自分の為に香水をつける
マリリン・モンローが寝るときに身に着けていたものは、シャネルのNo.5という香水である
という話は有名だ。
大学生だった私はそれを聞いて、
寝る前ということは、誰にもその香りを見せず、自分ひとりで楽しむのか、と驚いた。
誰かとベッドを共にするという発想はまだ無かった。
それから、マリリンを真似し、寝る前に香水をつけることにした。
当時好きだった相手にも、大人ぶって、寝る前に香水を付けている、という話をしたが、
なんで?と聞かれて答えられなかった。
そんな私も40代。
子供が産まれてからは香水とは疎遠になっていたが、最近、寝る前に香水をつけるようになった。
理由は、寝るためだ。
そう、私は眠れない。
不眠症というほどではないけれど、2日に1回は、寝るのに1時間以上かかる。
せっかく早く布団に入っても、眠れないから、早起きできない。勿体無い。
カフェイン断ちや、ストレッチをしたりしても、効果があったり、無かったり。
イヤホンをつけて音楽やYouTubeを聴くようにすると眠れるのだが、眠ったあともイヤホンから音が出続けるから、耳に悪いような気がする。
そのイヤホンをベッドのどこかに落とし、どこにいったと探すのも煩わしい。
これに対して小学生の娘は、10分もすれば隣りですやすや寝息を立てている。羨ましい。
歳のせいなのかなあ。大人って、こんなに眠れない生き物なのか。
そんなある日、ゲランのミツコという香水の、ミニサイズを入手した。
フランスの歴史ある化粧品ブランドであるゲランが、100年以上前から出している名香水で、どんな香りか気になっていたところ、ちょうどメルカリで見つけたのだ。
ミツコの口コミは真っ二つに割れていて、良い口コミには、古い絵画に描かれた桃の香り、悪い口コミには、おばあちゃんの香り、とある。
さてどんな香りだろう、と試した私の第一印象は、古い箪笥から出てきた着物の香り、だった。これをプンプン香らせていたら、たしかに「おばあちゃん」かもしれない。
しかし、香水はつける時間と場所と量により、情景が大きく変わる。それを試行錯誤するのも、香水の楽しみの一つなのだ。
その夜、パジャマに少量つけてみた。すると、自分自身のにおいと調和し、自分の肌をすこし甘くしたような香りになって、とても落ち着く。
そのまま布団に入って、香りを確かめるように深呼吸しているうちに、眠っていた。
そうか、こういう使い方があるのか。後で「寝香水」という言葉を知った。
それで話が終われば綺麗だったけれど、
欲深い私はこれに味をしめて、
他の香水にも手を出し始めた。
ゲラン、ディオール、ジョーマローン。
今はメルカリで、ノベルティのミニサイズの香水が手に入るので、気軽に買えてしまう。ポチポチ。
百貨店にあるゲランの売り場にも足を運んだ。
化粧品のカウンターは敷居が高かったが、
ミツコとモンゲランが好き、という気持ちを勇気に変えて、BAさんに色んな香りを嗅がせてもらった。バニラのような甘い香りが落ち着くと伝えると、ストレスを感じていらっしゃってリラックスを求めているのかもしれませんね、嗅覚は脳に直接効きますからと言われた。うんうん、その通りだ。
それから、ストレスがあった日には、
帰宅してから甘い香水をつけるようになった。
イディール、ジャドール、フローラブルーム。
つける部位でも雰囲気が違う。
手首、足首、髪の毛先。
色々試した結果、お腹にはミツコ、首筋にはイディール、手首にはジャドール パルファン ドーが合うようだ。
基本的には一滴だけつけるのが好きだが、
ストレスを感じた日はそれだと物足りなくて、
これをここに、あれをそこに、と少量ずつ付けていくうちに、
色んな香りを一身に漂わせながら寝る女が出来上がった。
めくるめく香水の世界。
自分のために香水をつけて、
私は今夜も、私を甘やかす。
