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薬と精神医学(4):コンパクト精神薬理~初学者向けに精神薬理を精神科医が超ざっくり解説~

皆様、こんにちは。鹿冶梟介(かやほうすけ)です😆

昨年立ち上げた新シリーズ「薬と精神医学」ですが、しばらく続編を書いておりませんでした。

精神科薬についてマニアックネタを分かりやすく説明しようと思うのですが、脳や神経など基本的な話からしないと理解が深まらないのでは...という思いがあり、次に何を書くべきか悩んでいたのです。

皆様も小生の記事を読んで、たくさんの薬の名前を目にしても作用機序などが分からないまままだと、イメージしにくいのではないでしょうか?

薬の作用機序を知るうえでやはり最低限の知識は必要と感じますので、今回の記事ではかなり初学者向けに精神薬理について書いてみました。

... ...ということで、この分野についてある程度知識のある方にとっては、あまり面白くないと思いますのですっ飛ばしてもらって良いと思います。

一方、精神薬理初心者、あるいは脳科学初心者の方にはためになると思いますので、是非ご高覧くださいな!


【第一章: 脳と神経細胞】

脳は人間の思考、感情、記憶、行動を制御する非常に重要な器官です。

我々が今こうやって物を見て、感じ、知識となっていく過程はすべて脳がやっております。

この脳の働きのパターンや癖が、人それぞれの感情や行動パターン、すなわち人格(パーソナリティ)と言えるかも知れません。

成人では約1.5kg...、自販のペットボトル(500cc)3本分という重さのタンパク質と脂質の塊、すなわち脳にはものすごい力が秘められております。

まずは、この脳の構造について簡単に解説いたしましょう。

脳の構造は、大きく分けて大脳、小脳、間脳、脳幹に分かれています。

それぞれの機能について、簡単にまとめました。

  1. 大脳 大脳は脳の最も大きな部分で、思考や意識、感覚、運動などの高次機能を司ります。左右の半球に分かれ、各半球は異なる役割を持つことが多いです。

  2. 小脳 小脳は脳の後部に位置し、運動の調整とバランス維持を担当します。筋肉の協調や姿勢の調整を行い、スムーズな動きに重要な役割を果たします。

  3. 間脳 間脳は大脳の下にあり、感情やホルモンの調節を担う部位です。視床と視床下部から成り、体温や睡眠、食欲、情動などを調整します。

  4. 脳幹 脳幹は大脳と脊髄をつなぐ部分で、生命維持に関わる基本的な機能を司ります。呼吸、心拍、血圧の調節など、自動的な生理的機能が管理されます。

図1: 脳の解剖と機能

この4つの脳構造の内、精神疾患に深くかかわるのは大脳であると考えられます。

大脳の中でも「前頭葉」という大脳の前方領域は判断、計画、問題解決、自己制御、言語理解など高次脳機能と関係があり、多くの精神疾患で前頭葉の機能低下が想定されております。

大脳の側面にある「側頭葉」は言語理解、記憶、感情等と深く関係するため前頭葉と同様に精神疾患と深く関わると考えられております。

【第二章: 神経細胞の電気的活動】

脳の内部では膨大な数の神経細胞(ニューロン)がネットワークを形成し、情報を伝達し合っています。

神経細胞は、樹状突起、細胞体、軸索、終末などの部分から構成されております。

図2:神経細胞の模式図

樹状突起は他の神経細胞からの信号を受け取り、軸索を通じてその信号を次の神経細胞に送ります。

神経細胞は、情報を伝えるために電気的な活動を行います。

"電気"というとスマホや家電を動かすエネルギーというイメージをお持ちでしょうが、実は人体を含め生物のなかでも"電気"は重要な役割を担っております。

例えば心臓の鼓動は電気的刺激によって規則正しく動いておりますし、我々が手足を動かせるのも筋肉が電気刺激を受け取っているからなのです。

そして、生体内の電気的活動の代表と言えるのが神経細胞の電気的活動なのです。

神経細胞が安静状態にあるとき、細胞内は外部よりも負の電荷を持っています。

この状態を「静止膜電位」と呼びます。

神経細胞の電気的活動は、神経細胞の膜を出入りするイオン(主にナトリウム、カリウム、カルシウム、塩素)によって生じます。

そしてこのイオンが出入りする”門”を”電位依存型イオンチャネル”と呼びます。

電位依存イオンチャネルは、膜電位(細胞の内と外に存在する電位の違い)がある値に達すると開きます。

この電圧値を閾値(threshold)と呼びます。

イオンチャネルが開くとそこからナトリウムやカリウムといった陽イオン(+イオン)が流入・流出します。

神経細胞は何も刺激がないときは細胞の内側がマイナス、外側がプラスに帯電しているため、陽イオン(ナトリウムイオン)の流入は細胞内の電荷分布をマイナスからプラスへ転じます。

このような細胞内の電荷分布の負(マイナス)からの正(プラス)への変化を脱分極と言います。

陽イオン(ナトリウムイオン)の流入により細胞膜内外の電位差は一時的に逆転し、その電位は定常の-70mVから一気に+40mVまで上昇します。

この急激な電位の逆転を”活動電位”と言い、活動電位に達することを「発火」「スパイク」「インパルス」などと表現することがあります。

活動電位が終わると、ナトリウムチャネルは閉じ、カリウムチャネルが開きます。

すると細胞内にたくさんあるカリウムイオン細胞内のナトリウムイオンは排出され、膜電位は再び負(ー)に転じます。この現象を「再分極」と呼びます。

再分極後もカリウムチャネルはある程度開いたままであるため、カリウムイオンはさらに流出するため、脱分極前の静止電位よりも下回ります。

この状態を「過分極」と呼び、いくら神経細胞を刺激してもナトリウムイオンの流入、すなわち活動電位は生じません。

この神経細胞が反応しない時期のことを「不応期」と呼びます。

上記のような電気的なサイクルが神経細胞内で繰り返されることで、活動電位は神経細胞の軸索(神経細胞のケーブルのような構造)を伝達していき、これを「伝導」と呼びます。

図3: 活動電位

【第三章: 神経伝達物質の種類と働き】

神経細胞同士は物理的にぴったりとくっついてはおらず、「シナプス」という間隙(すきま)が存在しております。

このシナプスのでは、信号を送る側の細胞(シナプス前細胞)から神経伝達物質が放出され、その物質(リガンド)が信号を受け取る側の細胞(シナプス後細胞)の表面に存在する「受容体(レセプター)」にくっつき、シナプス後細胞に信号を送ります。

神経細胞単位でみると単純な構造に見えますが、1000億個以上ある神経細胞がそれぞれ複数の神経細胞とつながっており、14兆個以上のシナプスを形成しております。

この複雑かつ膨大なネットワークが人間の感覚や運動、認知、感情などの多くの機能を司っているのです。

神経伝達物質は、神経細胞間で情報を伝達する化学物質です。

神経伝達物質には多くの種類があり、それぞれが異なる役割を持っています。

代表的な神経伝達物質には、以下のようなものがあります。

dopamine: ドパミン
  • ドパミン: 喜びや報酬に関与し、モチベーションや動機づけを高めます。ドパミンは、統合失調症やパーキンソン病などの精神疾患と深く関連しています。統合失調症においてはドパミン仮説が有力であり、幻覚妄想などはドパミンの過剰によって生じると考えられております。


serotonin: セロトニン
  • セロトニン: 気分、睡眠、食欲、痛みの感受性などに関与します。うつ病ではセロトニン仮説といって、セロトニン不足がうつ症状を引き起こすと考えられております。


noradrenaline: ノルアドレナリン
  • ノルアドレナリン: ストレス反応や覚醒、集中力に関与し、気分や不安にも影響を与えます。


GABA: ギャバ
  • GABA(ガンマ-アミノ酪酸): 主に抑制的な神経伝達物質であり、神経活動を抑制し、リラックスや睡眠に関与します。


glutamate: グルタミン酸
  • グルタミン酸: 最も一般的な興奮性神経伝達物質で、学習や記憶に重要な役割を持っています。

これらの神経伝達物質が神経細胞間で適切に作用することで、私たちの思考や行動が調整されています。

精神科のお薬、すなわち向精神薬はこれらの伝達物質の働きを強化したり、抑制したりすることによって、精神状態や疾患の治療に利用されます。

【第四章: 向精神薬と神経伝達物質との関係】

向精神薬」は、主に中枢神経系に作用し、精神機能に影響を与える薬のことです。

広い意味ではアルコールやタバコなどのの嗜好品、大麻や覚せい剤などの違法薬物も向精神薬に含まれますが、ここでは向精神薬を「精神疾患の治療に用いられる薬」と定義いたします。

向精神薬は神経伝達物質の合成、放出、再取り込み、代謝、受容体への結合など、複数の段階で作用いたします。

代表的な神経伝達物質には、セロトニン(5-HT)ドーパミン(DA)ノルアドレナリン(NA)γ-アミノ酪酸(GABA)グルタミン酸(Glu)などがあり、これらの異常が精神疾患の発症と関連していると言われています。

以下に代表的な向精神薬の作用機序を簡単に説明します。


抗うつ剤の作用機序

抗うつ薬: 抗うつ薬は主にセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害することでシナプス間隙の濃度を上昇させ、神経伝達の効率を高めます。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が代表的薬剤です。また三環系抗うつ薬(TCA)等の古典的な抗うつ剤は再取り込み阻害に加え、複数の受容体にも作用するため副作用が多く、いまやうつ病治療の第一選択の座をSSRIなど新規抗うつ剤に奪われております。


抗精神病薬の作用機序

抗精神病薬:抗精神病薬は主に統合失調症治療に用いられる薬剤であり、ドーパミンD2受容体拮抗作用を中心に作用します。特に陽性症状(幻覚や妄想)はドーパミン過活動に関連しており、これを抑制することで症状を緩和すると考えられております。第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)は、セロトニン5-HT2A受容体にも作用し、陰性症状や認知機能への影響を改善することが期待されています。


睡眠薬(ベンゾジアゼピン)の作用機序

抗不安薬や睡眠薬:抗不安薬と睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)は、GABA受容体を増強することで中枢神経の活動を抑制します。ベンゾジアゼピン系薬物はGABA-A受容体のアロステリック部位に結合し、GABAの作用を高めることで即効性の鎮静・抗不安効果を示します。

気分安定薬:気分安定薬は主に双極性障害の治療に用いられ、気分の波を抑える薬です。代表的な薬として、炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトルギンなどがありますが、炭酸リチウム以外はすべて抗てんかん薬であり作用機序は概ね分かっております。一方、炭酸リチウムは70年以上前から臨床で使用され始めましたが、そのメカニズムはいまだに分かっておりません。


抗てんかん薬の作用機序

抗てんかん薬:抗てんかん薬は脳の過剰放電によって生じる脳疾患「てんかん」の治療薬であり、それぞれ作用機序が微妙に異なったり共通したりします。バルプロ酸はGABAのシナプスでの放出を促し、さらにナトリウムチャネルやカルシウムチャネルにも直接作用して神経細胞の興奮を鎮めます。カルバマゼピンは電位存性ナトリウムチャネルを遮断する作用があり、またラモトルギンはナトリウムチャネルの遮断の他にグルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の放出を抑制します。多くの抗てんかん薬はナトリウムチャネルやカルシウムチャネルを阻害することで神経の過剰興奮を抑えますが、レベチラセタムの作用機序は少し他の薬剤とは異なり、SV2Aタンパクに作用してシナプス小胞からグルタミン酸が放出されることを防ぎます。  

このように、向精神薬はそれぞれの疾患に関連する神経伝達物質の機能異常を標的とし、分子レベル・受容体レベルで作用することによって精神症状を改善します。以前の薬は作用が強い一方副作用も顕著に表れるため、患者さんが継続して内服することが難しかったのですが、現在病院やクリニックで処方されている向精神薬の多くは副作用はマイルドになっております。


【鹿冶の考察】

今回のnote記事は精神薬理学の初学者用に執筆しましたので、いつものようなマニアックネタではなく、お堅い内容になってしまいましたね...💦

しかし、今後シリーズ「薬と精神医学」を続けていくうえで、精神薬理の基本をしっかりと抑えたうえで読まないと、なかなか理解が深まらないのでは...、そういった懸念から筆を執った次第です。

しかし、ここでお気をつけ頂きたいのは、各向精神薬の薬理作用は「おそらくこうなんだろう」という推測の域をでておりません。

特に統合失調症におけるドパミン仮説、うつ病におけるセロトニン仮説はあくまで仮説であり、抗精神病薬や抗うつ剤がなぜ病気に効くのか十分わかっているわけではありません(いつかnoteで詳しく解説しましょう)。

ところで今回の記事は「わかりやすく」をモットーに作りましたので、図をたくさん使用しました。

今回の記事に掲載した画像は主にCANVAで使用できる画像、そして小生の家内に作ってもらった画像なので、商業利用でなければみなさまご自由にお使いください。

【まとめ】

・精神薬理の基本である、脳、神経、シナプスについて解説し、精神科薬の作用機序の概略を説明した。
・精神科薬の作用機序を説明いたしましたが、そのメカニズムが本当に正しいかは今の科学をもってしても不明な点が多いようです。
・今回のnote記事の知識を踏まえて、シリーズ「薬と精神医学」をご堪能いただければ幸いです。

【参考文献】

1.Neurotransmitters Regulation and Food Intake: The Role of Dietary Sources in Neurotransmission.Gasmi A et al., Molecules, 20023

https://www.mdpi.com/1420-3049/28/1/210

2.Wikipedia: Action potential

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