美沙。おごせに行く「一鞠-hiMari-物語」第3話エモさに包まれて
第二章(続き2):エモさに包まれて
(地の文)
春なのに、今日は妙に暑い。
スマホの天気アプリをちらりと見る。
美沙(心の声)
「……最高気温30℃って。え、春なのに?」
(太陽の光がまぶしくて、思わず目を細める)

越生の空は青くて、どこかのんびりしていて。
なのに、温度だけはもう夏の気配。
⸻
(地の文)
ふと駅舎を見ると、「越生駅観光案内所」という文字が目に入る。

美沙(心の声)
「……え? 駅の中が案内所になってるんだ」

(ゆるやかに驚きつつ、駅の構造に感心する)
地元の人の手で大切に使われている感じがして、なんだかほっとする。
⸻
(場面:駅前の自動販売機)

(地の文)
汗がじんわりとにじみ、喉が渇いてきた。
駅前の自販機に目をやる。
「アイスコーヒー、あるじゃん……」
美沙
「あ、電子マネー使えるんだ……」

(ちょっと意外そうに笑う)
缶コーヒーを選んで、スマホをかざす。
美沙(心の声)
「当たり前のことなのに、ちょっとびっくりした」
いつも暮らしている町では、それが“普通”になっていて。
でも、この越生のゆったりした雰囲気の中では、その普通がちょっと意外に思えた。
⸻
(場面:駅のまわり)
(地の文)
一口、アイスコーヒーを飲む。
冷たい苦味が喉を通ると、さっきまでの暑さがすっと引いていく。
あたりを見渡すと、どこを切り取っても絵になる風景。
古い木造の建物。色あせた看板。やさしい陽の光。
美沙(心の声)
「……なんか、エモい」
一瞬、時間が巻き戻ったような感覚。
見たことがあるようで、ない。けれど確かに心の奥に触れる風景。
美沙
「タイムスリップ、したみたい……」
そんな言葉が、自然と口をついた。
⸻
(場面:駅前の時計)
(地の文)
ふと、駅前の柱時計を見る。
あと30分で、バスが来る。
美沙(心の声)
「もう少し歩いてもいいけど……ちょっと休もうかな」
(アイスコーヒーを片手に、駅舎の中へ)
美沙
「とりあえず、待合室に入ろう」
⸻
(地の文・ナレーション)
ほんの少し歩いただけなのに、いろんな気づきがあって、心が動く。
焦らなくていい。立ち止まっていい。
今のわたしは、そんなふうに思える。
静かに流れる時間が、ゆっくりと、確かに、わたしの輪郭をなぞってくれていた。
