⚖️ 税務実務の読み解きノート🔯外れ馬券まで必要経費になるのか


――最高裁平成27年3月10日・平成29年12月15日判決

結論:普通に競馬を楽しんで当たった払戻金は、原則として一時所得です。しかし、長期間・多数回・継続的に馬券を購入し、年間収支で利益を得ることを目的とした一体的な経済活動と認められる場合には、払戻金が雑所得となり、外れ馬券の購入費まで必要経費になることがあります。最高裁は平成27年と平成29年の二つの判決で、この考え方を示しました。

1 当たり馬券だけ課税して、外れ馬券は無視?

ミカ「先生、競馬で100万円当たりました。でも年間では200万円負けています。税金はかかりますか」
教授「その質問は、競馬ファンが聞きたくない税法問題の代表格ですね」
ミカ「年間では100万円の赤字ですよ」
教授「普通の馬券購入なら、税法は必ずしも年間収支で見てくれません」
ミカ「えっ。外れた馬券は?」
教授「通常の一時所得なら、原則として当たり馬券に直接対応する購入費だけが控除対象です」
ミカ「外れ馬券100枚は?」
教授「税務上も外れます」
ミカ「そんなところまで的中しなくていいのですが」
競馬の払戻金は一般には一時所得として扱われ、国税庁も現在、公営競技の払戻金について一時所得として確定申告が必要になる場合があると案内しています。通常の一時所得では、払戻金に対応する当たり券の投票額などを基に所得を計算します。
ところが、馬券の買い方が通常の競馬ファンとは全く違う人たちが現れました。
ミカ「どんな人ですか」
教授「馬を見るというより、データと回収率を見ていました」

2 最高裁平成27年3月10日判決――馬券購入が「経済活動」になった

平成27年の事件は、所得税法違反の刑事事件です。したがって「原告・被告」ではなく、被告人と検察官が登場します。税務上の最大の争点は、馬券の払戻金が一時所得なのか雑所得なのか、そして外れ馬券が必要経費になるのかでした。国税庁の税務大学校も、この最高裁判決を、馬券購入の態様や規模によっては払戻金が雑所得となることを示した重要判例として整理しています。
被告人は競馬予想ソフトを利用し、過去の競馬データを分析して約40の条件を設定し、条件に合う馬券を機械的・網羅的に大量購入していました。平成19年から21年の3年間だけでも、馬券購入額は約28億6951万円、払戻金は約30億979万円に及びました。
ミカ「馬券28億円ですか」
教授「はい」
ミカ「趣味の金額ではありませんね」
教授「週末の娯楽というより、データ処理を使った資産運用に近い規模です」
ミカ「競馬新聞に赤鉛筆、という世界ではない」
教授「パソコンが馬券を買い、本人は日曜日の夜に結果を確認する。税法もさすがに“これは普通の競馬と違うぞ”となりました」

3 検察側の主張

検察側は、馬券の払戻金は基本的に一時所得であり、所得計算上控除できるのは的中した馬券の購入費だけだと主張しました。つまり、外れ馬券は払戻金を直接生じさせていない以上、控除できないという考え方です。
ミカ「確かに、外れ馬券から払戻金は出ません」
教授「一枚ずつ見れば、そのとおりです」
ミカ「では検察側が正しいようにも見えます」
教授「そこで裁判所は、馬券を“一枚ずつ見るのか、一連の経済活動として見るのか”を考えました」

4 被告人側の考え方

被告人側からすると、一枚の当たりを狙っていたのではありません。大量の馬券を一定のルールで買い続け、個々のレースの勝敗ではなく、長期間の総収支で利益を出すことを狙っていました。実際、購入行為は機械的・網羅的・反復継続的であり、裁判所はこれを一連の経済活動として捉えました。
ミカ「つまり、当たり馬券だけを取り出すのは不自然」
教授「そういうことです」
ミカ「利益を得るには、外れ馬券もシステム全体の一部だった」
教授「はい。製造業でいえば、不良品が出たから原材料費を経費にしません、とは普通は言わないでしょう」

5 最高裁の判断――外れも含めて一つの経済活動

最高裁平成27年判決は、営利を目的とする継続的行為かどうかについて、期間、回数、頻度、購入態様、利益の規模、利益発生の期間などを総合考慮するとの考え方を示しました。そして、自動購入ソフトを利用し、長期間、多数回かつ頻繁に網羅的な馬券購入を続け、多額の利益を恒常的に得ていた本件では、払戻金は雑所得になるとしました。さらに、外れ馬券を含む一連の購入が一体の経済活動だったため、外れ馬券の購入費も必要経費となると判断されました。
ミカ「外れ馬券が復活しました」
教授「所得税法の世界で敗者復活戦です」
ミカ「競馬では外れでも、必要経費では当たり」
教授「今回の記事のタイトルになりそうですね」

6 最高裁平成29年12月15日判決――自動購入ソフトがなくても雑所得になる

ここで重要なのが、平成29年12月15日最高裁判決です。こちらは所得税更正処分等取消請求事件で、納税者と国が争った行政訴訟です。納税者は、払戻金は雑所得であり、外れ馬券も必要経費になるとして確定申告していました。ところが税務署は、一時所得であり、外れ馬券は控除できないとして更正処分等を行いました。
ミカ「平成27年事件と同じですか」
教授「似ていますが、大きな違いがあります」
ミカ「何ですか」
教授「この人は、平成27年事件のような完全な自動購入ソフト方式ではありませんでした」
納税者は自ら競走馬、騎手、コース、馬場状態、レース展開などを分析して購入パターンを作り、年間を通じてほぼ全レースで購入することを目標としていました。平成21年には中央競馬3453レースのうち2445レース、約70.8%で馬券を購入しています。6年間の年間購入額は約3億円から21億円で、毎年利益を出し、少ない年でも約1800万円、多い年には約2億円の利益を得ていました。
ミカ「手で選んでいても、すごい量ですね」
教授「はい。最高裁は、“ソフトを使ったかどうか”だけを条件にはしませんでした」

7 原告、つまり納税者側の主張

納税者側は、年間を通じて多数の馬券を継続購入し、偶然性の影響を小さくしながら、年間収支で利益を出すことを目的にしている以上、払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた雑所得だと主張しました。そして、その利益を得るためには外れ馬券の購入も不可避であるから、その購入費も必要経費に含めるべきだとしました。
ミカ「簡単にいえば、“年間全部で一つの商売のようなものです”ですね」
教授「そうです」
ミカ「当たりだけ売上、外れは自腹、では年間利益が変になります」
教授「所得計算は、本来その経済活動から得た純利益を見るものだ、という発想につながります」

8 被告、つまり国側の主張

国側は、馬券による所得は一時所得であり、外れ馬券の購入費は当たり馬券の払戻金と直接対応していないため控除できないと主張しました。最高裁判決でも、国側は原審が払戻金を雑所得とし外れ馬券を必要経費とした判断に法令違反があるとして争っています。
ミカ「国側としては、“大量に買ったからといって競馬が事業になるわけではないでしょう”という感覚ですか」
教授「そういう問題意識があります。競馬には偶然性がありますからね」
ミカ「100回コインを投げてもコイン投げはコイン投げ」
教授「しかし最高裁は、購入方法、回数、頻度、利益の実績などを総合して、経済活動として見る余地があるとしました」

9 最高裁平成29年判決の判断

最高裁は、この納税者について、6年間にわたり極めて多数の馬券を購入し、年間を通じた収支で利益が得られるよう工夫し、実際に毎年利益を出していたことなどから、馬券購入は営利を目的とする継続的行為に当たり、払戻金は雑所得であると判断しました。さらに、このような一連の購入によって利益を得るためには外れ馬券の購入が不可避だったとして、外れ馬券の購入代金も必要経費に当たるとしました。国の上告は棄却されました。
ミカ「平成27年事件で自動ソフト、平成29年事件で人間による購入」
教授「はい。これで重要なのは、自動購入ソフトそのものが魔法の鍵ではないと分かったことです」
ミカ「見るのは、一連の行為の実態」
教授「そのとおりです」

10 しかし、競馬を続ければ全部雑所得になるわけではない

ここは最も重要です。国税庁は、平成29年最高裁判決とは別に、長期間、多数回馬券を購入していたものの、購入態様や利益発生の状況から経済活動としての実態が認められず、一時所得とされ、外れ馬券を必要経費にできなかった裁判例も紹介しています。(国税庁)
ミカ「毎週競馬場へ通えば雑所得になりますか」
教授「なりません」
ミカ「10年間競馬をしていれば?」
教授「それだけでも足りません」
ミカ「年間1000万円買えば?」
教授「金額だけでも決まりません」
ミカ「では何が必要ですか」
教授「期間、回数、頻度、購入方法、年間収支、利益の継続性、購入行為全体の経済的一体性です」
ミカ「競馬歴ではなく、経済活動としての実態」
教授「そこが核心です」

11 実例で考える

実例1 普通の競馬ファン

会社員Aさんが日曜日に1万円の馬券を購入し、100万円の払戻金を得た。今年は他にも20万円分の外れ馬券を買っている。
この場合、通常は一時所得として考えます。100万円の払戻金に直接対応した当たり馬券の購入額は控除の対象になり得ますが、別のレースの外れ馬券20万円を当然に差し引くことはできません。国税庁も一般の公営競技の払戻金について、一時所得としての申告方法を案内しています。
ミカ「“今年トータルでは負けています”は通らない」
教授「普通の買い方なら、その可能性が高いです」

実例2 平成27年判決に近いケース

Bさんは独自の予想プログラムを開発。ほぼ全競馬場の大量のレースを対象に、一定の条件を満たす馬券を自動購入。年間数億円の馬券を買い、5年間継続して年間収支で利益を上げている。購入履歴も全て残っている。
この場合、**雑所得とされ、外れ馬券を含む購入費が必要経費となる可能性が高くなります。**平成27年最高裁判決が想定した経済活動に近いからです。

実例3 平成29年判決に近いケース

Cさんはソフトによる完全自動購入ではないが、毎週大量のデータを分析し、ほぼ全開催を対象に一定の購入ルールで馬券を買っている。6年間、年間数億円以上購入し、毎年利益を出している。
この場合も、**ソフトを使っていないという理由だけで雑所得性が否定されるわけではありません。**最高裁平成29年判決では、購入の期間・回数・頻度、年間利益の継続性などを総合して雑所得と認定しました。

実例4 毎週買っているだけのケース

Dさんは競馬好きで20年間、ほぼ毎週馬券を買っている。予想は新聞やテレビを見てその都度決め、買わないレースも多い。たまたま今年大穴が的中して3000万円の払戻金を得た。
ミカ「20年間続けていますよ」
教授「継続期間だけでは足りません」
ミカ「3000万円当たっています」
教授「利益額だけでも足りません」
このような場合には、通常の一時所得と判断される可能性があります。最高裁判例が認めた雑所得は、単なる頻繁な購入ではなく、一連の馬券購入全体が営利を目的とする継続的経済活動の実態を持っていたケースです。

12 税理士のミカタ

税理士として最も注意したいのは、「外れ馬券も経費になる」という結論だけを切り取らないことです。
この二つの最高裁判決は、「競馬をたくさんすれば外れ馬券が経費になる」と判断したものではありません。重要なのは、馬券購入行為全体に営利性・継続性・経済的一体性が認められるかどうかです。平成29年最高裁は、期間、回数、頻度、購入態様、利益の規模・期間などを総合考慮すると明示しています。
実務では次の資料を確認します。
・年間の購入回数
・対象レース数
・年間購入金額
・年間払戻金額
・年間収支
・複数年の利益発生状況
・購入ルール
・予想モデルやデータ分析方法
・自動購入の有無
・PAT等の購入履歴
・銀行口座の入出金記録
・利益を年間収支で得ようとしていたことを示す資料
ミカ「先生、去年だけたまたま1億円勝った人は?」
教授「それだけでは雑所得とは決まりません」
ミカ「10年間毎年5000万円利益を出している人は?」
教授「かなり話が変わってきます」
ミカ「税務署も馬の名前ではなく、購入履歴を見る」
教授「そのとおりです。税務調査では馬柱よりExcelが強いのです」

13 実務上もっと怖いのは記録がないこと

競馬の税務では、購入履歴の保存も重要です。最高裁平成27年事件では購入履歴が記録され、平成29年事件でも長期間の購入・払戻しの状況が具体的に認定されています。
ミカ「競馬場で現金で馬券を大量に買って、全部捨てました」
教授「税務実務としては、かなり困ります」
ミカ「年間収支では赤字だったと言えば?」
教授「証拠は?」
ミカ「私の記憶です」
教授「税務署のオッズでは、かなり人気薄です」
ネット投票であれば購入記録や入出金記録が残りやすいため、所得計算の裏付けになります。JRAもインターネット投票会員向けに購入内容等を確認できる投票照会サービスを提供しています。

14 現在の国税庁の取扱い

国税庁は平成29年最高裁判決等を受け、競馬の払戻金について、馬券購入の期間、回数、頻度、購入態様、利益の状況等から、営利を目的とする継続的行為と認められる場合には雑所得となり、外れ馬券の購入費が必要経費になる場合があることを明らかにしました。一方、そうした経済活動の実態が認められない場合には一時所得となり、外れ馬券は控除できません。これを受け、所得税基本通達の改正も行われています。
ミカ「つまり、“最高裁で外れ馬券が経費になった”だけ覚えると危険」
教授「非常に危険です」
ミカ「正しくは、“一定の特殊な購入態様なら”ですね」
教授「そうです。判例には条件があります。条件を外した瞬間、判例まで外れ馬券になります」

15 まとめ

最高裁平成27年3月10日判決と平成29年12月15日判決は、競馬の払戻金について、営利を目的とする継続的行為から生じた所得と認められる場合には雑所得となり、外れ馬券の購入費も必要経費になり得ることを示した重要判例です。平成27年事件では、自動購入ソフトによる機械的・網羅的な大量購入が問題となり、平成29年事件では、自動購入でなくても、6年間にわたる大規模かつ継続的な購入と毎年の利益実績などから雑所得性が認められました。
しかし、**一般の競馬ファンが時々購入する馬券まで同じ扱いになるわけではありません。**通常の払戻金は一時所得となる場合があり、その場合、別のレースの外れ馬券を当然に差し引くことはできません。
ミカ「今日の結論は、外れ馬券が経費になるかどうかは、馬券そのものではなく、買い方を見る」
教授「はい」
ミカ「娯楽として買ったのか」
教授「重要です」
ミカ「年間利益を狙った一体的な経済活動なのか」
教授「核心です」
ミカ「継続性、規模、頻度、利益実績、購入方法を総合判断」
教授「完璧です」
教授は最後に言った。
「競馬では当たりと外れを分けますが、税法では、場合によっては当たりも外れもまとめて一つの経済活動として見ます」
ミカが笑った。
「外れ馬券が必要経費として当たりになる。税法は競馬より予想が難しいですね」

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