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おごせのサイダー




詩 おごせのサイダー


五月 山あいのまちに
ひかりの粒が まっすぐ落ちてくる
蔵の屋根をすべり
杉の葉をこえ
砂利道に きらり きらり



遠くで かすかな鳥の声
こつん、と梅の実が枝をはなれる音もして


あたりの空気に やわらかな香がまじる
まだ青く ほろにがい 初夏の気配

まぶしいひかりが からだの奥にさしこみ
わたしの影も すこし伸びる

蔵元の直売所で
「蔵元サイダーをひとつ」


スカイブルーのキャップを くるりとひねる



パシン、と音がして
瓶のなかで 泡が舞いはじめる
そのとき うしろの山々から
風が ざわり ざわりと 吹き抜けてくる

わたしの背を押し
髪を撫で
青い空へ こころごと 運んでゆく

その風にのって
おごせの水の かほりがたつ
岩のしずくのような やわらかい香り
その奥に ふと 気づく
梅の実の うすい緑の匂い

ごく ごく
喉をぬける 透明なひかり
しゅわしゅわと 舌にふれる泡が
陽の光のように はじける

ああ このひかり
この風
この水

山のむこうへ ひかりは駆けてゆき
雲は まばゆい輪郭をまとい
蔵人たちの動きが
ひかりのなかで かすかに揺れている


ザクザクザクと 砂利のうた
ときおり 笑い声がまじる
また どこかで
ホトトギスが 一声だけ

空も 風も 水も
まるごと おごせの景色

この時間を からだに浴びて
わたしは ひとこと
風に向かって
ただいま、と 言った




著者より
佐藤の姉と弟に
お祝いの辞



「星醸のうた」

ひかりのさす
武蔵の山のふところに
やわらかに うめのかがやくところ
越生の里に ひとつの蔵がありました

弘化元年の春のこと
まじめなひとびとの手によりて
いっぽんの酒が 星のしずくのように
この地に そっと うまれました

それから 百八十年
雪もふり
梅も咲き
蛙がなき 風がわらうあいだにも
その蔵のあかりは けして絶えず

いまは 姉と弟
やさしくて つよいふたり
ふるい柱を ともにささえて
たがいの息を聴きながら
酒を醸しているのでした

わたくしは 友として
このふたりのうしろすがたを
そっと 星のひかりのなかで見つめながら
ひとつの願いを おもいます

──どうか
このしずかな愛の蔵が
二百年の先にも うつくしく灯っていてほしいと

だから このうたを描きました
うめの香のふく 春の宵に
そっと 風にたくして




Kazuhiko



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