ロマンスが足りない【アマノ文筆クラブ】
──ロマンスが足りない。
高校に入学して一ヶ月。きちんと勉強した甲斐があった。
クラスには、上品で賢そうな女の子がいっぱいなのだ。
みんなカワイイ。
なんとか、僕の彼女にならないものか? できたら、高嶺さんか白鳥さんがいいのだが……。
「あのねぇ。
ああいう、キラキラなスポーツ系女子は、文芸部のメガネ君とは付き合わないの。」
「……一理ある。まあ、僕としては、カワイイ女の子ならそれでいい。」
「あたしでもいいの?」
「桃香? 桃香は……。」
桃香は、おなじマンションに住んでいるおなじ年の女の子だ。
おなじ塾に通い、おなじ高校へ来て、おなじ文芸部で、おなじクラスで席が隣なのだ。
僕が言葉を濁すと、桃香はあからさまに不機嫌になった。
「なに? なんなの?」
「顔はいいけど。桃香のことは知りすぎてるから。」
一瞬、顔が緩んだのを僕は見逃さなかった。
桃香は自分の外見を貶されたと勘違いしただけで、そこをフォローすれば平気だ。今も不機嫌なフリをしているが、『顔はいい』と言われて、もう機嫌は直っている。実にわかりやすい。
僕は続けた。
「恋愛って、知らない相手を開拓する過程だと思うんだよ。」
「あたしのことは、もう隅々までわかった?」
「そうじゃないけどさあ。」
桃香はふくれっ面をして見せているが、目は笑っている。
「怒った。ドトールでプリンをおごってくれないと、もう許さない。」
「ええ……。」
「いいでしょ? 期間限定のやつ。食べたいと思ってたの。」
桃香は僕の手を掴んだ。桃香のくせに、ドキリとするほど柔らかい指。
僕はそうやって、今日も桃香とドトるのだ。
──ああ、ロマンスが足りない。
完
参加させていただいたのはこちら。
