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犯罪と精神医学(6): 常習的万引きは病気なのか?〜窃盗症(クレプトマニア)の歴史と現在の位置付け〜

皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です☺️

皆様は、窃盗症(クレプトマニア)という言葉を聞いたことがありますか?

窃盗症とは、「物を盗みたいという衝動・欲求を制御できなくなる病気」です。

この話を聞いて...

「えっ!?窃盗は犯罪じゃなくて病気なの?」

...とツッコむ方もいると思います。

否、むしろほとんどの方がそう思ってらっしゃるのではないでしょうか?

しかし、精神医学という文脈においては「犯罪行為」であっても、「本人がやめたくてもやめられない」「本人も苦しんでいる」という状況であれば、立派な"病気"になるのです…。

精神科医として末席に身を置く小生も、窃盗症という行動障害が存在することは認めます。

しかし、犯罪行為という司法に関わる行動障害を精神科医療が全て請負うことには反対いたします。

やはり司法と医療の両輪をもって窃盗症に対応すべき...、と小生は強く感じております。

今回のnote記事はシリーズ「犯罪と精神医学」の第6回目として「窃盗症(クレプトマニア)」についてかなりマニアックな視点からご紹介いたします!

本記事を読み、犯罪と精神医学の関わりについて多くの方々が関心を持っていただければ幸いです。

【窃盗症とは?】

窃盗症(kleptomania:クレプトマニア)とは、通常個人的な使用や金銭的利益以外の理由で物を盗みたいという衝動に抵抗できない状態。

現代においては、特に"万引き"をやめられない状態のことを窃盗症と呼ぶことが多い。

クレプトマニア(kleptomania)の語源は、ギリシャ語(盗む: κλέπτω)と(狂気:μανία)に由来する。


↓窃盗といえば、ルパン三世?


【窃盗症の診断基準】

以下に米国精神神経医学会による「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」の診断基準を記載する。

窃盗症 (Kleptomania) 312.32 (F63.2)
1.個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
2.窃盗に及ぶ直前の緊張感の高まりを感じる。
3.窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感を感じる。
4.盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものでもなく(つまり、例えば、店員の態度に怒って仕返しのために万引きをしたのではない)、妄想または幻覚に反応したものでもない(つまり統合失調症によるものではない)
5.盗みは、行為障害、躁病エピソード(躁鬱病)、または反社会性人格障害ではうまく説明されない。

American Psychiatric Association. Kleptomania: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM‑5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:50-59.


【窃盗症の疫学】

日本においては詳細な疫学調査はありません。

海外の調査によると、一般人口の0.6%、万引き犯の3.8-24%が窃盗症(クレプトマニア)に該当すると言われております。

男女比は男性:女性=1:3と女性に多い疾患です。

併存する精神障害としては物質使用障害(29-50%)、気分障害 (15-39%)、強迫性障害(5-60%)、摂食障害(2-25%)、他の衝動制御障害 3-24%、不安障害 5-21%、解離性障害 12%が挙げられます。

また身体疾患としては、前頭葉損傷による頭部外傷、側頭葉てんかん、前頭側頭型認知症、咽頭口蓋腫、insulinomaが関与したケースが報告されております。


【窃盗症のはじまり】

おそらく窃盗という行為自体は"所有"という概念と同時に現れ、従って有史以前に存在したと考えられます(モノが誰に所属するか...と考え始めた時に、そのモノを人から奪うという考えも生じたのでしょう)。

そして窃盗が"犯罪"と見做され始めたのも古く、ハンムラビ法典(紀元前1700年代)にはすでに窃盗に対する刑罰がありました。

窃盗のうち窃盗症と深く関係する“万引き”が始まったのは、大量消費社会が具現された16世紀のロンドンであり、“shoplifting(万引き)”という言葉が広まったのは17世紀末だそうです。

そして、繰り返される窃盗が病気では?と考えられたのは、19世紀からと言われております。

窃盗症(kleptomania = klepto: 盗む + mania: 狂気)という言葉はスイスの内科医Andre Mattheyが1816年にはじめて用い、その後フランスの精神科医Esquirol JEDMarc CCによって1838年に引用され広まりました。

前述の通り"窃盗"という行為はおそらく有史以前から存在したと思いますが、"病的な盗み"すなわち窃盗症という概念が登場した背景には百貨店(デパート)の出現があると言われております。

なぜ百貨店?と思われるか不思議でしょうが、これには理由があります。

窃盗症が注目されるようになったのは、花の都パリ百貨店が登場し始めた時期に重なり、しかもその多くが"女性"であったことにはじまります。

産業革命以前の商売は小売店が主でしたが、18世紀ごろから雨後の筍ごとく台頭したのが百貨店という新しい商業形態です。

それまでは「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」購入していた主婦たちは、その圧倒的な品数を目の当たりにして欲望の罠にハマってしまったのです。

つまり以前から窃盗という犯罪行為は存在していましたが、「欲望の殿堂」とも言われる百貨店の出現が窃盗症という病気を析出させたのです。


【窃盗症は女性の病気?】

前述のように窃盗症は女性に多い疾患です。

これは窃盗症という言葉が生まれる以前において既に指摘があり、窃盗を行う女性の特徴についても研究されてきました。

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