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詩 「静けさのなかの梅干しとカタツムリ」



「静けさのなかの梅干しとカタツムリ」



わたしの枝は 六月の空に ふるえている


あおくて つややかな実が
重たくなって ころころと 風にうごく



どこにも 薬をふられたことはない
土も 水も 空気も
ありのままの この庭と
わたしは ながいあいだ ともに生きている



だれにも 植えられたわけじゃない
いつのまにか 芽を出し
いくたびも 冬をこえて
この庭に 根をはった



からりと 晴れたと思えば
しずかに しずかに 雨がふる
それは 空のうた


それとも どこか 遠くの海のこだま

石垣のすきまには 苔がふえ
ひとつ カタツムリが ゆっくりと上ってくる
「今年も おまえさんは 立派だよ」
そう言って しずかに 実のうえで ねむる




土蔵のなかでは まりこ杜氏が
青いホーローのタンクを ふきんでぬぐっている


蔵の床に 青梅の香りがただよって
しんと 時がとまったみたい



にわでは すのこのうえに
梅の実が ひろげられている
雨の切れ間の 貴重なひざし
それを ひとつずつ ひっくりかえす手
わたしの こどもたちが
光をまとって うすべにに 色づいていく


そのころ 蔵のひとりが
にわの石にすわって

あつあつの 白いごはんをたべている

わたしの むかしの実が
すっぱそうに しわしわになって のっている



かじるたびに
遠くの山の土や 春のあめや
ここで わたしが感じたすべてが
ひとくちで かえっていく

そのひとは ぽつりとつぶやく
「これ、あまくて、すっぱいな」
「でも、なんだか なつかしい」

その声を聞きながら
わたしは 六月の空にむかって
そっと ひと葉をのばす

ことしもまた
だれのためともなく
わたしは ここに 実をゆらす
蔵のにわで
静かに
命を つづけている


杜氏とカタツムリと青梅の会話




著者より
佐藤の姉と弟に
お祝いの辞



「星醸のうた」

ひかりのさす
武蔵の山のふところに
やわらかに うめのかがやくところ
越生の里に ひとつの蔵がありました

弘化元年の春のこと
まじめなひとびとの手によりて
いっぽんの酒が 星のしずくのように
この地に そっと うまれました

それから 百八十年
雪もふり
梅も咲き
蛙がなき 風がわらうあいだにも
その蔵のあかりは けして絶えず

いまは 姉と弟
やさしくて つよいふたり
ふるい柱を ともにささえて
たがいの息を聴きながら
酒を醸しているのでした

わたくしは 友として
このふたりのうしろすがたを
そっと 星のひかりのなかで見つめながら
ひとつの願いを おもいます

──どうか
このしずかな愛の蔵が
二百年の先にも うつくしく灯っていてほしいと

だから このうたを描きました
うめの香のふく 春の宵に
そっと 風にたくして




Kazuhiko

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