[ライブレポート]かわさきジャズ10th Anniversary GRAND FINALE produced by Eric Miyashiro
「ジャズは橋を架ける」のテーマのもとに開催されてきた「かわさきジャズ2024」のフィナーレを飾るコンサートは、エリック・ミヤシロ率いるスペシャル・ビッグバンドと、昭和音楽大学Lily Jazz Orchestraの2つのビッグバンドの共演という、レアな企画。めっきり秋も深まり抜けるような青空が広かった11月24日、昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワで開催された。

収容人員1,367席の大きなホールがほぼ満員。第1部は昭和音楽大学Lily Jazz Orchestra、第2部が第一線ミュージシャンによるスペシャル・ビッグバンド。それにゲストが加わって、デュオやソロもあり、曲もスウィングからフュージョン、ファンクまで、さまざまな組み合わせで聴衆を楽しませてくれた。
第1部、開始時刻ぴったりに、鐘の音を合図に昭和音大Lily Jazz Orchestraのメンバーがステージに登場すると大きな拍手。ややあって指揮のエリック・ミヤシロが現れるとさらに大きな拍手。
エリックの指揮で元気よく「Cute」の演奏が始まる。アップテンポでノリのいいスウィング。このオーケストラ、柔らかい音で、音が揃っていて大変レベルが高いのに驚く。サックス、トロンボーンのソロも柔らかな音。彼らが将来、日本のジャズを支えると思うと心強い。

続いてエリックが挨拶。「未来を担うみなさんと現代最高峰の人たちによるコンサート」と説明して、ゲストの塩谷哲を迎え入れる。鋭いピアノの一撃から始まったのはチック・コリアの「Got a Match」。ピアノとドラムスだけで始まり、すぐバンドがフルボリュームで加わる。その熱量に負けない塩谷のピアノが炸裂。曲の要所要所にあるキメがエリックの合図でビシッと揃うのが小気味良い。若い才能の発露に客席から大きな拍手。
今日の2人のゲスト、塩谷と小沼はデュオ活動を行っていて「オヌシオ」と呼ばれている。ここでLily Jazz Orchestraの皆さんがはけて、デュオで塩谷のオリジナル「Delicious Breeze」。この2人は息がぴったり合って、まさにインタープレイの極致。会場からはこれまでにない大きな拍手が寄せられる。

次は塩谷のピアノソロでオリジナル「A Brand New Day」。元気な子が野山を駆け回るように自由なピアノ。粒立ちが良く、強弱のアクセント、静と動の組合せが絶妙。ドラマを見ているような気分になる。続いて小沼のギターソロで「Flyway」。渡り鳥の飛路のこと。スポットライトが丸く照らす中、和な感じもする和音からルバートで静かに始まる。和音を重ねていって、徐々にリズムが出てくると足でトントンと床を叩いてリズムを取る。それがデクレッシェンドして再び繊細な音になり、静かに終わると会場から大きな拍手が起きる。1本のギターでいろいろな景色を見せてくれる。

ここでLily Jazz Orchestraの皆さんが再び登場、小沼とのコラボレーション。エリックが次の曲名を「Assassin」と告げて、演奏が始まったのはなんと「Happy Birthday」。ちょうど今日が小沼の誕生日で、エリックがステージ上でプレゼントを渡し、会場も一緒に誕生日をお祝いする。一気に和やかな雰囲気になる。

「Assassin」はファンファーレで始まり、超スピードのファンクビートで、ビッグバンドと小沼のカッティングギターの共演が繰り広げられる。最高に盛り上がって会場は興奮の渦。割れんばかりの拍手の中、小沼がはけるときにプレゼントをステージ上に置き忘れて、取りに帰ってきたので会場から笑いがこぼれる。
ここでエリックがメンバーを一人ひとり紹介する。昭和音楽大学Lily Jazz Orchestraは山野ビッグバンドコンテストで昨年1位、今年2位に輝いたバンド。エリックの息子もトランペットセクションに加わっている。第1部の最後はそのコンテストで演奏された曲、「Dream Chaser」。高速ファンクビートで始まり、落ち着いたビートになったりまた高速ビートになったり、組曲のように場面転換があって飽きさせない。最後はLily Jazz Orchestraのメンバーが全員ステージの一番前に整列して演奏。これは壮観だった。メンバーのご家族も会場に見えているだろう、晴れ姿を披露できる貴重な機会ともなった。

第2部は日本最高峰のミュージシャンによるスペシャルバンドで、最初の曲はメイナード・ファーガソンの「Knee Deep in Rio」。さすが、音にゆとりと厚みを感じる。エリックのトランペットのハイトーンが鋭く迫り、川口千里のドラムスが炸裂する。この音の洪水に会場の興奮が一気に増す。終わるとオオ、という歓声と大きな拍手。


エリックがMCでビッグバンドの歴史と楽器編成について語る。これは普段ジャズを聴きなれないお客さんにも親切だ。カウント・ベイシー・バンドのライブラリから、1952年に録音された曲、「Back to the Apple」。超アップテンポのスウィング。トランペットセクションはミュートを上下させて音に変化を付ける。1940年代のジャズはこうだったのだろうな、と思うスウィンギーな演奏。
年代が1950年代後半に進んで、インプロヴィゼーションが重視されるようになる。サド・ジョーンズがカウント・ベイシー・バンドから独立して、サド・ジョーンズ&メル・ルイス・バンドを設立。そのレパートリーから「Lowdown」。スウィングだが前の曲よりテンポが落ち着いて、モダンなサウンドになる。中川のトロンボーンソロに続いて、エリックが手で合図してトロンボーンとバンドが交互に演奏し、曲の随所にあるキメがビシッと決まるのが気持ちいい。

次はミュージカル『West Side Story』から「Something’s Coming」。原曲はマーチだったが、デイヴ・グルーシンが自らのバンド向けにアレンジしたバージョンで演奏。ピアノトリオでのイントロから、3拍子の洒落たアレンジ。ブラスセクションの輝かしい響きが会場に満ちる。やがて潮が引くように静かになって、ゆっくりした4拍子になり、テナーの米澤美玖が美しい音色でソロを取る。最後は静かにピアニシモで終わる。

1960年代、ロックとジャズが融合してフュージョンになる。代表的なフュージョンバンドT-SQUAREで活躍した本田雅人が、NuRADというウィンド・シンセサイザーを持って、ビッグバンドをバックに、今や吹奏楽の定番曲となっている「宝島」などを作曲したキーボーディスト、和泉宏隆の曲をメドレーで演奏。「TAKARAJIMA~Omens of Love」。この楽器は笛のような独特のヌケのいい音色。懐かしいフュージョンサウンドが現代に蘇った。

次は塩谷が加わって、スティービー・ワンダーの「Overjoyed」。ラテンアレンジで、塩谷のピアノソロが美しい音色。バンドの一糸乱れぬアンサンブルを会場全体が食い入るように聴き入る。時間の経つのを忘れて音楽に没頭できる貴重な場だ。
塩谷がはけて小沼が加わり、次の曲は「Moai’s Tihai」。川口が叩くノリのいいビートに乗って、バンドの演奏とソロの演奏が絶妙に組み合わさる。そのアレンジが素晴らしい。本田のアルトが絹を裂くようなハイトーンを聴かせ、一転静かになって小沼のギターソロがタブラのような音を響かせ、再び一気にビッグバンドが分厚いアンサンブルを奏でる。強弱のアクセントがドラマチック。
ラストはエリックがメンバー全員を紹介して、元気に「Lingus」。ユニゾンのテーマが煌びやかに響き、それがハーモニーになっていく。拍子も変拍子からいつの間にかスウィングに変わる。本田と米澤が交互にソロを取り、バトルを展開する。最後は川口の壮大なドラムソロ。これには大歓声が巻き起こる。

鳴りやまぬ拍手。アンコールに応えて、再びLily Jazz Orchestraのメンバーをステージに上げる。楽器ごとに先輩と交互に並ぶ。一挙に倍の人数になったビッグバンドに塩谷、小沼も参加して、定番曲「Spain」。客席から自然に手拍子が起きる。若手とベテランの出会う機会が限られている中で、これは学生さん達にとってトップミュージシャンと隣同士並んで演奏できる貴重な機会となった。

さらに続けてエリックが、もう1曲やろう、とダブルビッグバンドに声を掛ける。曲は「Birdland」。今度はバンドの全員が一人8小節ずつソロを取る。学生さんと先輩が合わさって、サックスセクションが9人、トロンボーンセクションが8人、トランペットセクションが9人、それにピアノ、キーボード、エレクトリックベース、ドラムス、パーカッション、すべてソロを取り終わると、最後にエリックが輝かしいハイトーンで締めくくる。滅多に聴けない超豪華サウンドに、会場みんなが手を高く上げて惜しみない拍手を送る。まさにグランドフィナーレに相応しいエンディングだった。





三々五々帰る人たちはみな、満ち足りた表情を浮かべている。第1部で演奏したLily Jazz Orchestraの皆さんが、将来、世界で活躍する第一線ミュージシャンとして第2部のステージに立つ日も遠くないに違いない、と思いながら、余韻を胸に会場を後にした。
Text:Ikeda Nori(かわさきジャズ公認レポーター)
Photo: Tak. Tokiwa
●公演情報
かわさきジャズ10th Anniversary
GRAND FINALE produced by Eric Miyashiro
日時:2024年11月24日(日)開演15:00
会場:昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワ
出演:エリック・ミヤシロ(cond、tp、プロデュース)、本田雅人、渡邉瑠菜(以上、a sax)、庵原良司、 米澤美玖(以上、t sax)、鈴木圭(b sax)、具志堅創、川上鉄平、山崎千裕、斎藤凜太郎(以上、tp)、中川英二郎、藤村尚輝、笹栗良太、高井天音(以上、tb)、中川就登(p)、川村竜(b)、川口千里(drs)、昭和音楽大学Lily Jazz Orchestra 他
〔GUEST〕塩谷哲(p)、小沼ようすけ(g)
SETLIST
[1st] Lily Jazz Orchestra & ゲスト
1. Cute / Lily Jazz Orchestra
2. Got a Match? / 塩谷哲 & Lily Jazz Orchestra
3. Delicious Breeze / 塩谷哲+小沼ようすけ
4. A Brand New Day / 塩谷哲
5. Flyway / 小沼ようすけ
6. Assassin / 小沼ようすけ & Lily Jazz Orchestra
7. Dream Chaser / Lily Jazz Orchestra
[2nd] スペシャルビッグバンド
8. Knee Deep in Rio
9. Back to the Apple
10. Lowdown
11. Something's Coming
12. Izumi Medley(宝島〜オーメンズ・オブ・ラブ)
13. Moai's Tihai w/小沼ようすけ
14. Overjoyed w/塩谷哲
15. Lingus
== ENCORE==
EN1: Spain
EN2: Birdland
