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蚊取り線香の匂いがした|八月の小さな交差点で

八月も半分を過ぎて、暑いことにも少々飽きてきたころでもある。夕立の入道雲に追いかけられながら、家路を急いでいた。住宅街の小さな交差点で、信号に引っかかった。

赤信号で車を止め、何気なく前を眺めていると、開けていた窓からなのか、どこからともなく懐かしい匂いが入り込んできた。

蚊取り線香の匂いである。

白い煙こそ見えないけれど、間違いなく、あの匂いなのだ。

そういえば最近、蚊取り線香をあまり見かけなくなった気がするが、子どもの頃には夏になれば当たり前のように身近にあって、二枚に重なった緑色の渦巻きを、途中でポキッと折らないように慎重に離していく。専用の台に取り付けて先端に火をつけると、やがて細い煙が立ち上り、いつの間にか独特の匂いが部屋の中に漂っていた。

あの匂いもまた、夏の景色の一つであった。

便利な虫よけが増えた今、わざわざ火をつけて煙を出す蚊取り線香の出番は、ずいぶん少なくなったのだろう。

それでも、夏の匂いの代名詞だったものが、いつの間にか暮らしの中から消えていくのは、いささか寂しい気もするのである。

結局、蚊取り線香を焚いているのがどこの家なのかは分からず、白い煙も見つけられないまま、やがて信号が青に変わった。

後ろの車に急かされる前にアクセルを踏み、住宅街を抜けるころには、あの匂いもいつの間にか車の中から消えていた。


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