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キャベツの芯だけの皿うどん 私を動かし続ける物語

これは、
ある母子家庭の小さな家族の話です。

母と、男兄弟ふたり。

家族三人で外食することは
一年に一度あるかないか。

車はありません。

その日も三人は
自転車をこいで食堂へ向かいました。

今思えば
家からその食堂までは
10キロ近くあったそうです。

兄が先頭。
その後ろに弟。
そして一番後ろを
母が見守るようについてきていました。

やがて食堂に着きます。

自転車を止めようとすると
店の横には
たくさんの自転車が並んでいました。

地元の人たちが集まる
小さな食堂でした。

引き戸を開けると
店の中はお客さんでいっぱい。

ガヤガヤと賑わう店内。

その中に
三人で座れそうな小さなテーブルが
ひとつだけ見えました。

なんとかそこへ座ります。

席につくと母が言いました。

「好きなもの頼んでいいよ」

兄と弟は
悩むまでもありません。

牛丼。

普段、家で牛肉を食べることは
ほとんどありません。

牛肉は
兄弟にとって
かなりの贅沢でした。

母はメニューを少し見て
皿うどんを頼みます。

母は野菜が好きだったので
野菜がたくさんのってる皿うどんの
メニュー表を見たからかもしれません。

店は忙しく
食事が出てくるまで
かなり時間がかかりました。

先に運ばれてきたのは
兄弟の牛丼でした。

真ん中に卵の黄身がのった牛丼。

母は言います。

「先に食べていいよ」

兄弟は顔を見合わせます。

会話はありません。

店に置いてあった古い漫画本を手に取り
母の皿うどんが来るのを二人黙って待っていました。

やがて皿うどんが運ばれてきます。

「いただきます!」
兄弟の声がそろいました。
家族そろって三人で食べ始めます。

兄弟は夢中で
牛丼を頬張りました。

どれくらい時間がたったのか
覚えていません。

しばらくして
小さな声が聞こえました。

母の声です。

「野菜の芯ばかり……」

皿を見るとホントに
キャベツの芯ばかりでした。

母は
少し寂しそうな表情で
それを食べていました。

やがて食べ終わり
三人で店を出たとき
母が言いました。

「二人とも、おいしかった?」

おいしかったと答える兄弟2人に

「なんか、ごめんね。
ほんと、ごめんね」

そのとき兄弟には
母がどんな気持ちで
そう言ったのかはわかりません。

それでも母は

「野菜の芯ばかり…」

小さな声で
母はそう言っていた。

それが
この家族にとって三人揃っての
最後の外食でした。

そのとき弟は
まだ10代。

あの日、
あの時
あの場所で
牛丼を夢中で食べていた弟。

そう、

私なんです。

今でも
あの日のことを
鮮明に覚えています。

母が毎日苦労していたことも。

あの日の情景
あの皿うどんのことも。

そして今
私はスーパーの現場で働いています。

毎日、売場に並ぶ惣菜や食材。

それを買って帰る人の先には
きっと誰かの食卓があります。
何かの記念日かもしれません。

家族かもしれない。
子どもかもしれない。
大切な人かもしれない。



「食卓に上がるまでの責任を持て」



これが、
私を動かし続ける物語。




「野菜の芯ばかり......」





母の日に思い出す話。

50円


※この物語は私自身の実体験をもとに書いています。
無断転載・無断使用はご遠慮ください。








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