見出し画像

30年で消える箱に、永遠の光を。モランディの静物画のような「影」を編む吹き抜けとルーバーの対話

日本の住宅の平均寿命は、わずか30年と言われています。イギリスの約80年、アメリカの約65年と比較しても、私たちの住まいは驚くほど短命な「消費財」として扱われてきました。しかし、2026年の今、私たちが問い直すべきは「建物の物理的な耐久性」だけではありません。その場所で過ごす「時間の質」そのものではないでしょうか。

こんにちは、河添甚です。香川と東京の二拠点で活動しながら、日々「なぜその形が必要なのか」を自問自答しています。今日は、私の設計において欠かせない「光と影」のデバイス——ルーバーと吹き抜け——について、少しアートに近い視点からお話しさせてください。

なぜ私たちの住まいは「平坦」になってしまったのか

かつての日本家屋には、深い庇(ひさし)があり、縁側があり、そこには豊かな「薄暗がり」が存在していました。谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』で説いたような、闇の中に宿る美学です。しかし、現代の都市住宅は、効率と明るさを求めるあまり、どこを切っても同じ明るさの「均質な白い箱」になりがちです。

均質な空間は、一見便利ですが、人間の五感を退屈させます。朝の冷ややかな光、午後のまどろむような影。それらが空間に落ちることで、私たちは初めて「今、この瞬間」を生きていることを実感できるのです。私が設計で目指すのは、ジョルジョ・モランディの静物画のような空間です。テーブルの上に置かれた瓶や器が、わずかな光の階調によってその存在感を静かに主張するように、住宅もまた、光の移ろいによって彫刻的な深みを持つべきだと考えています。

光を「編む」ルーバー、空を「切り取る」吹き抜け

では、具体的にどうやってその「深み」をつくるのか。そこで登場するのがルーバーと吹き抜けです。

ルーバー(格子)は、私にとって「光のフィルター」です。直射日光をそのまま入れるのではなく、一度遮り、細かく裁断して室内へと導く。それはまるで、エリック・サティの『ジムノペディ』が静かに空気を震わせるように、空間に一定のリズムをもたらします。外からの視線を遮りながら、風と光だけを通す。この「境界の曖昧さ」こそが、都市における開放感の正体です。

一方、吹き抜けは「垂直の呼吸」です。都市の密集地では、水平方向に窓を開けても隣家の壁しか見えないことが多い。ならば、視線を空へと解き放つ. 上部から降り注ぐ光が、ルーバーを通って1階の床に長い影を落とすとき、その家は単なる「寝起きする箱」から、季節を映し出す「観測装置」へと変わります。

【本音Q&A】読者の「気になる」に建築家が答えます

noteのフォロワーさんから寄せられた、光と影の設計に関するリアルな質問に、忖度なしでお答えします。

Q1. 吹き抜けをつくると、冬場が寒いと聞きますが本当ですか?

A. 昔の断熱性能が低い家なら正解ですが、今は違います。むしろ、吹き抜けは「熱の循環路」として機能します。高断熱・高気密を前提に、シーリングファンで空気を動かせば、家全体の温度差を最小限に抑えることができます。私が提案するHouse Designでは、この熱環境のシミュレーションをロジカルに行い、「開放感と暖かさ」の両立を実現しています。

Q2. ルーバーは掃除が大変そう。メンテナンスはどう考えればいい?

A. 確かに、水平のルーバーは埃が溜まりやすいですね。そのため、私は「垂直ルーバー」を多用したり、メンテナンスしやすい素材(アルミや高耐久の人工木材)を選定したりします。また、手の届かない場所には無理に設置せず、光の効果を最大化できるポイントを絞って設計します。「美しさと手間」のトレードオフをどう着地させるかが、建築家の腕の見せ所です。

Q3. 小さな家でも吹き抜けは有効ですか? 面積がもったいない気がして…。

A. 逆です。「小さな家こそ吹き抜けが必要」なんです。床面積という「数字」を優先して天井を低く抑えるよりも、体感的な「容積」を広げる方が、圧倒的に豊かな暮らしになります。かつて私が担当したプロジェクトでも、限られた敷地で施工実績にあるような縦の広がりを持たせた結果、施主様から「実際の広さ以上に自由を感じる」という声をいただきました。

建築という「アート」に住まうということ

私が以前手がけた、香川の香川住宅設計の事例(プライベートリゾートをイメージした住宅)では、吹き抜けの下に水盤を設けました。光がルーバーを抜け、水面に反射し、その揺らぎが白い天井に映し出される。その光景は、もはや建築というよりはインスタレーションアートに近いものでした。

建築家としての私の仕事は、単に「丈夫な壁」を作することではありません。そこに住む人が、ふとした瞬間に空を見上げたり、壁に落ちる影の美しさに足を止めたりする「心の余白」を設計することです。プランテック時代に携わったソニーシティのような大規模建築でも、今の個人住宅でも、根底にあるロジックは同じ。「なぜその光が必要なのか」を突き詰めることです。

まとめ:あなたの人生に、どんな影を落としたいですか?

日本の住宅が30年で壊される運命にあるのだとしたら、その30年を「ただの消費」で終わらせるのはあまりにもったいない。光を編み、影を飼い慣らす。そんな住まいには、時間が経つほどに愛着が増していく「情緒的な耐久性」が宿ります。

もしあなたが、今の住まいに「閉塞感」や「平坦さ」を感じているなら、一度後悔しない家づくりの視点から、空間のボリュームを考え直してみてはいかがでしょうか。光の入り方ひとつで、日常は劇的に変わります。

私たちのスタジオでは、東京と香川の両方で、こうした「光の設計」に関する対話を大切にしています。具体的な悩みがある方も、まだイメージが固まっていない方も、まずは問い合わせから、あなたの理想の「光」について聞かせてください。

建築は、人生というドラマを映し出すスクリーンのようなものです。最高の配光で、あなたの物語を彩るお手伝いをさせていただければ幸いです。

いいなと思ったら応援しよう!