あの銀杏並木を抜けて #38
【あらすじ】
『私には夢があった』
幼心に抱いた夢に向かって走り続けた、陽子。
追いかけたその先にあったのは、自分ではどうすることもできない高い壁だった。
その後、円満な家庭を築き、「幸せ」を掴んだ陽子だったが、家族の『言葉』をきっかけに『諦めた夢』への思いが蘇る。
もう一度、夢を追いかけるべきか…悩む陽子の物語。
かつて『あったはずの夢』。
きっと陽子のことを他の誰かと思えない自分に出会えるかもしれません。
エピローグ
初出勤の日。
こども園には指定された時間より少し早く着いた。
ここが私の新たな「場所」になる。
「おはようございます。今日からお世話になります、野村陽子と申します。」
「おはようございます。お待ちしてました。
まずは園長から話がありますので、園長室にお願いします。」
「承知しました。」
園長室のドアの前に立つと緊張が走った。
一つ大きく深呼吸をしてドアをノックをすると、中から声がした。
「どうぞ。」
「失礼します。」
窓際に少し小柄な女性が立っている。
面接の時にお会いした、こども園の園長だ。
「おはようございます。今日からお世話になります、野村陽子です。よろしくお願いいたします。」
「おはようございます。野村陽子先生……それとも白石陽子ちゃんと言った方がいいのかしらね。」
「え?」
「当こども園の園長、横山由紀子です。それとも…吉野由紀子と言った方が分かるかしら?」
面接の時、吉野先生に似ているとは思ったが、苗字が変わっていて、確信が持てなかった。
吉野先生が私の目の前にいる。
「吉野……先生……。」
「面接ではちょっと意地悪なことを言ってごめんなさいね。
あなたが卒園してから、私は結婚して苗字が変わったから、私だと気付かなかったかしら?」
唖然とする私に園長は言葉を続けた。
「あなたが大学進学した頃にお母様にたまたまお会いしてね……あなたが信州大学の教育学部、しかも幼稚園教員養成課程に進学したことは聞いていたのよ。」
「そうなんですか?!」
「卒業したら、あなたがうちに来てくれるかもしれないと、内心思っていたんだけれど、あの頃は採用がなかったのよね……。
でも、こうやって、あなたはここに戻ってきた。長い間、よく頑張ったわね。」
「先生…またお会いできるとは思ってませんでした!」
「私もよ。実はね、あなたが信用金庫に就職したのも知っていたの。
祖師ヶ谷大蔵支店にいたでしょ?」
「はい。いました。」
「あなたにお見合い写真を持ってきたお祖母ちゃん、いなかった?」
「いました。横山さん……あ!まさか!」
「そう、私の義母なの。私の甥と見合いをさせたい行員さんがいるって言ってたのを聞いてね。
その行員さんは誰なのかと聞いたら、あなただったのよ。」
「えぇぇぇ!!」
「あの時は義母がごめんなさいね。」
「いえいえ、とんでもない!」
「フフフ…くだらない話、しちゃったわね。
とにかく、野村陽子先生、今日からよろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくお願いいたします!」
私が先生になれないと気付いた日、あの絶望が今日という日に繋がっているとは思いもしなかった。
色々な人に支えられてきた、私の人生。
私は最初のうちは長く暗いトンネルの中にいると思っていたが、私の大切な人たちが明かりを絶えず、灯してくれていた。
お陰で暗闇になることはなかった。
葉が散ろうとも、春になると蒼く芽吹き、枝を空へ伸ばす銀杏のように。
どんなことがあっても、自分を信じて生きていたい。
あの銀杏並木を抜けて、私の人生はまたこれから始まる。
〜あとがき〜
この物語は以前書いた「私の『オッパ』」を書き上げた時には書く予定のなかったものでした。
「私の『オッパ』」をnoteに投稿し始めて、一つの思い出の品が紗和子の姉・陽子の物語を書くきっかけになりました。
書いていくうちに色々アイデアが出てきて、一つの物語に仕上げていくのは本当に大変でしたが、書き上がった今、とても楽しかったと言えます。
陽子の葛藤や苦悩は私にも似た経験があるので、一緒に心を痛めました。
夢を叶えたい。
その一心で走り続けた日々は私の人生の中でも大切な時期であり、一生忘れることができない青春の日々です。
そして、この物語にも出てきている、BUMP OF CHICKENは私の青春の全てです。
彼らと出会って、私の人生が豊かなものになったことは真実であり、彼らがいたから、辛いことも苦しいことも乗り越えられたのです。
四人が現在進行系で第一線で走り続けていてくれることは、私にとっても喜ばしいことであり、誇りでもあります。
でも、まさか、私が彼らが出てくる物語を書くとは思ってなかった…というのが正直なところです。
もし、このことを四人が知ったら、どんな風に思うだろう。
藤くんとヒロくんはふ~んて言ってそうだし、チャマは目をキラキラさせてそうだし、ヒデ様は奥でゲームしてそうだし……。
これは完全に勝手なイメージですが。
一度、蓋をしたけれど、また、開けた思い出の箱は私のこれからの人生を優しく照らしてくれると思います。
『また四人に会いたい』
そんな目標ができました。
この声が、この気持ちが四人に届くかは分からないですが、私の場所でこれからも四人を応援していきたいと思っています。
また、この物語を読んでくださった皆様に御礼申し上げます。
陽子と紗和子、二人の姉妹が歩む道がこれからも幸せに満ちているように、皆様に祈っていただけたらと思います。
ありがとうございました。
