真夜中のゴー・ヨン・ビー
学生時代最後の春休み。
もうじき社会人になる、そんな時期の夜だったと思う。
真夜中の首都高4号線。新宿に向かう料金所で、ポケットの中の小銭を探りながら600円を取り出そうとしていた。
当時スプリンターの1300に乗っていた。踏んでも伸びるような力はなく、ただ静かに順番を待っていた。
そのときだった。音が先に来た。
右、二つ向こうのレーンから、白いセダンが弾かれるように前に出た。暗闇の中でそのボディだけが浮かび上がるように見えて、丸くて赤いテールランプが二つ、はっきりと残った。
プリンス・スカイラインだった。
軽やかに回る音ではなかった、押し出すように重く、低く、車体は少し沈んだまま、それでも前へ前へと出ていく、そのまま一気に加速していった。
遅れて、もう一台。
赤いボディ。
真っ赤ではない。あずき色のような、海老茶色のような赤。
同じ丸いテール。同じ音。
二台は並ばなかった。
少しだけ間を空けて、同じ方向へ伸びていった。ランデブーするかのように。
野太い音が、空気に淀んで遅れて届く。
気がつけば、もういなかった。
二台は、そのまま東の空に向かって消えていった。
一瞬の出来事だったと思う、それでも時間がわずかに引き伸ばされたように感じた。音が先に来て、視界に入り、そして抜けていく、その順番だけを妙にくっきりと覚えている。
あのときは分からなかった。
平成三年の春。
学生時代最後の春休み。
社会に出る直前の、あの夜。
いま、令和八年の春から振り返れば、あの二台のプリンス・スカイラインは、当時すでに二十年以上も前の車で、そこからさらに時間が重なり、気がつけば半世紀以上の時を経ている。
それでも、あの夜の音だけは、まるで時間の外側にあるみたいに、変わらない。
* * *
この現場から、数か月後だったと思う。本屋で、ふと目に入った。
おや、と思った。
ストリートクラシックという雑誌の表紙に、赤と白のプリンス・スカイラインが並んでいた。
どこかで見た並びだった。
あの夜、首都高で見た二台と、重なった。同じだったのかもしれない。
はっきりとは分からない。
ただ、あのときの音と、あのときのヒカリだけは、確かにそこにあった。
プリンス・スカイラインを見ると、あの夜のことを思い出す。
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※掲載写真出典:『Street Classics 2』
(PHOTO & REPORT / AKIHIKO WATANABE)

