仮面の罪(シン)~最強の鬼を降ろした俺は最強の陰陽師となる~


#創作大賞2024 #漫画原作部門

あらすじ

シンと呼ばれる呪いが具現化し、人間を襲う世界。
国家陰陽師は、シンとの闘いの日々を送り国民のヒーローとなっていた。主人公である源蓮太郎は、鬼狩りの一族源家の跡取り息子として父を超える陰陽師になることを夢見る。
親友であり、日本最強の陰陽師家――土御門家の次男、土御門怜と切磋琢磨する日々だった。だが、日本最古のシン、九尾によって蓮太郎に、最強の鬼――酒吞童子が卸されることになる。
多くの陰陽師の死を経て、酒呑童子は再度封印されることになる。

そして5年後――蓮太郎、16歳。高校二年生。
長い修行を経て鬼の力を扱えるようになった蓮太郎が東京に帰ってくる。
大好きな人たちが死んだ原因である九尾を殺すために。

各話URL
第一話 下記
第二話 https://note.com/kazuki121212/n/n33803ad4934b
第三話
 https://note.com/kazuki121212/n/n71eba27d8916


第一話

 圧倒的呪殺率100年連続一位、東京。
 燦燦と照り付ける真夏の太陽の下、千年続く陰陽師家の広大な庭の縁側に俺たちはいた。

 スマホを開き、わくわくしながら英雄の登場を待つ。
 もう何十回見たかわからない、それでも毎回この場面では心躍る。

『ご覧ください! 我らが十二神将! 土御門清峰さんが単独で霊度5を撃破です!』
「「かっけぇぇぇ!」」
 
 その画面の向こうでは、まるで鬼のような――シン――と呼ばれる呪いが具現化した存在が暴れていた。
 しかし、それを苦戦の末に祓ったスーツにベストの褐色肌のイケメン陰陽師――名を土御門清峰。

 俺たちの英雄にいちゃんだ。

 師匠であり、兄弟子であり、憧れ。
 土御門家次期当主、千年に一度の天才、抱かれたい陰陽師一位、人妻キラーetc。
 清峰兄ちゃんにはいろんな勲章がある。

「かっこよかったな!」
「さすが、兄さん!」

「ただいまー!」
「あ! 清峰兄ちゃんが帰ってきたぞ!」
「いこうぜ、蓮太郎!」

 すると声がしたので、俺たちは玄関へと走っていく。
 そこには先ほど画面で映っていた清峰兄ちゃんがいた。

「おかえり! 清峰兄ちゃん! さぁ修行修行!」
「修行するよ! 兄さん! 早く早く!」
「息つく暇もないな。よし……やるか!」

 するとにこっと笑って俺たちのわがままを聞いてくれる。
 今日もコテンパンにやられたが、俺たちはまだ小学生で、兄ちゃんはこの国最高の陰陽師、十二神将の一人なのだから、仕方ない。

「今日のはよかったぞ、蓮太郎。さすが鬼狩り一族――源家の跡取り息子だ。光太郎さんも嬉しいだろうな」
「いつか父さんも清峰兄ちゃんも超えて見せるぜ!」

 俺は源蓮太郎、ずっと昔からあるシン退治の名門陰陽師家――源家の一人息子だ。

「兄さん、俺は!」
「怜はもう言うことないだろう。その年で五行霊符を使いこなす小学生なんていないさ。末恐ろしいよ」
「えへへ」

 対してこいつは同い年で、土御門怜。
 清峰兄ちゃんの弟だ、土御門家は全員そうだが……まぁ天才だ。

「清峰兄ちゃん! かき氷食べたい! おごって!」
「俺もパフェ食べたい」

「じゃーん! そういうと思って用意してました!」
「あ、楓おばさん! さっすが!」

 すると清峰兄ちゃんのお嫁さん、楓おばさんがかき氷とパフェを持ってきてくれた。
 さすが兄ちゃんを射止めた人だ。めちゃくちゃ美人で、できる女だぜ。
 楓おばさんの後ろをテクテクと付いてくるのは、清峰兄ちゃんの2歳の娘。凪だ。

「べろべろばぁぁ!」
「きゃはは!」

 とりあえずいつものように俺は、変顔で笑わせておく。
 俺が凪を笑わせると、みんな笑顔になる。

 俺はここが大好きで、この時間が、大好きだった。 

「おーい、蓮太郎。帰るぞ」

 すると父さんの声がした。
 どうやら土御門家の本邸に来ていたようだ。
 この家広すぎて、気づかないんだよな。

「じゃあ、また遊んでやってくれ。さぁ帰るぞ」
「遊びじゃないってば! 修行! んじゃまた!」
「お疲れ様です。光太郎さん!」
「じゃあなー」

 帰り道、俺は父さんの車で家に帰る。

「ねぇ父さん。父さんと清峰兄ちゃんだったらどっちが強い?」
「そりゃ父さんだ。清峰は天才だからいつか抜かされるかもしらんが、父さんの方がまだまだ強いぞ! ははは!」
「じゃあ景義おじさんとは?」

 景義おじさんとは、土御門景義。
 陰陽庁長官であり、土御門家の現当主であり、怜と清峰兄ちゃんの父さんだ。
 めちゃくちゃ怖い。俺は苦手だ。

 するとサムズアップしながら俺に決め顔で言った。

「間違いなく俺だ。景義は否定するがな! タイマンなら父さんだ」
「(すげぇどや顔だ……)じゃあ父さんが世界最強ってこと?」
「そうだぞ、父さんが最強だ!」
 
 これが俺の父さん、俺の憧れだ。

「すみませんでした!」

 前言を撤回する。
 少し残念な父さんだ。

 家に帰るや否や、全力土下座。
 相手は母さんなので仕方ない、力関係は間違いなく母さんが上だ。
 何やらピンク色の名刺のようなものを叩きつけられて頭を下げている。
 『クラブ・エンジェル またきてね♥』 
 
「あ、おにぃおかえり」
「蓮華、しばらく夕飯はなさそうだぞ。あ、鈴鹿もいたんだ」
「蓮君、お邪魔してます」

 家に帰ると蓮華と鈴鹿がいた。
 蓮華は俺の妹で、鈴鹿は怜の妹だ。
 何の因果か、俺と怜が同級生であり親友であるのと一緒で、蓮華と鈴鹿も同級生で親友だ。
 まぁ源家と土御門家は千年も前から切っても切れない縁があるのだが。

「あ、おにぃ。鈴鹿を駅まで送ってあげて。ほら、鈴鹿。がんば」

 俺は鈴鹿を最寄り駅まで送ってあげることにした。

「ごめんね。送ってもらって」
「いいよ、ついでに修行して帰るから」
「ふふ、蓮君はすごいね」
「いつか清峰兄ちゃんも父さんも超えて最強の陰陽師になる。それが俺の夢だからな」

 それを聞いて優しく微笑み、応援してくれると言ってくれる鈴鹿。
 うちの妹と変わってほしいぐらいに良い子だ。

「ね、ねぇ……太陽学園盂蘭盆祭の盆踊りなんだけど」
「あぁ今週末の?」

 太陽学園盂蘭盆祭とは、俺たち陰陽師を志す子供が通う小中高一貫の国立学校――太陽学園に伝わる伝統行事だ。
 簡単にいえば、お盆をみんなで過ごしましょうねというまぁさすが陰陽師の学校という感じの伝統だ。

 さらに男女ペアで踊らないといけないというこれまた時代錯誤なイベントがある。

「蓮君……その……誰かと……踊るの?」
「男女ペアで踊れって前時代的だよな。めっちゃ誘われたけど返事はまだ」
「じゃあさ、じゃあさ! 私と……踊ってくれない?」

 俺は特にペアも決まってなかったので二つ返事でOKした。

「さて……父さんと母さんはまだやってるし、修行でもするか」
「あたしがつけてあげようじゃないか」
「…………やっぱりお風呂に入ろう!」
「逃げるんじゃないよ、蓮太郎」

 すると妖怪ババアに肩を掴まれた。
 今年80歳になる俺の婆ちゃんだ。
 なのに、今だ十二神将であり、最年長陰陽師を更新し続ける通称妖怪ババア――源千代子だ。
 俺はしぶしぶ、婆ちゃんとの、地獄のような修行を始めることにする。

 その後は飯を食べて、風呂に入って、明日はまだ太陽学園に通学。
 放課後は怜と修行して、清峰兄ちゃんの帰宅を待ってと。これが俺の日常だな。

 なんてことはない。
 ちょっと由緒ある陰陽師家に生まれて、陰陽師を目指すことが当たり前で、それが俺の夢になって。

 まぁ平凡で退屈な日常だ。

 

◇太陽学園盂蘭盆祭、当日。夜。

 太陽学園の広大なグラウンドに卒業生含む陰陽師が多く集まっていた。
 今日はお盆、故人に想いを馳せる日。

 その視線の先はマイクを握り登壇しているこの学園の卒業生の土御門清峰だった。

「……今日はお盆です。故人に想いを馳せる日です」

 清峰は静かに語る。

「……シンとの終わらない戦いで多くの陰陽師がその使命を全うしました。共に育った友も、血を分けた大切な家族も……何百、何千という陰陽師がこの国を守り、死んでいった。彼らの戦いがこの国の歴史です。私はこの学園の創始者である安倍晴明の子孫として、そしてこの国の守護者たる土御門家の長男として……彼らを本当に誇りに思います」

 その言葉に多くの陰陽師が頷く。

「だから今日は……我々はあなた達の火を絶やしていないと笑顔で迎えてあげましょう。それでは皆さん、火を」

 多くの陰陽師達が霊符を握る。
 その向き先は、盆踊り会場中央の大きな祭壇。
 清峰が火の弾を放ち、続くように優しい火の弾が飛んでいく。
 祭壇に火が付き燃える。

「では、盂蘭盆祭を始めます!」

 音楽が流れ盆踊りが始まった。
 その火を見つめ、清峰が背を向ける。

「鈴鹿、おにぃは?」
「未読スルー」

 鈴鹿と蓮華が、浴衣姿で太陽学園の盆踊り会場で待っている。

「あ、金剛術使って全力ダッシュ中だって……ふふ」

 嬉しそうな鈴鹿を見る蓮華。

「あーあ、私も恋したいなー燃えるような恋がしたいなー」
「ち、ちがうよ! 私と蓮君はそんなんじゃ! それに蓮華ちゃんはモテモテでしょ!」
「うわ、クラスの男子全員惚れさせた鈴鹿がいう? でも私より弱い奴はちょっと無理……せめておにぃぐらい強くないと」
「ふふ……でた。ツンデレブラコン」

 少し恥ずかしそうに顔を赤くして、そんなことないよと上を向く蓮華。
 それを見てにこにこする鈴鹿。

「なんだこいつ! 顔が良いだけじゃなくて、胸もデカくなってる癖に!」
「あはは! やめてよ!」

 蓮華にこちょばされて、笑う鈴鹿。

「じゃあ私はいくね。頑張れ、鈴鹿。あ、でも押し倒したりはだめだよ! キスまで! 私達まだ小学生だし」
「も、もう! 変な事いわないで!」

 恥ずかしがる鈴鹿を見て笑う蓮華はじゃあねと手を振ってその場を離れた。
 鈴鹿は待ち合わせ場所の盆踊り会場で一人待つ。

「……蓮君。遅いな」

 音楽だけが寂しく響く。

◇一方、蓮太郎。
 

 蓮太郎は急いで太陽学園の盆踊り会場へと向かっていた。

「やっべぇ、もう始まってるじゃん」
「源蓮太郎君」
「はい?」

 すると後ろから声を掛けられた。
 黒い髪の美しい20代ほどの女性が微笑んでいた。
 まるでこの世のものとは思えないほどに美しい人だった。

「そうですけど……どちら様ですか?」

 するとその女性は、蓮太郎の頬を優しく触る。

「あいつに似てる。さすがに子孫ね……ほんと……」
「あ、あれ?」
「――憎らしい」

 直後蓮太郎は、眩暈と共に意識を失う。

(……あれ?ここは?)

 蓮太郎が目を覚ますと暗い石づくりの部屋だった。
 松明が壁に取り付けられ、お札が回りに貼られている儀式を行うような部屋。

(なんだ……ここ……あれ?)

 気づけば腕が仰向けで拘束されて動かない。
 隣に先ほどの女性と真っ白な仮面で顔を隠している誰かがいた。

 仮面の誰かは、腕を組み壁にもたれている。
 そして女性は古びた刀を持っていた。

「痛!?」

 蓮太郎の腕がその刀で浅く切られ、刀が赤く鳴動する。
 驚く蓮太郎、するとその女は笑う。

「やっぱりこの血なのね! あなたの言う通りよ!」
「なに……を」

 そういってその女は、背後にいる仮面の誰かを見ていた。

「あら、起きたの? 呪力耐性が強いのね。あいつの血を引くだけはあるわ。良い陰陽師になれるわよ」
「なんだよ! 離せ! お前誰だ! ここはどこだよ!」

 蓮太郎は暴れるが、その仮面の誰かが印を結んだ指をこちらに向ける。
 それは結界術だった。
 体を拘束されて動けない。

(陰陽術!? この仮面の奴……陰陽師)

「ここはね、太陽学園の地下室よ。それと私が誰かって?……そうね……妲己、玉藻前……色々呼ばれたわね。でも一番良く呼ばれるのは……」

 不気味に笑うその女性はその刀を手に持って笑う。

「――九尾かしら」
「!?」

(九尾……父さんや陰陽庁がずっと追ってる最悪で最古のシン。なんでこんなとこに)

「そ、そんな奴が俺に何の用……ぐぅ!?」

 突然の痛みが全身を貫く。
 蓮太郎の胸にその刀が差されていた。

「今からあなたを依り代にして封印されたあの子を顕現させるの。この忌々しい童子切に封印されたあの子をね!」

 蓮太郎は叫ぶことしかできなかった。
 意識を失いなら、その体を朱色の何かが覆っていく。

「厄介な封印よ……私一人じゃ千年経っても解けなかった……でもやっとこれで……やっと」

 九尾は涙を流しながら意識を失った蓮太郎の頬を優しく撫でる。

「――あの子に会える」

 蓮太郎の体には真っ赤な呪力が溢れていく。
 徐々に濃くなり、その姿はまるで鬼のように。

「あぁ! この朱色の呪力! 無限の呪力! あの子の呪力よ!」

 蓮太郎の面影をほとんど残さない朱色の鬼は、鉄の拘束も結界も引きちぎり、ゆっくりと立ち上がる。
 わなわなと震え、そして。

『ガッ!』

 叫ぶ。
 それと同時に、部屋はまるで爆発したように木っ端みじんに砕け散り、天井に開いた穴からその鬼は飛び出した。
 九尾は自分の尻尾で、守り、仮面の誰かもまるで陰陽術のような丸い結界で耐えてみせた。

「おかえり……外道丸」

◇陰陽庁霊災対策本部モニター室。

 
 様々な機器とオペレーターたちが日本全国で発生する霊災――つまりシンの発生を検知する場所。
 目の前には巨大なスクリーンがあり、指揮官の男は指示を出す。

「大阪に発生した霊度3に一級陰陽師派遣できました」
「しかし盆ぐらい休ませてほしいものだな。霊度3レベルがホイホイ現れよって」
「むしろ多いぐらいですね」

 するとピピっと音がなりオペレーターの女性が画面を見る。

「東京にて新たに霊災を検知しました」
「またか……」
「……場所は……はい、特定できました。太陽学園敷地内? 霊度は2……いえ、霊度3……あれ?」
「ふっ、シンも現れる時と場所を選べばよいものを。太陽学園は盂蘭盆祭中。清峰君や先生方もいる。すぐに祓われるだろう」
「訂正します! 霊度……5!?」
「霊度5だと!?」

 立ち上がる指揮官は驚く。

 シンの強さを計る尺度である霊度。
 その強さは1~7まで存在するが、霊度5とは年に数回あれば多い方、そして発生すればやはり死人がでる霊災だった。

「すぐに特級陰陽師を追加で派遣! 気づいているだろうが、清峰君にもすぐに連絡だ! 初動で何人死ぬか決まるぞ!」
「うそ……なんで……え!?」
「どうした! はやくしろ!!」
「呪力量が……上昇しています! 数値が……なんで……なに……これ」
「スクリーンに写せ!!」

 言われるがままに大スクリーンに画面が映し出される。
 そこには太陽学園のマップと霊災の大きさを表す数値が表示される。

 霊度5だった反応は、いつしか霊度6へ。

「……なんだこれは」
 
 そして数値は一瞬で霊度7を記録し、メーターを振り切った。
 測定不能の赤文字エラーを出す。
 
 陰陽庁全体に警鐘が鳴らされ、日本中に緊急事態宣言が発令される。

 言葉を失いそうな指揮官は漏らすように口を開いた。

「霊度7……大霊災」

 それは災厄のシン

 日本の歴史上数度しか発生してない大霊災は、陽気な音楽にぎわう盆踊り会場に落ちてきた。
 
 中心の祭壇を踏みつぶし、炎を纏い、周囲を見る。
 その視線の先には、たくさんの陰陽師の卵たちと鈴鹿がいた。

『ガァァァ!!!!』

 東京中に、響き渡る雄たけびと共に、朱色の鬼は太陽学園に降り立った。
 
 かつてこの世界を滅ぼしかけた鬼の王が――千年の時を経てもう一度現世に顕現する。

 けたたましいアラームが、全員のスマホから鳴り響く。
 それは霊災発生を知らせる緊急アラームだった。

 全員がまたかとスマホを見ようとしたときだった。
 
 ドン!!

 盆踊り会場のど真ん中、大きなキャンプファイヤーに何かが降ってくる。
 燃える火の中にいたのは、その火よりももっと赤い、朱色の鬼。

 すかさずOBOG達や先生である陰陽師は、霊符を向けて符術を発動する。
 様々な陰陽術がその鬼に向かって飛んでいく。

『ガッ!!』

 だがその一声だけで呪力の波動により、全てが消し飛んだ。
 
『緊急霊災速報! 霊度7が東京――太陽学園にて発生! 至急避難してください! 繰り返します』

 同時に日本中にそのアナウンスが流れた。
 大人たちは即座に判断し、子供達を連れてわき目も降らずに逃げ出した。

 全員がまっすぐとその鬼から逃げるなか一人だけ前に出る。
 それは鈴鹿だった。

「蓮……君? どうしたの? 蓮君!!」

 鈴鹿は、そのほとんど原型を残さないその小さな鬼が蓮太郎だとわかった。
 苦しんでいるように見えた蓮太郎を、何とか助けようと前に出る。

「す……ず……か」
「蓮君! 大丈夫! すぐにみんなを連れてくるから!」

 頭を抱えて膝をつく蓮太郎に鈴鹿が近づいた時だった。

「ガァァ!!」

 蓮太郎が、右手で鈴鹿の腹部を貫ぬいた。
 しかし、ほんの少しだけ刺さったところで、その右手を左手で止めている。

「うっ……大丈夫……だから……ね」
「にげ……ろ……鈴鹿」

 その時だった。
 朱色の鬼が、蹴飛ばされて周囲の木々をなぎ倒しながら飛んでいく。

「清峰……お兄ちゃん……」
「鈴鹿!」

 それは清峰だった。
 鈴鹿を抱き上げる。幸い傷は浅いが、朱色の呪力が腹に蠢いていた。
 痛みで鈴鹿の意識が消え、それに眉をしかめる清峰。

 しかし次の瞬間、鬼が投げてきた岩石が清峰目掛けて飛んできた。
 まるで大砲のような速度で飛んでくるただの岩。

「結界術・重!」

 10枚の半透明な結界が、現れるが、そのすべて貫通する。
 しかし威力の弱まった岩石を、腰の祓魔刀で真っ二つに切り伏せる。

 と同時に式神を召喚し、鈴鹿を運ばせる。

「怜! 鈴鹿を病院に連れていけ!」

 そこに走ってきた弟の怜に向かって、清峰は叫んだ。
 式神が鈴鹿を怜に向かって運んでいく。

「兄さんは!!」

 清峰は、腕をまくって朱色の鬼を見る。

「俺には俺のやることがある」

「焦らずゆっくり! 訓練通りに!」

 先生達主導で避難が行われていた。
 多くの生徒達が学園の外へと出ていく。
 怜は鈴鹿を担いで、蓮華に合流した。

 ドン!!

 その間もまるで爆撃のような音が鳴りやまない。

「蓮華ちゃん!」
「怜さん! よかった、鈴鹿も!」
「蓮太郎は!」
「ううん、わからない。でも遅刻だったから……大丈夫だと思う!」
「そうか……ごめん、蓮華ちゃん。鈴鹿ケガしてるんだ、病院に連れて行ってくれ!」
「え? ま、待って! 怜さん! どこにいくの!」
「兄さんを助けないと!!」

 怜は鈴鹿を預け、一人清峰の元へ戻った。
 

◇清峰VS朱色の鬼。
 
  
「はぁはぁ……これが霊度7、歴史に残る大妖怪か」

 ボロボロになりながら祓魔刀を握って蓮太郎を見つめる。
 霊符を握り、印を結ぶ。
 四体の巨大な龍が顕現し、その鬼に向かって飛んでいく。

 しかしその龍は、鬼にすべて食い散らかされた。
 だが、すかさず清峰が懐に入る。

 それを見て鬼は、当たれば人間などひとたまりもない拳を振るった。
 しかし躱し、顔面を殴り返す。
 
 勢いのまま校舎に激突し、コンクリート片を飛び散らせるが、まるで何事もないように立ち上がる。
 清峰は殴り、焦げてしまった己の拳を抑えなながら冷や汗を流した。

◇蓮太郎の思考

(俺は……なにをしてるんだっけ……)

 まるで夢を見ているような気分だった。
 自分が何をしているかもわからない。何かをしているんだろうが、思考が続かない。

「外道丸……外道丸……」

 でも誰かが呼んでいる声がする。
 この声は……父さん? ……いや、違う。これは父ちゃんだ。

「外道丸……すまない」

 胸が張り裂けそうなほどに痛い。
 血の涙が出そうなほどに悔しい。

 なんなんだ。
 この胸を引き裂かれそうな感情は。
 このすべてを破壊したい衝動は。
 この辛く終わりのない痛みは。

 一体なんなんだ。

 俺が見ていたのは、ボロ布を着た男が、群衆の中、土の地面に押さえつけられている光景だった。
 まるで時代劇のような……ずっとずっと昔の風景。
 その男は縄で縛られ、刀を向けられている。

 俺は叫んでいた。

「父ちゃん! 父ちゃん!」

 その男は優しく笑って言った。

「ごめんな」
 
 振り下ろされる刀、飛び散る朱色の血。
 その瞬間、この感情の正体がやっとわかった。
 
 ――憎しみだ。
 
 どこまでも深くすべてを壊すまで止まれない……憎しみだ。

◇清峰VS朱色の鬼。

 清峰を見る朱色の鬼は、その目から涙を流し、血がにじむほどに拳を強く握る。
 拳に朱色の呪力が集まっていき、まるで時空が歪んでいく。

 冷や汗をかく清峰はその朱色の拳を見つめていった。

「――それが無限の呪力か」

 振りかぶる蓮太郎は、そのままこぶしを振り切ろうとする。
 その時、後ろから声がした。

「――兄さん!!」
「怜!?」

(この位置はまずい!)

 と同時に、拳が振り切られた。
 呪力と共に空間すら歪めながら、波動のような朱色の閃光が清峰へと飛んでいく。
 清峰は、結界を最大枚数召喚するが、まるで紙屑のようにはじけ飛ぶ。
 そして、祓魔刀を横にし、両手で支える。

「ぐぅぅぅぅぅ!! はぁ!」

 その真っ赤な閃光は、軌道を変えて、背後にある太陽学園のシンボル――太陽の時計塔へと逸らすことに成功した。
 閃光が、時計塔の中腹を貫通し、鉄筋コンクリートを跡形もなく消滅させた。

「はぁはぁ……」

 防ぐことに成功した清峰、しかし代償は大きくその右腕が吹き飛んでいた。
 左手一本で祓魔刀を握る清峰は下を向く。
 上を向くと、鬼の手には先ほどと全く同じレベルの呪力が集まっていた。

「……冗談でも笑えないな」

 そのときだった。

「符術・水弾!!」

 水の弾が、鬼に向かってぶつかる。
 それは怜だった。 
 鬼の拳に集まっていた朱色の呪力は霧散し、ゆっくりと怜の方を向いた。

「お、俺が相手だ! こっちを向け! シン!! 兄さん逃げて!」

 清峰は怜を見つめる。
 
 ボロッ。
 
 そしてその頭上、自分が今逸らした閃光によって倒壊しそうな時計塔も。
 清峰は走った。

「え?」

 頭上から怜に向かって大量の瓦礫が落下してくる。
 怜は突然のことで何も動けなかった。
 潰される。

 ガシャン!!

 だが瓦礫が怜をつぶすことはなかった。
 なぜなら清峰が怜を守るように覆いかぶさり、さらに結界で守ってくれたから。

「怜、ありがとな。ナイスアシストだったぞ……」

 上を見上げると、笑顔で怜に微笑む清峰。
 そして怜の頭を優しく頭をなでた。

「清峰兄さん……ごめん、俺……助けようと……に、逃げよう! 父さん達と一緒ならあいつだって」

 しかし清峰は首を振った。
 片手で式神を召喚し、怜は無理やり担がれる。

「――怜」

 背を向ける清峰に手を伸ばすが、抵抗できずに運ばれていく。

「良い陰陽師になれよ」

 その数秒後、清峰の体をその鬼の拳が貫いた。
 怜はただ叫ぶことしかできなかった。

(あれ? 俺は……)

 蓮太郎は、優しく撫でられた気がして目を開く。
 その目の前には、大好きな兄ちゃんがいた。

 そして自分の腕で貫いていた。

(……え? 清峰……兄ちゃん? なんで……なんで!)

 貫かれた清峰は、血を吐きながらそれでも怜と同じように優しく蓮太郎の頭をなでた。

「――ごめんな。蓮太郎。本当に……ごめん」

 そして清峰は朱色の呪力で、燃えるように灰になって消滅した。
 それと同時に、心が壊れて叫ぶ蓮太郎。
 
 もう自分が何をしているかもわからず、声にならない叫びを上げ続けた。

 暴れまわり、校舎を次々と崩壊させる。
 見るものすべてに怒りをぶつけた。

(殺した!!)

 暴れまわる蓮太郎は、避難している人たちを見つける。

(俺が殺した!!)

 その中で妹の蓮華を見つけた。

(いやだ……やめてくれ! いやだ! もう……いやだ!!)
 
 拳を握って殴りかかろうとする。

(誰か俺を! 殺してくれ!!)

 その破壊の拳を片手で受け止める男。

「――いや、父さんが絶対に助ける」

いいなと思ったら応援しよう!